昆蟲.ニューシリーズ
Online ISSN : 2432-0269
Print ISSN : 1343-8794
7 巻, 2 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
  • 山岸 健三
    原稿種別: 本文
    2004 年 7 巻 2 号 p. 39-54
    発行日: 2004/06/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    タマゴクロバチ科(Scelionidae)は昆虫綱,ハチ目に属する卵寄生蜂で,すべて昆虫の卵ないしはクモの卵に寄生し,それらの一部は農業害虫の天敵として知られている.本科は分類学的研究が遅れているため日本から33属70種が知られているにすぎないが,著者は数百種類が存在するものと予想している.農業生態系における寄生蜂類の属構成や種多様性を調べることは,農耕地における害虫の管理と,「里山」における生物多様性の評価のために重要である.本報告は,東海地方の農業生態系におけるタマゴクロバチ科の属構成についての最初の報告である.本研究ではマレーズトラップ(MT),イエローパントラップ(YPT),エマージェンストラップ(EmT)の3種類のトラップを農耕地や森林に設置し,年間を通して昆虫を捕獲した.調査地点として,東海地方の畑,水田,ならびに類似環境を選んだが,主要な調査地点は愛知県春日井市鷹来の名城大学農学部附属農場である.また,農耕地と対比するため,愛知県内の落葉性二次林で採集されたタマゴクロバチ類も分析した.[photograph]これまでに約1万個体の標本を調査した結果,次のようなことが明らかになった.寄生蜂の科レベルでの分析では,寄生蜂の個体数の中に占めるタマゴクロバチ科の割合が,落葉性二次林に比べ農耕地のような草原的環境の方がはるかに高かった.タマゴクロバチ科の属構成を分析したところ,今回34属を確認することができたが,このうち5属は日本新記録であった.異なるトラップによって捕獲されたタマゴクロバチ科の比較では,属数では大差がなかったが,属の構成に違いがあり,EmTやYPTのように地表に設置するトラップでは地中に産下された卵を寄主とする属が多く捕獲されることがわかった.農耕地(草原環境)と落葉性二次林での属構成の比較では,農耕地で得られた属数は森林で得られた属数よりもむしろ多く,各属の個体数も安定していた.また,農耕地(草原環境)に特有の属もいくつか確認できた.これらのことから,農耕地におけるタマゴクロバチ科の多様性は森林に比べて勝るとも劣らないものと結論づけられた.草原環境では寄主となるバッタ目昆虫が多く棲んでいるため,それらの卵に寄生するタマゴクロバチ科の属構成も複雑になり,多様性も高くなっているものと考えられる.
  • 石田 直人, 吉安 裕
    原稿種別: 本文
    2004 年 7 巻 2 号 p. 55-68
    発行日: 2004/06/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    ナベブタムシAphelocheirus vittatusとトゲナベブタムシA.nawaeの生活環を前者は京都市の鴨川(賀茂川)で,後者は兵庫県三田市の武庫川での野外調査と京都市下鴨での飼育実験に基づいて考察した.ナベブタムシは調査河川の中流域では1年で1世代であるが,上流域では2年で1世代と考えられる.トゲナベブタムシも武庫川(中流域)では1年で1世代と推定される.両種とも成虫の寿命は少なくとも1年はあり,雌成虫は春期〜初秋に産卵すると思われる.ナベブタムシを長日(15時間照明9時間暗期)の3温度区で飼育し,卵から羽化までの発育所要日数から算出した有効積算温量は1,789日度(発育零点:10.2℃)で,トゲナベブタムシの長日4温度区での飼育結果から算出したそれは2,000日度(発育零点:8.2℃)であった.この2種の生活環は類似していた.また,本研究における2種の調査地の環境は,基本的に底質が中礫を含む砂質および細礫の河川で,pH値が7-10の溶存酸素が多く,流れが比較的速い場所であり,この2種の生息環境に顕著な違いはみいだせなかった.それらの地点には水生植物が生育し,ナベブタムシ類の餌となる他の底生無脊椎動物も豊富であった.
  • 水島 大樹
    原稿種別: 本文
    2004 年 7 巻 2 号 p. 69-71
    発行日: 2004/06/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    Feeding preference of the proturan species Nipponentomon nippon (Yosii) was studied under laboratory conditions on three pathogenic fungi, Fusarium oxysporum Schlecht.: Fr., F. solani (Mart.) Sacc. and Cylindrocarpon destructans (Zinssm.) Scholten, and one saprotrophic fungus, Pestalotiopsis sp. N. nippon feeds on all of these fungi indiscriminatingly, although P. sp. is not a preferred food for the fourth instar larva. Some new features of its feeding behavior, including the restriction of "pump" movement in the abdominal segments VIII-XII during the feeding, are described. It is observed that N. nippon feeds on baker's yeast in a mushy state. This observation suggests that its feeding habits also involve "suspension feeding" reported in the collembolan species.
  • 榊原 充隆
    原稿種別: 本文
    2004 年 7 巻 2 号 p. 73-78
    発行日: 2004/06/25
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    タイワンキチョウEurema blanda arsakia(Fruhstorfer)の,路上に植栽されたモクセンナCassia surattensisにおける蛹化を沖縄県石垣島で観察した.幼虫は顕著な集合性を示した.終齢幼虫は蛹化直前になると寄主植物の先端部を目指して歩行し,また物理的干渉に対しては振動するという反応を示した.幼虫期の集合性,蛹化前期の背地性と個体間の干渉行動によって,幼虫はほぼ均一な間隔を保って蛹化することになった.褐色の蛹が鈴なりになったモクセンナの頂部は別グループの植物の果実が成っているように見えた.蛹化後約1週間で,ほぼ全ての個体が鳥類などに捕食されることなく羽化した.終齢幼虫をハリクチブトカメムシEocanthecona furcellataに与えた場合,本種を他の鱗翅目昆虫より選好したことから,本種にはさほど毒性はなく,鳥類も捕食可能であると推察した.本種の蛹集団が植物の果実や枯れ葉に集団擬態し,鳥類からの捕食を回避している可能性について考察した.
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