日本蚕糸学雑誌
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42 巻, 1 号
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  • III. ウイルス採取蚕品種別による感染力価の変動
    古田 要二, 鮎沢 千尋
    1973 年 42 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    日124号×支124号より採取したウイルス性軟化病のウイルス (FV) を経口接種すると, 日124号では高い-log LD50, 支124号では低い-log LD50を示すことが知られているが, 支124号で継代して日124号に接種すると (支124号FV→日124号と略す) 支124号に接種した場合より低い-log LD50を示す現象のあることが認められた。この現象の機構を知るために本実験を行なった。得られた結果の大要はつぎのとおりである。
    1) 上記の現象は, 支124号×日124号FVを支124号で1代継代しただけでも認められる。また継代数によって, 支124号および日124号における-log LD50の差が変化することはなかった。支124号FVを日124号で継代すると, 1代で再び元に戻った。
    2) 接種試験において飼育観察期間を長くすると, 支124号FV→日124号の最終-log LD50は他の組合わせのものと大差なくなるが, 斃死時期が遅延することには変りがなかった。
    3) 日124号および支124号の健康蚕磨砕液と支124号および日124号のFVとをそれぞれ混合し, 日124号に接種しても, 混合しない場合の-log LD50に比して差はなかった。
    4) CsCl利用による平衡密度勾配遠心法で精製した支124号FVと日124号FV (以下それぞれ精製FVと略す) との間には, ウイルスの実効密度や大きさ等で認知できる差は存在しなかった。また, 精製ウイルスを用いた経口接種では上記と同様の結果が認められた。しかし, 精製ウイルスを用いた経皮接種では, 支125号FVと日124号FVとの間にはほとんど-log LD50に差異が認められなかった。
    5) 支124号FVと日124号FVとの間には, 供試条件の範囲内では干渉現象は認められなかった。
    6) 支124号FVおよび日124号FVとをそれぞれの抗血清との中和反応では, 両FV間の抗原性にほとんど差異は認められなかった。
    7) 支124号FVおよび日124号FVを接種した支124号および日124号の体内ウイルス増殖曲線は, 日124号×支124号を用いて生物検定した限りではほとんど差はみられなかった。
    8) FVに対する感染抵抗性蚕品種として大造, 黒子および支103号, 感受性蚕品種として支7号, SOおよびmus-1を用い, それぞれ継代のFVを各品種の組合わせにより経口接種したが, 支124号×日124号FV→日124号と支124号FV→日124号との間でみられるような現象は認められなかった。
  • 松井 正春
    1973 年 42 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコ幼虫が軟化病ウイルスに感染すると, 主として中腸盃状細胞の細胞質でウイルスが増殖する。盃状細胞の病理的変化を電子顕微鏡で観察したところ, FV感染初期には, ウイルス粒子は特異的小胞体 (v-vesicle) とともに盃状細胞の細胞質に現われ, これに隣接した部分に electron dense body が存在していた。
    感染中期から末期にかけて, 盃状細胞の細胞質および核内にFV感染によって特異的に現われる構造物を観察した。
    感染末期に生ずる盃状細胞の変性過程を形態的特徴によってとらえ, 円筒細胞内に存在する様々の形態を呈する封入体の多くが盃状細胞の変性物に由来することを認めた。
  • 蒲生 卓磨
    1973 年 42 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    1. 4M尿素を含むpH2.9のポリアクリルアミド・ゲル電気泳動により分離される液状絹タンパク質と, 同一な泳動像を示す繭層セリシンの抽出法を究明するため, ジスルフィド (SS) 結合の還元的開裂により抽出を行なったところ, ほぼ同一な泳動像が示された。
    2. 8M尿素のみによる抽出では, セリシンの1~2の成分が抽出されず, SS結合をもつ2本以上のポリペプチド鎖から成るセリシンの存在が示された。
    3. 熱水による抽出では, セリシンは熱変性により一次構造的に変化を受けたものと考えられる結果が示された。
    4. Ndの繭は正常繭とほぼ同一なセリシンの成分を示したが, さらにNd-sの繭は移動度の速い異なる一種の成分を有していた。
    5. SS結合の開裂により, フィブロインの移動度の速い成分も抽出され, このフラクションはNd, Nd-sと正常繭との間に顕著な差異が示された。
    6. 新らしい触媒系による酸性pHの一層ゲル電気泳動を試みたところ, 液状絹および繭層から抽出したタンパク質は高い分離を示し, フィブロインは2成分に分別されたのに対し, セリシンは8成分以上に分別された。
  • 北野 実, 渡辺 昌
    1973 年 42 巻 1 号 p. 24-33
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    セリシンを土壌改良剤として応用するため, 種々の土壌粘土を供試し, 粘土サスペンジョンの凝集作用と電気泳動におよぼす作用, ならびにセリシン吸着量を測定して粘土粒子への結合機構をしらべた。そしてこれらの結果が土壌の耐水性団粒生成にどのように対応するかを合せて検討し, 土壌改良を目的とした結合物質としてのセリシンの作用特性を検討した。
    1) 粘土粒子とセリシン電荷が異符号の領域では, セリシンの吸着によるζ電位の中和にもとづく凝集が見られる。同符号のpH領域での凝集はセリシンによる架橋結合によるものと考えられ, 凝集効果は各土壌粘土とも現われる。
    2) セリシン等電点のアルカリ側での粘土粒子によるセリシンの吸着は, 粒子の正電荷部位への吸着であると考えられ, 吸着量は土壌粘土の鉱物組成によって異なる。
    3) 土壌の耐水性団粒生成におよぼすセリシン濃度の影響については, セリシンの吸着による強固な粒子間結合による0.25mm以上の有効団粒形成がセリシン濃度が増すほど顕著になる。
  • III. 2突然変異糸統の酵素の比較
    江口 正治, 鈴木 康孝
    1973 年 42 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    家蚕中腸のアルカリ性フォスファターゼアイソザイムの2突然変異系統を用いて酵素を分離, 性質を比較検討し, あわせてそれらの存在意義について考察した。すなわち, 超遠心分画の結果から, F-S+系統は細胞顆粒結合型酵素だけを持つ変異系で, F+S-系統においては大部分遊離型のフォスファターゼが含まれることが明らかになった。セファローズ6Bを用いるカラムクロマトグラフィーによってF-S+系統の酵素は早く, F+S-のものは遅れて溶出し, 両者の溶出曲線の差は極めて明瞭であった。すなわち, 前者は後者よりも高分子として行動している。さらに, 両系統の酵素は基質特異性にも差がみられ, 中腸におけるリン酸代謝のパターンに差があるのではないかと推察した。
  • IV. 消化液と中腸のアイソザイムとの関係
    江口 正治, 鈴木 康孝
    1973 年 42 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    この研究においては, 家蚕消化液のアルカリ性フォスファターゼの性質を調べた後, 中腸組織のアイソザイムに対する消化液の作用を検討し, 次のような結果を得た。
    1. 消化液のアルカリ性フォスファターゼの最適pHは11~11.2で, 中腸のS型酵素のそれに近い。また基質特異性にもS型との類似性がみられた。
    2. 中腸のアルカリ性フォスファターゼについての正常および変異2系統の消化液のアルカリ性フォスファターゼ作用を比較すると, F+S-系統の消化液の酵素作用は極めて微弱であり, フォスファターゼマイナス系統と考えられる。
    3. 中腸のFおよびSアイソザイムに消化液を作用させると, F型はその活性が急激に減少するのに反して, S型の場合はむしろ活性が増加した。すなわち, 中腸組織の両アイソザイムは消化液に対する抵抗性が非常に異なっている。
    4. F-S+系統の中腸の抽出液に消化液を作用させることによって現れるN型酵素はセファローズ6Bカラムによる溶出曲線のピークの位置および電気泳動による易動度が消化液のそれと一致し, 基質特異性は中腸のS型および消化液のフォスファターゼのものと似ている。
    5. 一連の実験から, 中腸組織のアルカリ性フォスファターゼSアイソザイムの一部は分泌型として存在し, 細胞内を輸送されて管腔に達し, 消化液のプロティアーゼあるいはリパーゼの作用によってN型となり, そのままあるいは変化して消化液のアルカリ性フォスファターゼとなるのではないかと推論した。
  • I. 越冬卵の寄生蜂とその地域分布
    伊庭 正樹
    1973 年 42 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    ヒシモンヨコバイの天敵昆虫として, 卵寄生蜂の種類とその地域分布の実態を明らかにするため, 18府県下32地区から採集したクワ枝条を25℃で保護し, 越冬卵における寄生状況を調べた。結果を要約すると次のとおりである。
    1) 各地の越冬卵からホソハネヤドリコバチ科 (Mymaridae) に属する Polynema sp. Chaetomymar sp. Anagrus sp. およびLymaenon sp. の4種の卵寄生蜂が得られた。これらのうち, Lymaenon sp. は1県下の3地区で分布を認めたのみであったが, 他の3種はいずれも10~13府県下の18~22地区で分布を認めた。これらの寄生率は7~90%と各地により差異がみられた。また, Polynema sp. は主に山間地帯または日本海側で, Chaetomymar sp. およびAnagrus sp. の両種は, 主に内陸地帯または太平洋側で比較的高い寄生率を示す傾向が観察された。
    2) これら4種卵寄生蜂のうち, Polynema sp. およびChaetomymar sp. 両種では, 越冬卵の期間中の寄生率に変化はなく, この期間中に発育が著しく進むことが認められた。なお, 枝条内の各部位間に寄生率の差異はみられなかった。
  • 第2報 人工飼料育蚕の繭層セリシンについて
    青木 一三
    1973 年 42 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    人工飼料育蚕と桑生葉育蚕の繭層セリシンについて比較検討し, 次の結果を得た。
    1. 本実験の範囲内において人工飼料育蚕の繭層のセリシン含有率は, 桑生葉育蚕のものと比較してやや少ない値が得られた。また, 親水性のセリシンAの含有率は内外層共に桑生葉育蚕のものが多く, 溶解度も高い傾向が示された。
    2. 人工飼料育蚕と桑生葉育蚕の繭層から抽出したセリシンは, 等電点 (pH3.7~3.8), 赤外吸収スペクトル, X線回折図形共に差が認められなかった。
    3. 両者の示差熱曲線は同じ様な図形を示したが, 分解温度が若干異なり, 人工飼料育蚕のセリシンは桑生葉育のものに比較してやや高い分解温度を示した。そして特に内層のセリシンAの場合は, その差が顕著であった。
    4. 凝集沈殿物から凍結乾燥して得たセリシンは, アミド1の吸収帯が1630cm-1と1660cm-1付近に2つのピークを有し, 分解時に強い吸熱ピークを示した。そして側鎖間隔も若干小さい。
  • 平尾 常男, 高野 幸治, 山岡 景行
    1973 年 42 巻 1 号 p. 61-69
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    「登蔟促進剤」に対する熟蚕の行動機構を明らかにする目的で実験を行ない, 次の結果を得た。
    1) 薬剤の刺激を感受する感覚器は, 触角と小顋肢に存在する嗅覚器であり, その反応によって忌避剤に対しては, 忌避行動が引き起こされることが示された。
    2) 薬剤の化学構造と忌避性との関係は, 人間に対する刺激臭の強弱と同じではなく, 炭素数の大きさ, 沸点に関連があることが認められた。
    3) 熟蚕の這い上がり速度を促進する作用は, 薬剤に対する忌避効果だけでなく, 水 (乳化液) が蚕体に付着することもなんらかの影響を及ぼすこと, および薬剤に対する忌避作用が残留蚕を少なくする傾向をもつこと等が示された。
    4) 熟蚕と未熟蚕とは共に薬剤に対して明瞭な忌避反応を示すが, 未熟蚕は忌避刺激と誘引刺激 (桑のにおい) が共存している場合に, 誘引刺激に大きく影響され, 結果的に忌避行動は示されないことが明らかとなった。
  • 難波 征太郎, 出山 貞夫, 石坂 弘子, 佐々木 清文, 柿木 英夫
    1973 年 42 巻 1 号 p. 70-73
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    スチレンとメタクリル酸メチル比が1:0, 9:1, 3:1, 2:1, 1:1, 1:2, 1:3, 1:9, 0:1の9種の単一または混合モノマーを用いて絹糸のグラフト重合加工を行ない, グラフト絹糸の絹布による摩擦帯電電荷発生量 (帯電圧) および帯電電荷減衰速度 (半減期) を測定し, つぎの知見を得た。
    1. グラフト率が30~40%以上になると急激な帯電圧および半減期の上昇がある。
    2. 共グラフト重合加工において, スチレンとメタクリル酸メチル比が1:1よりメタクリル酸メチルが少ないと, グラフト率によらずスチレングラフト重合加工の場合と同じ負の帯電圧を示し, メタクリル酸メチルの影響は表われない。1:1よりメタクリル酸メチルが多くなると徐々にメタクリル酸メチルの効果が表われ, 1:9で帯電圧は最少になる。
    3. 含メタクリル酸メチルグラフト絹糸の半減期は, スチレングラフト絹糸に比して著しく長い。したがって, メタクリル酸メチルは, 帯電性に関してはグラフト重合加工用モノマーとして不適である。
    4. 含メタクリル酸メチルグラフト絹糸の半減期の長い理由を吸湿性で説明することはできなかった。
  • (VIII) 変異系と考えられる新系統, B1
    山口 邦友
    1973 年 42 巻 1 号 p. 74-78
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    家蚕における中腸核多角体病ウイルスのB系に由来する新変異系を発見し, B1系と称した。
    B1系の多角体は中腸円筒細胞の細胞質に形成され, 長径4~20μのブドウの房状を呈する。感染初期には円筒細胞の核内に桿状封入体の形成がみられるが, 病勢の進行につれてその数が減少する傾向が認められた。
    多角体はIN-HClで加水分解することによりブロムフェノールブルー等に好染し, 細胞質多角体病および中腸核多角体病の他の系統の多角体の染色性と差異がみられなかった。
    ウイルス接種後の飼育温度の高低, ならびに多角体形成後の高温接触は, 中腸核多角体病のB系, B1系, およびTCのいずれの多角体の形状にも影響をおよぼさなかった。
    電子顕微鏡的観察では, ブドウの房状の多角体は3μ以下の小塊が多数結合して形成されていることが認められた。また, 中心部において小塊を欠き空洞状を呈する多角体も観察された。
    中腸の円筒細胞の細胞質および多角体中に, 球形のウイルス粒子がみられた。
    中腸核多角体病のA系, B系, およびTCの各ウイルスを免疫原とした免疫兎血清により, B1系ウイルスは中和された。
  • 塩崎 英樹, 田中 芳雄, 松村 正明, 小野 四郎
    1973 年 42 巻 1 号 p. 79-83
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    種々のエポキシ化合物とセリシンとの塩触媒反応を行ない, セリシン定着効果におよぼす塩や溶媒の影響につき検討した。KSCNやKIのような塩水溶液, またパークロロエチレンやトルエンのような非極性溶媒を用いた時に高いセリシン定着効果が得られた。塩の効果は塩アニオンの求核置換反応における反応性によって説明できるので, セリシンとエポキシ化合物との間の化学反応によってセリシン定着が達成されると推察した。用いたジグリシジルエーテル類はすべて5%以下の重量増加率でほぼ完全にセリシンを定着させ, 柔軟でバルキーな触感をもつ生糸を生成した。
  • 勝又 藤夫
    1973 年 42 巻 1 号 p. 84-88
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    南ベトナムにはDâuヤウ bàuバウ Trángトラノ, Dâuヤウ bànバウ Denテン Dâuヤウ duoiユイ等が裁培せられ, Dâuヤウ Câyケイは山地に桑林をなす。それらの桑の性質を記述し, その所属を決定した。
    Dâu bàin Trang はカラヤマグワの一系統である。
    Dâu bàu Den とDâu duoiはクロミグワに属する。前者はジャワ等に広く裁培される種類である。後者はクロミグワの裂葉系のものに類似の性質を示すが, 巨大細胞の突起がC-typeを示す点が異る。
    Dâu Cày はナガミグワの一系統である。
    以上の事実から南ベトナムの桑の種類は西部ジャワ或は日本のそれと大いに異ることが明かである。
  • 1973 年 42 巻 1 号 p. 89-91
    発行日: 1973/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    殺虫剤の散布時刻と目標物に対する付着量
    核多角体病感染蚕の脂肪細胞におけるDNA合成の電子顕微鏡的オートラジオグラフィーによる研究
    細胞分裂により増殖する変った病原細菌“Rickettsiella chironomi”について
    ウイルスと小胞子虫の同時感染がアメリカシロヒトリ幼虫に及ぼす影響
    Mosquito Iridescent Virus (MIV) の感染経路 1) 接種ウイルスの侵入過程に関する予備所見
    ゴキブリ (Leucophaeamaderae) における雌特異タンパク合成のJHホルモンによる支配
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