桑品種一ノ瀬のさし穂を用いて, 冬芽および脱苞芽にγ線 (5~15KR, 線量率5KR/h) を照射し, 発芽の過程に生ずる生長円錐の組織学的な障害の発生や各層位の細胞における多糖類および蛋白質の分布の変化などを観察し, 大要つぎのような結果をえた。
1) 冬芽の生長円錐では, 各層位における物質の分布の差異は明瞭ではないが, 脱苞芽ではcentral meristemとsubapical initialの一部には多糖類の顆粒の集積が認められた。
2) 生長円錐における多糖類と蛋白質の分布に対するγ線照射の影響を, 冬芽と脱苞芽について比較したが, 冬芽に照射した場合には, 発芽の過程で形成される多糖類の顆粒は少なく, また, 蛋白質の反応も弱かった。これに対し, 脱苞芽に照射した場合には, subapical initialの蛋白質の反応は消失したが, 多糖類の顆粒は認められた。
3) γ線による障害を受けて蛋白質の反応を消失した細胞の生長円錐における分布は, 冬芽に照射した場合と, 脱苞芽に照射し場合とではちがっていることが認められた。すなわち, 前者では, 蛋白質の反応を消失した細胞が点在していたのに対し, 後者では, 細胞群に蛋白質の反応の消失が認められた。
4) 蛋白質の反応が強く認められたsubapical initialには, 細胞の崩壊現象がしぼしば認められたが, このことは, 蛋白質の合成過程の放射線感受性が高いことを示していた。
5) 生長円錐における多糖類と蛋白質の分布に対する照射線量の影響は, 冬芽に照射した場合には明らかでなかったが, 脱苞芽に照射した場合には, 照射線量の増加にともなって影響は顕著になることが認められた。
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