日本蚕糸学雑誌
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42 巻, 3 号
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  • (II) リグニン様物質およびコルク層の形成についての組織化学的観察
    家城 洋之
    1973 年 42 巻 3 号 p. 193-198
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    紫紋羽病菌の桑根への侵入に対する桑根の防衛反応について, リグニン様物質およびコルク層形成の面から組織化学的に観察した。
    1. 本菌菌糸がコルク組織に侵入する初期段階では, コルク形成層下にコルク層が増生された。
    2. 本菌菌糸がコルク組織およびコルク形成層を貫通した段階では, 皮層組織の褐変部にリグニン様物質およびコルク層の形成がみられ, 病組織の拡大が阻止された。
    3. 表皮を貫通した菌糸が皮層部に達し, 菌糸塊となって皮層部を上下に進展している場合, この菌糸塊のまわりをリグニン様物質が, さらにその外周をコルク層がとりまき病組織の拡大が阻止された。
    4. 本菌が桑根へ侵入した場合, 必ずしもすべての桑根に防衛反応が現われるとは限らない。
    以上のように桑根は紫紋羽病菌の侵入に対して防衛反応を示すが, 本菌の侵入を完全に阻止することはできないようにみられた。
  • 西 寿已
    1973 年 42 巻 3 号 p. 199-206
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    フィブロインならびにUV照射フィブロインのアルカリ分解により生じるエールリッヒ反応陽性物質について次のことが明らかになった。
    1. フィブロインのアルカリ分解物の中で, エールリッヒ陽性物質としてインドールが多量に検出され, インドール酢酸, インドールプロピオン酸, インドールカルボキシル酸, アントラニル酸は少量検出された。
    一方, UV照射フィブロインのアルカリ分解物からはインドールは微量であるが, 他のインドール化合物は量が多い。
    したがってインドールはフィブロイン上のトリプトファン残基から, その側鎖が直接切断されて出来ると考えられ, UV照射フィブロインにみられるように, フィブロインに結合したインドールカルボン酸類からは出来にくいと云ってよい。
    2. アルカリ分解したフィブロインのエーテル抽出物を加温するとインジルビンを生じる。これをカラムクロマトグラフイーで分離し, 合成品とスペクトルにより同定した。
    3. トリプトファンを水酸化バリウムの液で100℃に加熱すると, インドールとアントラニル酸がエールリッヒ陽性物質として検出された。
    また, トリプトファンの光分解物においてアントラニル酸, インドールカルボキシル酸, インドールと少量のイサチンが検出され, そのインドールの量は水酸化バリウム分解のものに比較して少なかった。
    4. フィブロイン上のトリプトファン残基の可能な分解経路を呈示した。
  • (2) 桑園土壌中の Pseudomonas moriファージの消長
    佐藤 守, 高橋 幸吉
    1973 年 42 巻 3 号 p. 207-212
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    1971年5月~1972年4月の一年間, 蚕糸試験場日野桑園の13桑園区について, 桑園土壌中の P. mori ファージの消長を調べた。その結果, すべての桑園からファージがほぼ年間を通じて検出され, その消長は夏期に一旦減少するが秋に回復し, そのまま維持される傾向が認められた。またこれらの桑園には調査当年, 翌年とも本病の発生が観察されたが, 本実験に関する限り, 夏期にファージの減少が顕著でない桑園でその年の発病が著しい傾向がみられた。
    ファージの土中への移行経路の一つは落下したのち腐朽する罹病葉であり, 他の一つは本病の発生時期に罹病葉上を経由して土中へ移行する雨水であることが明らかにされた。
  • (3) 病原細菌の土壌中における生存条件
    佐藤 守, 高橋 幸吉
    1973 年 42 巻 3 号 p. 213-218
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    クワ縮葉細菌病菌 Pseudomonas mori の土壌中での生存条件について実験的に検討し, 次の結果を得た。
    (1) 殺菌土壌中での本菌の生存は土壌粒子の大きさによって左右され, 粒径3mm以下の土壌区および0.59mm以下の土壌区の生存日数はそれぞれ, 5℃で217日, 21日, 10℃で329日以上, 73日, 30℃で103日, 6日, で前者において明らかに長期間の生存がみられた。
    (2) 非殺菌土壌中での生存期間は殺菌土壌に比較して著しく短縮され, 他の土壌微生物の影響が大きいことが暗示された。そしてその影響は高温ほど大きく, 粒径3mm以下の土壌では-20℃で225日以上, 5℃と10℃で20日, 20℃と30℃で9日以下の生存日数であり, 0.59mm以下の土壌区でも同様な傾向を示した。
    (3) 非殺菌土壌中, 5℃での本菌の生存日数を土壌への接種法別に調べた。その結果, 菌液濃度108/ml接種区は20日であるのに対し, 1010/ml区, 集落接種区でそれぞれ53日, クワ葉および細根磨砕液の遠心上清混入区ではそれぞれ, 100日, 150日以上の生存日数であった。
    (4) 風乾土壌中での供試温度における本菌の生存日数は殺菌土壌の場合には湿潤土壌の場合に比較して大差は認められなかったが, 非殺菌土壌の場合には5℃で100日以上, 20℃で30日となり湿潤土壌中よりも長期間生存した。
  • (I) 形態的変化・特にその色変化と表面微細構造
    加藤 康雄, 萩原 応至
    1973 年 42 巻 3 号 p. 219-223
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    生糸および絹を100, 125, 150, 175, 200, および225℃で, それぞれ30, 60, 90および120分無緊張状態で乾熱処理し, その色変化をC.I.E.およびU.C.S.表色法により測色し, また, その表面微細構造を電子顕微鏡により観察し, つぎの結果を得た。
    1. 生糸および絹は100, 125℃で120分, 150℃で90分までの熱処理では, 色変化は示さず, 繊維空隙の収縮による明度の増大が認められた。150℃で120分以上の熱処理により若干着色され, 175℃以上の処理では熱酸化のため顕著な色変化を示し, 主波長は長波長側移行し (淡黄→橙), 明度は減少し, 刺激純度は増加する。225℃, 60分以上の処理により焦化された。
    2. 生糸の表面微細構造は175℃以上の処理により変化を受け, 平滑なセリシン層は起伏に富んだ不規則な構造を示し, 絹のそれは200℃以上の高温処理により極度に脆化が進み, フィブリル構造は部分的に崩壊し, 繊維軸方向に深く, かつ幅広い溝が観察された。
  • (II) 熱処理絹のアミノ酸組成の変化
    加藤 康雄, 萩原 応至
    1973 年 42 巻 3 号 p. 224-229
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    乾熱処理された絹の化学的性状の変化, 特にアミノ酸組成の変化とそれに関連する2, 3の実験を行ない, 次の結果を得た。
    1. 100℃, 2時間の乾熱処理を受けた絹のアミノ酸組成は, 無処理絹と比べ変化は殆んどみられない。また熱処理によるアンモニアの発生は熱処理開始後8時間で停止し, その後12時間まで加熱したがアンモニアは検出されず, 絹は100℃程度の処理では長時間加熱されても, 酸化あるいは分解を受けないようである。
    2. 125℃処理絹のアミノ酸組成は, 各アミノ酸とも約10%減少し, その際発生するアンモニアは微増し, 緩やかに酸化される。
    3. 150℃以上の高温処理を受けた絹のアミノ酸組成をみると, 塩基性アミノ酸およびオキシアミノ酸の減少は, 非極性アミノ酸および酸性アミノ酸の減少に比し, 漸次著しくなり, アンモニア発生量は加速度的に増加し, 負電荷に富む活性基の出現, あるいは2次的な再結合など, 酸化分解は急速に進行する。
  • 荒武 義信
    1973 年 42 巻 3 号 p. 230-238
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコの核多角体病抵抗性における品種的差異を主として経口感染によって検討し次の結果を得た。
    1. カイコの核多角体病に対する抵抗性は品種によってかなりの差異がみられ, また同じ品種でも蛾区的変異がみとめられた。各品種の蟻蚕における抵抗性は3齢蚕における抵抗性と平行的関係があった。
    2. 3齢蚕期接種の場合交雑F1では抵抗性に関しての雑種強勢がみとめられ, かつ交雑F2の抵抗性は交雑F1よりも低下した。
    3. カイコとクワコとの交雑F1の抵抗性は用いた蚕品種の抵抗性に左右された。
    4. 2眠蚕と4眠蚕との交雑F1の抵抗性は相手の4眠蚕のもつ抵抗性に影響された。
  • (IX) 新変異系統, B2の分離
    山口 邦友, 福原 敏彦
    1973 年 42 巻 3 号 p. 239-243
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    家蚕の中腸核多角体病のB1系ウイルスに由来する新変異系を発見し, B2系と名づけた。
    B2系の封入体は, 多数の桿状封入体の集合によっていが栗状を呈し, その大きさは直径2~7μのものが多かったが, 最大15μのものも観察された。封入体は中腸円筒細胞の核および細胞質に形成がみられたが, その他の組織には認められなかった。封入体は1N NClで加水分解処理を行なうことにより, ブロムフェノールブルー等の色素に好染し, 他の本病ウイルス系の多角体および細胞質多角体病の多角体と同じ染色性を示した。電子顕微鏡による観察では, 桿状封入体は直線状を呈し, 細胞質に形成されたのものは幅150~200mmのことが多かった。同一細胞においては, 核内に形成された封入体は細胞質内の封入体より大形であった。
    直径約50nmの球形ウイルス粒子が, 円筒細胞の細胞質および細胞質内に形成された桿状封入体中に観察されたが, 核内および核内の桿状封入体中には認められなかった。B2系ウイルスは, 中腸核多角体病のA, B両系ウイルス, および細胞質多角体病のTC系ウイルスを免疫原として得られた免疫兎血清により中和された。
  • 第1報 樹脂加工による黄変度の変化について
    柿木 英夫, 石坂 弘子, 佐藤 荘助
    1973 年 42 巻 3 号 p. 244-248
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    羽二重にPVA, ポリアミド, DMEU, ポリ酢酸ビニル, ポリウレタン等の繊維加工用樹脂を付着させ, ウエザーメーターで照射して黄変度を比較した。その結果より
    1. ポリアミド, ポリ酢酸ビニル, ポリウレタン等の樹脂は付着率の多少にかかわらず羽二重の黄変防止についての効果は認められなかった。
    2. DMEUのような反応性樹脂では照射開始後120時間位は黄変を抑制する効果を認めた。この樹脂は加工中にチロシンのような活性水素を持つものと一部が反応して芳香族側鎖の発色を抑制し黄変防止効果を示したものと考えられ付着率が大きい程効果も大きいことで裏付けされた。
    3. 反応性樹脂による加工の場合, 照射の最初のうちに効果を見せ, 120時間以後は抑制効果が認められない事実より, 芳香側鎖の発色は最初のうちで, ペプチド鎖上の脱水素による黄変がその後に進行する (あるいは発色が現われ出す) と推定できる。
    4. 水酸基を持つPVAは黄変防止効果を示したが, 付着率とは関係がないため, 樹脂フィルムによる遮へい効果ではなく, 水酸基による何等かのエネルギー吸収作用によるものと推定した。
  • 有本 肇, 青木 一三, 林屋 慶三
    1973 年 42 巻 3 号 p. 249-253
    発行日: 1973/06/30
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    製糸原料繭としての立場から人工飼料育繭の繭質および繰糸について調査, 検討を加えた。その要点は次のとおりである。
    人工飼料育繭の繰糸成績および生糸の性状は, 大局的には普通の生桑葉育のものと較べて大差のない結果が得られた。しかしここで特に指摘したいことは, 本実験結果は多条機を使用し, 数緒をもって丁寧に繰糸した成績であり, 機械化の進んだ自動繰糸機に人工飼料育繭を使用した場合には, 繭糸量と繭糸繊度に特に問題点があると考えられる。
    繭糸量の不足からくる繭殻の軟弱は, 中, 薄皮で潰れ繭を生じ易く, 中, 薄皮分離の不完全や索緒困難から生糸量歩合の減少につながるおそれが多分にある。繭糸量の不足は蚕品種, 飼料組成, 飼育法などいずれも養蚕法に起因するものであり, その改善が強く望まれる。また人工飼料育繭の繭糸繊度は一般に細くなる傾向が見られる。繭糸の場合内層繊度の一層細くなることが懸念されるので, 蚕品種や飼料の改良などその対策を切望する。
    製糸の立場から, 人工飼料育繭を対象とした新らしい1つの進路を生繭の低温貯蔵繰糸に求め, 減圧滲透, 超音波処理などを煮繭工程に併用することを試み, 明るい見透しを得た。この試みはまだ緒についたばかりであるが, 年間飼育という人工飼料育の持つ1つの可能性をふまえ, 今後さらに検討すべきものと考える。
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