昆蟲.ニューシリーズ
Online ISSN : 2432-0269
Print ISSN : 1343-8794
21 巻, 1 号
選択された号の論文の30件中1~30を表示しています
〈巻頭言〉
〈日本昆虫学会創立100周年記念特集〉
〈招待論文〉
  • 前藤 薫
    2018 年 21 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2018/03/05
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル フリー

    日本昆虫学会は,1917年に「東京昆蟲学会」として創立されて100周年を迎えた.本稿では本会の歩みを,昆虫学の自由な発展を希求した創立期から,戦後復興をへて,日本列島にムカシトンボを配した会章を制定するまでの40年間;学会活動の活性化とより一層の民主化を行い,京都で共同開催した国際昆虫学会議の成功をへて,日本応用動物昆虫学会との合併による新学会の設立を模索した40年間;そして合併不成立ののち,英文誌の多様化と国際化,若手会員を支援するための学会改革,国内の関連学会との連携強化等に取り組んできた最近の20年間に分けて,それぞれの時代を概説する.本会は2017年に一般社団法人に成ったが,会員数の漸減が避け難いなか,本会の活力を養うために当面為すべき幾つかの課題についても議論する.

  • 野村 周平
    2018 年 21 巻 1 号 p. 14-26
    発行日: 2018/03/05
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル フリー

    我が国における昆虫学の状況の中で,昆虫形態学は体系学または系統学の中での存在感を失ってきたように見える.しかし一方で,昆虫形態を詳細に観察し,記録し,検討することのできるツールは着実に進化している.マイクロフォーカスX線CT(通称マイクロCT)は,昆虫の微細な内部形態を非破壊的に観察し,記録することのできる革新的な技術である.例えば,カブトムシの飛翔筋,セミの♂の発音器や♀の卵巣,また虫入りコハク中の昆虫化石までも,その形態を詳細に観察,記録することができる.昆虫の表面微細構造を観察する方法としては,走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)がすでに普及している.しかし近年,乾燥試料ではなく,新鮮な(水分を多く含んだ),あるいは生きている試料さえSEM観察することのできるナノスーツ法®や,100,000倍以上のSEM観察を可能にする電界放出型SEM(FE-SEM)が登場してきた.これらはこれまで十分に研究されていない昆虫のサブセルラー(細胞未満の)構造をより自然な状態で観察することのできる強力なツールである.このような方法によって記録された昆虫内部の,または表面の微細構造の画像は,昆虫研究者ばかりでなく,昆虫の構造をヒントに新たな工学技術を開発しようとするバイオミメティクス(生物模倣技術または生物規範工学)の研究者にとっても極めて有益である.科学分野間の言葉の壁を超えて,このような昆虫の微細形態画像をきわめて簡便に比較解析するツールとして,「画像検索システム」が開発されつつある.これらの新しい技術を開発し,活用することによって昆虫形態学は,昆虫の進化をさらに研究し,よりよく理解する新たな時代の,大きな潮流となる可能性がある.

  • 沼田 英治
    2018 年 21 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2018/03/05
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル フリー

    本稿では,石井象二郎(編)『昆虫学最近の進歩』が刊行された1981年以降の昆虫の生理学と行動学の進歩を,内分泌学と生物時計,季節適応分野について,とくに日本人が関与してきた研究を選んで紹介し,今後の展開についての期待を述べる.この時期,生理学に著しい進歩がもたらされた大きな要因の一つは,分子レベルの技術の発展である.一方,行動学については,かつて「種にとっての意味」で説明されていた行動の進化が,遺伝子淘汰の考え方で説明されるようになったことが大きな変化である.日本では,“Selfish Gene”と“Sociobiology: The New Synthesis”の邦訳が1980年代に出版されたことが,その契機となった.今後,ゲノム編集など,さらに新しい分子レベルの技術が生理学や行動学に適用されることにより,これらの学問はさらに発展するに違いない.しかし,その発展にともなって深くメカニズムを追究する分野と生態的意義を明らかにする分野が乖離することが危惧される.昆虫を対象とするあらゆる学問分野を包括する日本昆虫学会には,このような乖離を防ぎ,異なる学問分野間の対話を促す役割を期待したい.

  • 秋元 信一
    2018 年 21 巻 1 号 p. 37-47
    発行日: 2018/03/05
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル フリー

    本稿において,日本昆虫学会で行われてきた,ここ20年ほどの生態に関わる研究の動向と将来の見通しについてまとめた.日本昆虫学会の主要ジャーナルであるEntomological Scienceにおいて,生態関係の論文は25%から64%へと比率を高めてきた.生態関係の論文をタイプ分けしたところ,生活史や社会性昆虫を取り扱う論文の割合が年とともに減少したのに対して,行動や種多様性を扱う論文の比率は増加してきた.近年注目が集まっている,外来種や保全関係の論文は未だ高い割合には至っていない.今後に注目すべき生態研究の分野として,1. 種子,果実,ゴール,落枝に入り込む昆虫の群集構造の分析,2. 寄生昆虫による寄主の操作の行動学,3. 寄主範囲の決定と性的干渉,4. 性選択や性的対立の観点からの交尾器形態の進化を取り上げた.

  • 矢後 勝也
    2018 年 21 巻 1 号 p. 48-58
    発行日: 2018/03/05
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル フリー

    これまで日本昆虫学会が保全生物学・自然保護に果たしてきた成果・役割について概説した.その内容は以下の通りである:1)英文誌「Entomological Science」には,2016年までに保全生物学やこれに関連する論文・短報が約60本掲載されており,しかも年々増加傾向にあった.特に学会賞が授与されたInoue(2003)やKitahara and Fujii(2005)による研究では,保全生物学分野の重要性が高く評価されている.和文誌「昆蟲(ニューシリーズ)」でも保全生物学関連の論文・報文等が40本程度掲載されている他,年次大会でも毎年多くの発表が行われるなど,本学会は保全生物学・自然保護に関する研究発信の場を長く提供してきた.2)1966年の自然保護委員会の創設以来,本学会は自然保護に深く関わってきた.年次大会での本委員会主催の自然保護シンポジウム・小集会の開催の他,環境省レッドリストやレッドデータブックに寄与し,侵略的外来種への対応でも強く発言してきた.優先保全地域を提示した「昆虫類の多様性保護のための重要地域」シリーズの発行は本委員会最大の功績として挙げられる.また,様々な環境問題に対して国・地方自治体等に要望書を提出してきたことも注目すべきである.3)与那国島でのヨナグニマルバネクワガタや希少な水生昆虫の保全,ゴイシツバメシジミやツシマウラボシシジミのような希少チョウ類の保全など,本学会や他学会からの要望書により実際に進められた絶滅危惧昆虫の実践的な保全活動とその後の成果等も紹介した.

    その一方で,日本昆虫学会が保全生物学・自然保護に資するべき今後の役割や展望として,研究を主体とした科学的データの提供だけでなく,希少昆虫の回復,保全活動の推進,環境教育の普及などの社会貢献にも供することが必要であることを述べた.具体的には下記の通り:1)希少昆虫の絶滅を招く様々な環境問題に対して,これまで以上に速やかに対処し,科学的知見から得られたデータに基づいて該当機関に要望書を提出したり,学会ホームページや学会機関誌に要望書の内容を公開発信することが重要となる.2)生物多様性条約等の世界情勢も鑑みて,国内希少野生動植物種の昆虫の指定数および指定割合も増える可能性が高く,学会等の意見・対策が一層要求される.3)環境省「種の保存法」の一部改定で「特定第二種国内希少野生動植物種」制度の導入が決定されたが,この制度を機能させていくためには,本学会発行の「昆虫類の多様性保護のための重要地域」シリーズを含む科学的な基礎情報の提供や実践的な保全活動への寄与が必須となる.4)今後の希少昆虫保全のあり方を考える上で,本学会への社会的要請がより強く求められることが予想される他,侵略的外来種等にも迅速に対応するネットワークの構築が急務であり,他の専門機関と連動した新たな体制が不可欠となるだろう.

  • 上田 恭一郎
    2018 年 21 巻 1 号 p. 59-69
    発行日: 2018/03/05
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル フリー

    明治以降の日本の博物館の歴史を振り返ると,教育・展示部門に主力を置いた教育博物館としての役割が顕著であり,資料収集,保存・整理,研究,教育・展示といったバランスのとれた博物館活動を18世紀末には確立した欧米の博物館の歴史とは異なることが指摘される.欧米の博物館が昆虫学の発展へ貢献してきたことは,1)歴史的標本の保存機関,2)分類学を支える保存機関,3)研究された資料の保存機関,4)収集資料の研究機関,5)展示・教育機関といった形でまとめられるが,日本の博物館ではこれまで不十分であった.その原因は主に資料が十分に収集されてこなかったことにあるが,高度経済成長の時代を経て,国内外での資料収集活動が活発化し,国内に多くの実物資料・文献が保存されるに至った.組織的にも博物館の活性化は進み,国立科学博物館の充実,地方での大型館の建設,大学博物館の新設が相次いだが,現場スタッフ数の少なさ,依然として展示に重きを置くことに主因がある狭隘な収蔵庫の問題は残っている.他方ネット環境の充実は,国内外での研究協力体制を刷新し,博物館においても研究に関する多くの情報が入手しやすくなった.上述した昆虫学の発展への貢献が日本の博物館においても期待される時代を迎えたと思われる.

  • 河上 康子
    2018 年 21 巻 1 号 p. 70-82
    発行日: 2018/03/05
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル フリー

    昆虫学をふくむ自然史科学は,アマチュアにもはたすことのできる役割が存在する学問である.その貢献の最たるものは,科学的基礎データとしての地域ファウナの解明と公表であろう.実際日本では,北海道から沖縄まで82の研究会・同好会(http://www7b.biglobe.ne.jp/~jpcat/dokokai.html)が古くから活発に活動し,知見を残す努力を継続してきた.さらに研究をふかめたアマチュアは,新種の記載論文の公表を主とする形態分類学の分野で,プロの研究者とともに記載の仕事を推進してきた.

    また筆者は2003年以降2017年まで,テントウムシ科の斑紋多型に関する研究を続けている.その過程で,何を調べるためにどのようなデータをとるかという実験デザインと,得られたデータをどのように扱えば知りたい現象が可視化できるかというデータ解析には,プロの生態学者の助けが必須だった.プロの後ろ盾をもらい,また様々な学会に参加して勉強を積むことができれば,論文を公表し生態学への貢献をはたすことが,ささやかではあっても可能であると感じている.

  • 2018 年 21 巻 1 号 p. 83
    発行日: 2018/03/05
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル フリー
〈原著論文〉
  • 末吉 昌宏
    2018 年 21 巻 1 号 p. 85-100
    発行日: 2018/03/05
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル フリー

    シイタケ栽培地域の植生がキノコバエ類群集に及ぼす影響を明らかにするため,森林内の植生とキノコバエ類群集を調査した.また,菌床栽培施設のキノコバエ類群集を森林内のそれと比較した.大分県日田市内の菌床栽培施設3ヶ所,スギ・ヒノキ林9ヶ所(ホダ場3ヶ所を含む)および広葉樹林8ヶ所(ホダ場2ヶ所を含む)を調査地として,林内調査地の各所に10 m四方の1方形区を設置した.方形区内の胸高直径50 mm以上または樹高2 m以上の樹木の種と幹数,腐朽木体積,林床被度を記録した.マレーズ式トラップなど6種類の方法で採集されたキノコバエ類の属を単位とした非計量多次元尺度法による群集解析の結果は森林内の樹種構成や腐朽木量によってキノコバエ類群集が異なることを示した.原木シイタケ害虫であるナカモンナミキノコバエの分布はスギ・ヒノキ林ホダ場に集中していたため,生産現場で効果的に防除を行うことで被害が軽減すると考えた.森林内の根返りはシイタケトンボキノコバエの生息場所となっている可能性があるため,根返りが多く発生している林分に隣接する生産現場は警戒を要する.

〈新記録ノート〉
〈グラビアシリーズ〉
新刊紹介
feedback
Top