高温多湿条件下に上蔟した家蚕繭の毛羽部分に見られる異常絹糸を, その延伸状態によって3種に分類し, それぞれ強力伸度を測定すると共に, 希酸処理による膨潤・溶解と表面構造の特異性との関係などから, 異常絹糸の生成・内部構造について考察した。
1, 3種の異常絹糸の中で, 強力は典型的異常絹糸部分が最も小さい。これはこの部分の延伸が最も不十分なためと考えられる。
2. 異常絹糸部分の希酸による溶出量は処理4時間までは直線的に増加するが, その後の溶出量は漸次減少する。
3. 典型的異常絹糸部分はいわゆる非結晶領域が多く, 又フィブリルは繊維軸と30~40°の角度をもっていることが多い. これは不十分な延伸のため部分的に繊維化した後, 未繊維化部分の収縮のために生ずるものと考えられる。
4. やや延伸された異常絹糸部分は光学顕微鏡的には横縞を示さないが, 希酸処理にともなって電子顕微鏡的に横縞を示すようになり, この部分の結晶化が不整一であることは明らかである。
5. 横縞の見られるやゝ延伸された異常絹糸部分はその内部構造においても顕著な横縞を示し, 結晶化の不整一は明らかである。
6. 希酸処理が10時間以上になると3種の異常絹糸部分の表面構造の相違は殆んど認められず, いずれもフィブリルがかなり乱れていることは明らかである。
7. 以上のことから高温多湿条件下に上蔟営繭した家蚕繭毛羽に見られる異常絹糸部分は, カイコが毛羽部分を吐糸する時の牽引力, 牽引速度および延伸率などの不均衡のために生ずるものと考えられる。
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