桑の紫紋羽病菌
Helicobasidium Mompa TANAKAを罹病桑樹から純粹分離し, 桑樹に対する病原性を確認し, その培養菌糸を用いて培養上の性質について試験した。
1) 滅菌直後の蒸溜水, 再蒸溜水中では移植後30日までは発育しなかつたが, 井水中では発育することを認めた。
2) 2%加糖馬鈴薯煎汁寒天, 同桑皮煎汁寒天, 同蚕蛹煎汁寒天, 醤油寒天, 麹汁寒天, 肉汁寒天, 土壤煎汁寒天の何れにも発育するが, 最も良かつたのは前2者で, 僅かに発育したのは土壤煎汁寒天であつた。寄主 (桑皮) 培地ではよく生育するが, 加糖のものが稍々良好であつた。
3) 本菌の発育は25℃附近で最も良好であつた。
4) 本菌の発育にはpH価6.2から5.0内外の酸性側が良かつた。
5) 本菌の発育は Bouillon, Beef Extract, 1% Pepton等の粗蛋白質ではその濃度の小さくなるほど劣るが, 原液から64倍稀釈までは僅かに発育し卵黄, 卵白では生・煮ともに発育し, その際卵白よりも卵黄, 生よりも煮熟したものが良好であつた。一般に粗蛋白質にはよく発育するが菌叢, 培地の色調は稍々黒味を帯びた褐色を呈する。炭水化物では Starch soluble, Corn starch の20~0.1%, Dextrin, Glycerin, Glucose の5~0.1%は何れも発育するが, 濃度の低下とともに発育は劣る。概して炭水化物では色調は鮮褐色である。粗脂肪では動物性, 植物性ともに発育しなかつた。無蛋白培養液として USCHINSKY液, FRAENKEL液, PROSKAUER u. BECK液及びCOHN液について調べたが, USCHINSKY液で発育最もよく, COHN液は劣る。
6) 気中酸素の存否と発育との関係は, 寒天高層穿刺培養の表面並びに酸素が存在すると考えられる穿刺上半部には発育したが, 内部及び流動パラフィンを注加したものでは発育しなかつた。また酸素を完全に除去したものにも発育しない。過酸化水素を用いたものには発育はしたが空中菌糸は認められなかつた。
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