春切及び夏切後伸長した改良鼠返・一の瀬の枝条に着生する桑葉を実験材料として, 葉柄及び葉身の細胞液屈折率並にその他の生理的性状の着生葉位による変化を測定比較して, 次の結果を得た。
1) 細胞液搾汁前の材料予措法として加熱法と磨砕法とを採用した場合, 葉身では前者に依らなければ搾汁出来ないが, 葉柄は後者によるも搾汁が可能であり, 従つて葉柄に於ける細胞液屈折率の測定は野外で簡単に行うことが出来る。
2) 葉柄細胞液に於て, 材料予措法として磨砕法によつた場合と加熱法によつた場合並に搾汁法として圧搾器を用いたときと手圧によつたときとの屈折率を比較すると, それぞれ屈折率の絶対値には幾分の開きがあるが, この値の着生葉位による変化の模様は何れの方法によるも略同様である。従つて葉柄は磨砕法でしかも手圧による搾汁によつても, 細胞液屈折率の比較の場合相当信頼し得る値が得られる。
3) 葉柄細胞液の屈折率は若葉に低く, 着生葉位が下つて成熟した葉になるに従つて次第に値が大となり, 更に下方の老葉になると再び低下する。葉柄の細胞液屈折率は葉身のそれよりも各葉位共明かに低く, また生長を完了した成葉では葉身の細胞液屈折率は各葉位に於ける値の変化が少く比較的安定した値を示すのに, 葉柄では成葉でも葉位が下れば次第に上昇する。
4) 葉柄の組織含水量は葉身のそれに比して著しく多く, 葉柄の組織含水量の着生葉位による変化をみると, 生長期にある若葉に少く, しかも葉位が下るに従つて次第に上昇し, 生長を終つた成葉では高い値を示し, 更に葉位が下つて老葉となると次第に低下し, 葉柄組織含水量の着生葉位による斯る変化は葉身のそれと殆ど逆である。これ等の実験結果は葉柄が一種の水分貯蔵器官として働いていることを示している。
5) 成葉の各葉位に於ける組織含水量・細胞液屈折率及び修正細胞液濃度の測定値の平均値を求めると, 葉柄の組織含水量は葉身のそれに比し著しく大で, 細胞液屈折率は明かに低い。これは葉柄では組織中の可溶性物質が多量に含有される水分の為にうすめられている為と推定される。組織含水量の影響を除外した修正細胞液濃度は葉柄の方が葉身より明かに大で, 葉柄組織の水分保有力が著しく大であることが示されている。
6) 葉柄細胞液屈折率の絶対値並に着生葉位による変化は葉身のそれと幾分趣を異にするが, 両者は共に若葉に低く, 成葉に高く, 老葉に低いこと, 及び生育の階段を異にする桑樹の成葉に於ける測定値を互に比較した場合, 成葉葉身の細胞液屈折率が高い場合には, 葉柄のそれも高い。従つて葉柄に於ける屈折率によつて或る程度葉身のそれを推定することが出来る様である。
以上により, 桑葉葉柄に於ける細胞液屈折率の測定は圃場で簡単に行うことが出来, 桑葉葉質判定の一方法として利用し得る様であるが, この場合葉柄が水分貯蔵器官的に働いていることを考慮において, 葉柄細胞液の測定結果を考察すべきである。
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