農林省蚕糸試験場において純粋に系統保存されてきた家蚕の日本種9品種, 支那種9品種の5齢起蚕を供試し, 血液の遊離アミノ酸組成 (22種類のアミノ酸とフォスフォエタノールアミンならびにアンモニア) を, 蚕品種別および雌雄別に測定した。分析値については分散分析その他の統計学的解析を行なった。すなわち分散分析においては, 主効果 (系統または品種, 雌雄, アミノ酸の種類) およびその交互作用の両者が, アミノ酸濃度に及ぼす影響を明らかにした。
遊離アミノ酸の全体の濃度 (合計値, ただしフォスフォエタノールアミンとアンモニアを含む) には, 日本種と支那種の間に有意差が認められ, 全体としては日本種が高い濃度を示した。両者間に有意差の認められたアミノ酸は8種類であり, 1種類を除きいずれも日本種において濃度が高かった。なおフォスフォエタノールアミンは支那種のほうが高い濃度であり, 有意差が認められた。
また日本種系統および支那種系統のそれぞれの品種間において遊離アミノ酸濃度に有意差が認められた。日支両系統において, 最高濃度の品種と最低濃度の品種との間には, 2倍またはそれに近い開きがあった。
日支両系統の品種を通じ, 遊離アミノ酸全体の濃度には雌雄間に有意差があり, 雌のほうが高い値を示した。雌雄間で有意差の認められたアミノ酸は17種類もあり, いずれも雌が高い値であった。なおフォスフォエタノールアミンとアンモニアの濃度も雌が高く, 雄との間に有意差があった。またアミノ酸パターンが雌雄間で異なっていることも, 供試品種すべてにおいて認められた。雌雄間におけるアミノ酸組成の相違の傾向は既報 (井口, 1972) のそれとよく似ていた。
起蚕時に比較的多量に存在するアミノ酸は, ヒスチジン, ランチオニン, グリシン, グルタミン酸であった。またとくに少なかったものはシスチン, β-アラニン, フェニルアラニンであった。
起蚕時の遊離アミノ酸濃度と当該品種の繭層重との間には相関は認められなかった。ただし, 日本種9品種の繭層重平均値は, 支那種9品種の繭層重平均値よりも高い値であった。
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