この報告は, 桑葉における光合成速度と光の強さの関係およびそれらの葉位による変化を明らかにするためにおこなった実験結果をのべたものであり, その結果の概要はつぎのとおりであった。
(1) 光の強さとみかけの光合成速度の関係, すなわち光飽和条件下での光合成速度を100とする各光の強さごとの相対光合成速度は, 葉位による差異がみとめられ, その傾向は弱光域で顕著であった。
(2) 空気中の炭酸ガス濃度が300ppm前後の場合には光の強さが25~35Kluxで桑葉の光合成速度はほぼ光飽和状態に達するが, 光飽和点は若い葉で高く, 古い葉で低くなる傾向がみとめられた。
(3) 葉位別に光補償点, 光合成速度および暗呼吸速度を基準として桑葉を区分すると, 光補償点が比較的高く, 光合成速度はまだ十分大きくないが暗呼吸速度が比較的大きい未成葉, 光補償点が中位にあり, 光合成速度が最高に達し, 暗呼吸速度が低下しはじめる完成葉, および光補償点が比較的低く光合成速度および暗呼吸速度が低下した老熟葉に区分することができる。
(4) 未成葉, 完成葉, 老熟葉について光の強さX (Klux) と光飽和の状態での光合成途度を100とする各光の強さごとのみかけの相対光合成速度Y
2, Y
3, Y
4の間にはそれぞれつぎに示すような関係が成立する。
未成葉
Y
2=X/0.0507+0.0055X-52.8500
(実験式II)
完成葉
Y
3-X/0.0522+0.0062X-36.6833
(実験式III)
老熟葉
Y
4=X/0.0466+0.0069X-26.9567
(実験式IV)
(5) 光の強さ52Kluxにおける真の光合成速度を100として各光の強さごとの相対光合成速度を求め, これと光の強さとの関係をみると相対光合成速度の変動は比較的少なく, 葉位や, 個体による差も少ない。光の強さをX (Klux) とし, 真の相対光合成速度をY
1とすると, つぎの実験式によって示される関係がみとめられた。
Y
1=X/0.0736+0.0084X (実験式1)
(6) 葉位にかかわりなく光―光合成曲線を作成したとき同一の光の強さにおける見かけの相対光合成速度の変動が大きいことは, 主として葉位すなわち葉令にともなう暗呼吸速度の差によるものと考えられる。
(7) 葉令がすすんだ桑葉では, 光の強さの減少に対する光合成速度の低下率が減少し, 光飽和点および光補償点が弱光側に移行し, 陰葉化する傾向がみとめられた。
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