日本蚕糸学雑誌
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50 巻, 1 号
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  • 福原 敏彦, 野口 淳夫, 宮川 創平
    1981 年 50 巻 1 号 p. 1-3
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    1. メトリザマイドを媒体とする密度勾配遠心法により家蚕血球の分離を試みたところプラズマ細胞と顆粒細胞とエノシトイドを含む広いバンドが上部に, 顆粒細胞と小球細胞を含む狭いバンドが下部に形成された。この結果から, 家蚕血球を密度の差によって分離する可能性が示された。
    2. 抗家蚕血球ウサギ血清とモルモット補体を家蚕血球に作用させたところ, 血清稀釈度が低くなるにつれて, 血球死亡率は次第に上昇し, 90%以上に達した。抗血球血清と補体の共働作用により, 家蚕血球が破壊されると考えられる。
  • 亀山 多美子
    1981 年 50 巻 1 号 p. 4-9
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    1. 昭和43年から昭和53年までの繭生産費調査報告を用い, 肥料の原単位量から掃立規模別に繭100kgの生産に要した窒素量の推移を求めた。指定年次を中点とする5か年移動平均値により傾向をみると, 掃立規模20箱以上の比較的大きな規模の養蚕農家においては, 繭100kg当りの窒素施用量は27kg前後で傾向的な変化はみられないが, 20箱以下, とくに10~20箱の養蚕農家では, 年々傾向的に増加した。この層の養蚕農家では, 繭化されなかった桑葉が年々増加したという見方もできるであろう。
    2. 1. に述べた掃立規模による違いが生じてきたのは, 桑園10a当りの窒素施用量の推移にも着目すると, 投入量の決定にあたり, 養蚕の規模によって, 農民の意思による制御に強弱があるためと思われる。掃立規模10~20箱の中規模の養蚕農家では, 10a当りの投入量を比較的一定の水準に保ってきたのに, 10a当りの生産量が減少した。しかし, 比較的大きな規模の層においては, 農家1戸当りについ てみるならば窒素施用量は減少していないが, 桑園10a当りについては減少しており, それに応じて10a当りの繭生産量も減少した。したがって, 比較的大きな規模の養蚕農家については, 10a当りの収繭量を増加させるには10a当りの窒素施用量を増加させることが必要条件となる。
    3. 本稿で対象とする昭和43年以降の時期については, 規模広大の動きに変化があったといわれる。比較的大きな規模の養蚕農家が, 施用した窒素に見合う繭を生産してはいるがしかしそれ以上に窒素を増投してまでも反収増を追求しなかったことも, その一つの例証であると考えられる。農家の作目が多角的な組合せから単純化へ進み, さらに農地の生産的利用率の低下も進んでいたこの時期には, 作目の整理等により桑園面積の拡大が他の時期に比して可能であった。比較的大きな規模の養蚕農家は, 相対的には内包的拡大よりも外延的拡大を指向したといえよう。
    4. 同じ期間を対象にした生産関数の計測値にも変化が生じていた。昭和43年から昭和53年までの時系列データを用いて, コブ・ダグラス型生産関数により生産弾性値を計測したところ, 掃立規模20箱以上の層においては, 10~20箱の層と比べて, 土地と労働の生産弾性値の大きさに逆転がみられた。比較的大きな規模の養蚕農家同士の比較では, 繭生産にとって, 相対的に, 土地の貢献力が大きくなっていることが認められる。
  • 第12連関群地図の改訂
    蜷木 理, 土井 良宏, 筑紫 春生, 国分 次雄
    1981 年 50 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    劣性自然突然変異, 数珠蚕 (mf) を発見し, その連関分析を行った結果, mfは第12連関群に属することが判明した。さらにNg及びC遺伝子を基準に選び3点実験を行ったところ, 組換価はmf-Ng間23.18%, Ng-C間18.85%, mf-C間41.07%であった。それ故, Ngを基点とし, C:14.2, l-n:21.0, rd:48.2とされてきた本連関群の地図は, l-nを基点0.0として改めることが妥当であると判断される。これに伴い, 第12連関群に所属する遺伝子の座位はそれぞれ, es:4.3, ms:5.5, C:7.2, Ng:21.8, oq:26.3, mf:39.8, rd:45.0であることになる。
  • 尾暮 正義, 原島 典雄, 長沼 計作, 松島 幹夫
    1981 年 50 巻 1 号 p. 16-19
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    樹令7年の中刈仕立をした改良鼠返およびしんいちのせを用い, 同一株上の一部枝条におけるエスレル散布処理がほかの枝条の性表現に及ぼす影響について検討した。
    両品種とも15本の枝条のうち, 2~3本の枝条にのみエスレル散布処理をしたところ, 無処理枝においても雌性化が起った。また, 支幹の先端に位置する無処理枝に雌性化が強く現われるので, 処理枝に散布したエスレルから発生したエチレンが植物組織内で支幹に沿って生長が比較的旺盛な頂部の枝条に移動しやすいと推論した。
  • I 前媒染に用いた金属塩の色相および堅ろう度におよぼす影響
    清水 滉, 関 弥州武, 坂口 育三
    1981 年 50 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    数種類の金属塩を用いて絹羽二重を媒染した後酸性媒染染料で染色し, 用いた金属塩の媒染効果を検討した。
    用いたクロム塩の中ではクロムミョウバンが最も良い結果が得られ, 重クロム酸カリウムは染料によって多少の違いはあったが, 色相の安定, 高堅ろう度を得るのに他のクロム塩よりも2~3時間長い染色時間が必要であった。
    硝酸コバルトで媒染し, C. I. Mordant Violet 5およびC. I. Mordant Blue 13で染色した場合, 錯塩形成は速く, 用いた金属塩の中では最も高い耐光堅ろう度が得られた。しかし洗たくおよび熱湯試験における変退色が大きく, これら錯塩の絹との結合はクロム錯塩よりも弱いことが認められた。
    硝酸ニッケルで媒染し, C. I. Mordant Violet 5で染色したものは, クロムミョウバンで媒染したものと同程度の耐光堅ろう度が得られたが, この錯塩の絹との結合はコバルト錯塩と同様に弱いものであった。
    C. I. Mordant Violet 5および Blue 13とコバルトまたはニッケルの錯塩の色相は, 染料の色名と異なり染料単独染の色相―赤または赤紫―よりわずかに青みに変ったものであった。
    硝酸マンガンで媒染したものは用いたいずれの染料とも, また硝酸コバルトおよび硝酸ニッケルで媒染したものは, C. I. Mordant Yellow 3との錯塩形成は認められなかった。
  • II 後媒染に用いた金属塩の色相および堅ろう度におよぼす影響
    清水 滉, 関 弥州武, 坂口 育三
    1981 年 50 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    前媒染法と同じ金属塩を用い, 同じ染料で染色した絹羽二重に対して後媒染法を適用し, 前媒染法との色相および染色堅ろう度における相違を検討した。
    その結果, C. I. Mordant Yellow 3とクロム塩では後媒染法の方がやや赤みの色相となり, その他の染料と金属塩では, 両媒染方法で同じ組合せの場合後媒染法の方がやや青みの色相となった。
    硝酸コバルト, 硝酸ニッケルおよびクロムミヨウバンによる媒染では, その方法の違いによる染色堅ろう度の相違はほとんど認められなかったが, 硝酸クロムでは前媒染法, 重クロム酸カリウムでは後媒染法の方が高い堅ろう度が得られ, 短時間で色相の変化が起らなくなることも併せ, 硝酸クロムは前媒染に, 重クロム酸カリウムは後媒染に用いる方が有用であることが認められた。
    硝酸マンガンでは前媒染法と同様に, 用いた3種類の染料との錯塩形成は認められなかった。
  • 加古 武
    1981 年 50 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    伸長率を変えて絹平羽二重を500回繰り返し伸長した後, 水, パークロルエチレン, その混合溶液で後処理した場合の性能変化について検討した。
    一般にパークロルエチレン後処理による性能は, 繰り返し伸長だけの未処理布とほとんど変らないが, 0.8%水/パークロルエチレン, 水で処理した場合は, 一般に絹織物内部の歪が緩和されて収縮し, 防しわ度, 厚さが増し, 柔軟な風合が得られるが, 繰り返し伸長における伸長率が後処理による性能回復に大きく影響する。すなわち1.25%程度の伸長率までは, 一般に織物内部歪の緩和が後処理によって一層促進される。パークロルエチレン単独ではほとんど緩和効果がないが, 親水性繊維である絹の吸水による膨潤効果が緩和に大きく効果をもたらすものと考えられる。
    したがって, 絹衣服の着用後の洗たくには, パークロルエチレン単独あるいは水による処理よりも水/パークロルエチレン系の処理が洗浄効果とともに絹織物の性能保持に効果があると考えられる。
    なお, この研究は昭和54年度文部省科学研究費 (一般研究) の一部によって行ったものである。
  • 川崎 秀樹, 吉武 成美
    1981 年 50 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコの翅原基の分化の蛹初期における様相を知るため, 5齢幼虫期から羽化までの翅原基について, 核酸およびタンパク質量の変化と, 組織および細胞の形態的変化を調べた。
    1. 翅原基のDNA, RNAおよびタンパク質量はともに吐糸期と蛹化3-7日の時期に明らかな増加がみられた。
    2. 翅原基は組織的には吐糸期に大きな形態変化が観察され, 細胞レベルでは蛹化後の3日間に細胞分化に伴なう形態変化がみられた。なお, りん毛形成は蛹化後3日から開始されていることが明らかにされた。
    3. 蛹化直後から2日までの間にDNA合成を阻害すると, 翅の萎縮や不完全なりん毛が誘起された。
  • 加藤 昭輔
    1981 年 50 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    1. 各培養時間毎の菌体を用いて病原性を調べたところ, 培養12時間目から蚕に対して病原性を示し, もっとも強い病原性を示したのは培養24時間および培養48時間目の菌であった。
    2. 培養ろ液の病原性は, 培養48時間以降のものに認められ, それ以前のろ液には見られなかった。
    3. 菌体をアルカリで処理したところ, pH10, 10.4, 11の各緩衝液で処理したものが病原性を示し, pH5.5, 9.0の緩衝液で処理したものは全く病原性を示さなかった。なお, 消化液で処理した菌体ろ液は病原性を示した。
    4. 菌体抽出物を硫安分画沈澱法で分画した結果, 硫安分画25~40%飽和画分から病原性を示す沈澱が分離された。
    5. 硫安分画33~40%飽和沈澱区を試料として加熱処理を行ったところ, 80℃30分処理で完全に病原性は失なわれた。
    6. 菌体内病原物質はエーテル, 酢酸エチルおよびクロロホルム処理の水層部に, アセトン処理の沈澱部に分別され, ホルマン処理では病原性が失なわれた。
    7. 以上のことから病原物質は蛋白性であると考えられる。
  • II 照射卵の発生
    小林 芳弘
    1981 年 50 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    UV照射したカイコ卵と正常卵の発生の比較を行った。産下直後に卵の側方から照射すると, その部域に形成される胚帯の形は異常で, しかも, 穴があいたようにみえるのに対し, 反対側のUV非照射部域に形成される胚帯は正常であった。正常な半分の胚帯は, 発生の進行とともに独自に縦裂した半胚になるが, 残りの異常な半分の胚帯といっしょに発育して種々の奇型を示した。腹側方向から照射すると, 初期の胚帯の腹側部分に異常が観察され, 胚帯が一カ所に集まらず, 正中線を境に左右に縦裂した半胚になった。
    胚盤葉初期におけるUV照射の場合も, 産下直後期の結果とほぼ同様であった。
    切片標本観察の結果から, UV照射された部域の周辺原形質にも分割核は侵入し, 分裂像も確認されたが正常卵の場合と異なり, 発生が進んでも細胞数は増加せずに, 細胞とその核, および, 核小体の大きさが増し, 細胞の間隙が広く細胞同志は密着していないことが明らかになった。また, UV非照射部域に形成される胚帯細胞は, 正常のものと差が認められなかった。
    以上のことから, UV障害による異常胚出現のしくみについて考察した。
  • 繊維間結合の安定性
    清水 慶昭, 木村 光雄
    1981 年 50 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    スルファトエチルスルホン型反応染料C. I. Reactive Blue 19―絹結合の安定性を調べるため, 染色絹およびこの染料と絹モデル化合物 (グリシン, γ-アミノ-n-酪酸) との結合体の分解挙動を調べ, 次のような結果を得た。
    1) 染料―グリシン結合体の分解速度は温度が高いほど大であり, また, この結合体は弱酸性では非常に安定であるが, アルカリ性では分解し易い。
    2) 染料―γ-アミノ-n-酪酸結合体は, 100℃において, 弱酸性~中性では強酸性やアルカリ性に比べてより安定であった。
    3) 染色絹は70℃においてはpH3-8において非常に安定であり, 100℃においてはpH3-7において相当に安定であった。
    4) 染色絹は同一条件においては, 染料―アミノ酸結合体より安定であった。
  • 須貝 悦治, 高橋 孝洋
    1981 年 50 巻 1 号 p. 65-69
    発行日: 1981/02/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    上蔟時期の高温環境と雄蚕の不妊化について実験し次の結果を得た。
    1. 上蔟後36時間までの高温処理 (32℃または33℃) では殆んど不妊にはならないが, 48~54時間目頃から急激に増大し, 72時間以上の処理でほとんど完全に不妊となった。
    2. 不妊性の発現と1日における温度周期 (32℃と25℃, 20℃および16℃) との関係を4日間にわたってしらべた結果, 1日のうち高温接触時間が19時間以上継続する場合に不妊化が増大した。
    3. 高温環境によって不妊化した雄蛾と交尾した雌蛾の交尾嚢内にはかなりの有核精子が射精されていたが無核精子が著しく少なかった。また受精嚢内には有核精子および無核精子ともに全く認められなかった。
    4. 高温処理後の精子形成を組織学的にしらべた結果, 無核精子の形成に顕著な異常が認められ, 羽化後も多くのものが基底膜を脱出できないでそのまま精室内に残留していた。以上の結果をもとに, 不妊化の発現と無核精子の異常化との関連について若干の考察を加えた。
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