遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分(ABS)を定めた名古屋議定書は,国外で採集された標本を研究で使用する際に順守する必要性があることから,研究者の間で近年注目されている.しかしながら,遺伝子資源提供国間で規制内容や運用方法において統一された基準がないため,国によって順守すべき手順が異なっており,海外産の標本を用いた研究を進める際,研究者の間で混乱が生じているのが現状である.前稿では,インドネシア,ラオス,そしてフィリピンの動植物において,ABS関連の手続きを適切に完了し,サンプルを国内へ輸入できた事例を報告した。本稿では,ベトナムとスリランカにおいて,ABS関連の手続きを適切に完了したうえで,国内にサンプルを輸入できた事例を報告する.同時に,各事例における,必要書類,許可申請先の機関に関する情報に加え,ABSに関する手続き全体を示したフローチャートを提供する.本報告によって,将来の研究者が複雑化するABS手続きに直面した際,可能な限り迅速に必要な手続きを進めることが可能になると期待される.
前稿と同様,本稿の内容について不明な点や更に詳しく知りたい点がある場合は,本稿の責任著者(Francesco Ballarin: ballarin.francesco@gmail.com),あるいは本連載の企画者である東京都立大学牧野標本館ABS支援チームの江口克之(antist2007@gmail.com/antist@tmu.ac.jp)へご連絡いただきたい.
ABSを取り巻く状況は変化している。ここで提供する情報の軽微な更新は、国立遺伝学研究所ABS学術対策チームのABS事例集(https://idenshigen.jp/database/genetic-resource-casestudies2/)で、大幅な更新は本連載の関連記事で報告する予定である。
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