晩秋採蠶卵 (支106號10月17日、日110號10月24日産卵) に就て産卵後の保護温度を異にし冬期冷藏 (2月5日) 迄に於ける卵内カタラーゼの作用と漿液膜色素粒の分散状態及胚子の外部形態に就き研究せる結果次の如き成績を得た。
1. 産卵後4日目より高温 (29.4℃)、中温 (23.9℃)、低温 (18.3℃) 及自然温度 (平均10.5℃) に継續保護せる場合に卵内カタラーゼ作用は自然温度最も強く低温之に次ぎ高温は最も弱き傾向がある。然れ共高温、中温、低温が保護期間の長くなるに從ひ其の作用力は減弱する傾向あるに反し自然温度區は或程度の強さに達したる後は大なる變化がない。
2. 産卵後高温、中温、低温に25日間保護せる後自然温度に移したこる場合には之等の温度に継績のものに比し漸次作用力を増し自然温度に移してより40-50日の後或程度の強さに達すると其の後は大なる變化がないが各區間の差異は之等の温度に継續のものと同様に低温より自然温度に移したるもの最も強く高温より自然温度に移したるもの最も弱い。然し乍ら低温より自然温度に移したるものも自然温度に継續のものに比すれば僅かに弱き傾向がある。
3. 支106號は日110號に比し品種的にカタラーゼ作用弱き傾向があるが温度に對する感度は強き傾向がある。
4. 胚子の外部形態の差異少き休眠期前後の胚子に於ても産卵後の保護温度により漿液膜色素粒の分散状態に差異があり、漿液膜色素粒の鮮やかに細胞の一角に集積せるものに於てもカタラーゼ作用には相等差異がある。
終りに臨み産卵後の保護温度と越年現象及其の他に就き農休省蠶業試験場渡邊博士より御助言を賜りたこるものにして弦に謹んで御禮を申上ぐる次第である。
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