交尾蛾の産卵行動の日周性を個体レベルで追究する目的で, 様々な光条件の下で産卵を抑制あるいは数日間に引きのばすことにより, その消長を追跡して検討した。その結果,
1. 自然の光条件に近い明暗サイクルの下ではそれに同調した双頭のピークをもつリズムが4日間程持続した。第1ピークは日没前後に, 第2ピークは真夜中から日出の間に極大値を示した。
2. 第1ピークの時間帯の一部が産卵不可能または一定程度産卵を抑制された雌蛾は, 第1ピークの残りの時間帯の産卵を活発に行なう, あるいは第2ピークの産卵を活発に行なう傾向を示した。第1ピークの産卵が完全に抑制されると第2ピークが明瞭に大きくなると同時に, 第2日目の産卵ピークも活発になった。
3. 蛹期に24時間サイクルの自然状態に近い光条件を与え, 成虫期には全明条件の下においた雌蛾も, いわゆるフリーランの条件下であるが, 一定の産卵リズムを示した。
4. 蛹期全暗, 成虫期全明の条件下におかれた個体も, 暗から明への切り変え時刻に同期した産卵リズムを示した。
5. 化蛹以後全明条件下におきつづけた個体は羽化がばらつくとともに, 羽化時刻にかかわらず, 交尾, 割愛後ただちにリズムのない, 一過性の産卵を行なった。
以上の結果から, 交尾蛾においても先に報告した無交尾蛾の場合と同様に, 外界の明暗サイクルを同調因子とする体内時計の支配の下に, 産卵行動の日周リズムを示すことが明らかになったと同時に, 交尾によって高まると考えられる「産卵衝動」の蓄積と解放が, 体内時計の支配を受ける可能性が示唆された。
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