家蚕の中腸核多角体病ウイルスを用いた実験中に, 多角体の形成状態に異常を呈した個体が見出されたので, ウイルスの継代を行ない観察した結果, 本病ウイルスの変異系と考えられるつぎの2系統を発見した。
B系; 多角体の形成過程に特徴のみられるもので, 病勢初期の円筒細胞の核内に多数の桿状構造物を形成し, 病勢の進行につれて核および細胞質に多角体を形成した。細胞質に形成された多角体の形は稜線が鈍化してかどは丸味を帯び, 大きさはA形のものより小さく, 大きなものでも1辺の長さが10μ内外であった。
C
1系; 円筒細胞の核内に封入体を緻密に形成し, 光学顕微鏡下では核が褐色を呈して観察された。病勢末期には, 円筒細胞の細胞質にも微粒状の封入体が形成されることがあった。
これらの系統が見出されたことにより, 最初に発見された正6面体の大形多角体を形成する系統を中腸核多角体病ウイルスA系と称した。
各系統とも病蚕の外観的症状には差異がなかった。多角体または封入体は, 中腸組織以外の組織では形成が認められなかった。B系多角体, C
1系封入体は60℃の1N-HClで加水分解することによりプロムフェノールブルーその他の色素に好染した。
B系またはC
1系ウイルスの罹病細胞についての電子顕微鏡的観察では, 両系とも円筒細胞の細胞質に球形のウイルス様粒子が認められた。
TCおよび中腸核多角体病の各系統の多角体また封入体を免疫原とした免疫兎血清によるウイルスの中和反応は, 全く交叉的に反応が成立した。
以上の結果から, 中腸核多角体病A系ウイルスはTCの変異系であり, さらにB, C
1両系ウイルスはA系の変異系であると考察した。
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