日本蚕糸学雑誌
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46 巻, 6 号
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  • III. 人工飼料育蚕幼虫体液の核酸関連物質および遊離アミノ酸の分析
    新村 正純, 橋本 重文, 桐村 二郎
    1977 年 46 巻 6 号 p. 469-474
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    人工飼料育蚕と桑葉育蚕の5齢3月目, 5日目ならびに7日目の幼虫体液について, 遊離核酸塩基, 遊離ヌクレオシドおよび遊離アミノ酸を定量して次の結果を得た。
    1. 遊離核酸塩基と遊離ヌクレオシド全量ならびに個々の遊離核酸塩基, 遊離ヌクレオシドともに人工飼料育蚕と桑葉育蚕では定量値は大きく異っており, 特に, guanine, guanosine, adenine, adenosine, uracil および uridine に大きな差が見られた。
    2. 遊離アミノ酸全量の定量値は5齢各時期とも人工飼料育と桑葉育で差が無かった。人工飼料育では Orn の濃度が異常に高く (桑葉育の3~5倍), 必須アミノ酸の合計量と Gly, Thr, Pro, Ser, Tyr の合計量がかなり少ないことが認められた。これらの結果は井口の準合成飼料育での分析結果とよく似ていた。
    3. 以上の結果から人工飼料育蚕では核酸およびアミノ酸代謝に異常があり, ひいては絹糸蛋白合成が桑葉育より不活発であろうと推察される。
  • IV. 無機物組成およびビタミンB群組成の改良
    橋本 重文, 新村 正純, 桐村 二郎
    1977 年 46 巻 6 号 p. 475-485
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    人工飼料育蚕の繭質成績を向上させる目的で, 5齢用人工飼料の無機およびビタミンB群混合物の組成改良を行った。
    直交配列表を用いた実験計画法を活用した実験の結果, 無機物の改良組成ならびにビタミンB群の改良組成を作り出すことができた。そして, この改良組成を導入した新飼料は, 改良前の飼料に比べて, 上繭率・上繭単繭層重ともに増加し, 従って繭層収率が顕著に向上した。
    飼料組成改良研究において直交実験法を活用する場合の有利性と留意すべき点について考察した。
  • 桑原 昂, 仲道 弘, 庄司 八千代
    1977 年 46 巻 6 号 p. 486-492
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    含水酸基ウレタン系カーバメート樹脂・紫外線吸収剤併用加工による絹の黄褐変脆化防止効果についてしらべた。
    1. ピリジン処理によりある程度の耐光性がえられることが判った。
    2. 含水酸基ウレタン系カーバメート樹脂加工による黄褐変防止効果はかなり有効で, 樹脂付着率の多い方が良好であることが判った。
    3. 紫外線吸収剤処理による効果は, ベンゾフェノン系がもっとも良く次いでベンゾトリアゾール, フェニルサリチレート系の順であることが判った。
    4. カーバメート樹脂・紫外線吸収剤併用加工については, 樹脂加工したのちベンゾフェノン系あるいはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤処理がかなり効果的であり, 樹脂付着率の大きい方がその効果も大きいことが判った。
  • 佐藤 姚子, 江森 京, 杉山 浩
    1977 年 46 巻 6 号 p. 493-500
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    有機リン系殺虫剤MPP〔0, 0'-dimethyl-0-(3-methyl-4-methylmercaptophenyl) thiophosphate〕の桑葉における残留とカイコに対する毒性を調べ, 次の結果を得た。
    1. 桑葉において, 散布後5日目からMPPの酸化化合物, MPPスルホキシドがガスクロマトグラフィーにより検出された。
    2. 無降雨状態に放置した場合には, 散布後22日でMPPとMPPスルホキシドは総量で6.34ppm検出された。この桑葉を給与したカイコは高い死亡率を示した。
    3. 自然条件下に放置した場合には, 散布後15日で総量0.68ppm検出された。この桑を連続給与したカイコは一部に成育の不斉一がみられたほかは対照に比べて差はなかった。カイコに対して許容できるMPPおよびその酸化化合物の残留量は, それぞれ0.5および0.1ppm以下でなければならない。
    4. MPP, MPPスルホキシドおよびMPPスルホンのカイコに対するLD50値 (μg/g・体重) は, 局所塗布法では3化合物とも同程度の値であったが, 経口施与法ではMPP120μg, MPPスルホキシド21μgおよびMPPスルホン22μgとなり, 酸化化合物はMPPの約6倍の毒性を示した。
    5. MPP剤のカイコに対する残毒日数を調べる場合はMPPの酸化化合物についても調査する必要がある。
  • II. 絹織物の曲げ挙動に関係する伸長ひずみと洗たくの効果
    横沢 三夫, 新井 キヨ子
    1977 年 46 巻 6 号 p. 501-508
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    つむぎとして市販されている手つむぎ糸使用の結城つむぎおよび精練絹糸使用の大島つむぎ (奄美大島, 本場大島) に, 実際の着用条件を想定して伸長ひずみと洗たくをくり返した場合の曲げヒステリシス特性を検討して次の結果を得た。
    1. 結城つむぎでは, 伸長ひずみが繊維のからみ合いを増すと同時に, 洗たくによる集束硬化を解きほぐす分繊化作用を示す。また, 洗たくにより繊維の収縮と糸の集束効果を表わし, 糸の内部圧力と交錯圧力の増大を示す。
    2. 大島つむぎは, 履歴加算で特性値が減少する傾向を示すが, 奄美大島はとくに軟化が大きく, 本場大島は伸長ひずみで硬化, 洗たくで軟化の傾向すら示す。
    3. 糸繊度や糸密度のような幾何学的交錯条件にほとんど変化がなくても糸自身の集束や分繊によって, 繊維同志, 糸同志の摩擦効果が交錯条件に影響し, 布の曲げかたさ, ヒステリシス特性に関係する。
    4. 手つむぎ糸は繊維がクリンプをもって複雑にからみあった交絡糸であり, 洗たくによって残留ひずみを復元させるキャパシティーが大きいが, 精練絹糸は洗たくで摩擦効果を減じ疲労を早める効果をもつものと推測される。
  • 阿久津 四良, 吉武 成美
    1977 年 46 巻 6 号 p. 509-514
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコの卵黄膜形成における包卵細胞と卵黄細胞の役割について電子顕微鏡観察により検討した。その結果カイコの卵黄膜は数層の膜構造と電子密度の高い外層とそれを裏打ちする内層とから成り, その形成は明帯を基幹にして行われ, 包卵細胞から分泌された顆粒が素材として用いられるものと推定された。これに対し卵黄膜形成全般を通して細胞外への分泌活動を示す像がみられず, 卵母細胞が卵黄膜形成に関与している可能性は少ないと考えられた。
  • 江口 正治, 山下 善弘
    1977 年 46 巻 6 号 p. 515-520
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコの中腸組織のアルカリ性フォスファターゼに関して, S-系統 (表現型F++S-) とF-系統 (表現型F-S++) からの両個体を交配し, F2世代での分離をポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって調べた結果, FSアイソザイムをそれぞれ支配する遺伝子Aph1Aph2との組換価が38.2%という価を得た。
    つづいて, F2に分離した幼虫の中腸組織のフォスファターゼ活性泳動帯の濃度と, 消化液の酵素活性の関係を個体別に調べると, S-系統における消化液のフォスファターゼ活性の頻度分布は活性の弱い方に偏っており, F- (S+) 系統の場合にはS-系統に比べて明らかに活性の強い方に寄っていた。
    さらに, F2における約500個体の消化液のフォスファターゼ活性の頻度分布からも, 消化液のフォスファターゼと中腸組織のSアイソザイムの間の密接な関係が示唆された。
  • 土井 良宏, 筑紫 春生, 辻田 光雄, 木原 始
    1977 年 46 巻 6 号 p. 521-527
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    γ線照射により誘発された細長蚕 (Lan) 及び未記載の自然突然変異, V過剰肢 (Sl-v) の連関分析を行った。その結果, Lanrb遺伝子座を含む染色体部分の欠失であること, ならびにこの両者とSl-vとが1つの連関群を形成することを見出した。rb, Lan, Sl-v連関群は既知20連関群のすべてと独立であるので第21連関群となる。新連関群, 第21染色体における遺伝子の座位はrb(0.0)-Sl-v(19.4) であり, 組換価から求めたLan欠失の末端は17.9の位置にある。
  • 栗林 茂治
    1977 年 46 巻 6 号 p. 528-535
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    1. 二酸化いおうのクワおよびカイコに及ぼす影響について, ガス暴露実験装置を用いて調べた。
    2. クワを二酸化いおうに暴露したところ, 成熟葉では葉脈間のところどころに油浸状の褐色はん点を, また新葉と老化葉ではその先端や葉縁部から油浸状に褐変する被害徴候を現わした。
    3. クワに被害徴候が現われるまでの時間は, ガス濃度が1ppmの場合に82時間程度, 2ppmの場合に28時間程度であった。被害の発現には暴露時間よりもガス濃度の影響が大きかった。
    4. 被害徴候が現われた時点における葉のいおう取り込み量 (乾物重あたり) は, ガス濃度が1ppmの場合に0.49%程度であり, 2ppmの場合に0.40%程度であった。高濃度ガス下においては比較的少量のいおうの取り込みで被害を現わした。
    5. 二酸化いおうに暴露したクワ葉をカイコに給与したところ, いおう量 (乾物重あたり) が0.5%程度以上の葉がカイコに悪影響を及ぼした。カイコはその汚染度に応じ食慾不振, 挙動不活発, 発育不良, 不斉などの比較的かんまんな症状を示し, 縮小状または軟化病状などで死んだ。
    6. 二酸化いおうに暴露しながらカイコを飼育した場合, ガス濃度が2ppmでも悪影響が現われなかった。
  • 栗林 茂治
    1977 年 46 巻 6 号 p. 536-544
    発行日: 1977/12/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    1. ふっ化水素のクワおよびカイコに及ぼす影響について, ガス暴露実験装置を用いて調べた。
    2. クワをふっ化水素に暴露したところ, 葉の先端や周縁から褐変が現われ, それは被害の進行につれて内方に拡がった。それに伴って葉身は捲縮し, やがて離脱した。
    3. クワに被害徴候が現われるまでの時間は, ガス濃度が30ppbの場合に12時間程度, 200ppbの場合に1.5時間程度であった。被害徴候はガス濃度と暴露時間の積が300~360程度になったとき発現した。
    4. 被害徴候が現われた時点における葉のふっ素取り込み量 (乾物重あたり) は, ガス濃度が30ppbの場合に107ppm程度, 200ppbの場合に98ppm程度であって, ガス濃度が違っても大差なかった。
    5. ふっ化水素に暴露したクワ葉をカイコに給与したところ, ふっ素量 (乾物重あたり) が35ppm程度以上の葉がカイコに悪影響を及ぼした。カイコはその汚染度に応じて挙動不活発, 食慾不振などを示したのち, 発育経過の遅延, 不斉, 半脱皮状などとなり, 時に環節間膜に黒色斑点などを現わして, 平伏状, 軟化病状などで死んだ。
    6. ふっ化水素に暴露しながらカイコを飼育したところ, ガス濃度が30ppbでも悪影響が現われた。ふっ化水素酸を飲ませた場合の致死量は体重1gあたり49~58.5μg程度であった。カイコはふっ化物に敏感なので, ふっ化物による環境汚染検定のための指標生物として有用である。
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