カイコ核多角体病ウイルスの多角体非形成変異株における多角体タンパク質 (ポリヘドリン) の遺伝子の構造と発現を, 野生株と比較しながら解析し, 以下の知見を得た。
1. 核多角体病ウイルスの野生株と多角体非形成変異株のそれぞれに感染したカイコ幼虫脂肪体のタンパク質を, 抗多角体抗体を用いたウェスタンブロッティング法で解析した結果, 変異株では陽性の泳動帯が現われず, ポリヘドリンが合成されていないことが判明した。
2. 野生株と変異株に感染したカイコの脂肪体より全RNAを抽出し, ポリヘドリン遺伝子をプローブとしてノーザンハイブリダイゼーションを行った。変異株では陽性の泳動帯が認められず, ポリヘドリン遺伝子からmRNAへの転写が行われていないことが明らかになった。
3. 野生株と変異株のDNAを制限酵素で切断し, ポリヘドリン遺伝子の断片をプローブとし, サザンハイブリダイゼーションを行った結果, 両者とも陽性の泳動帯を生じ, その分子量にも差異はなかった。したがって, ポリヘドリン遺伝子の内部および周辺に大きな欠失や挿入はないことが明らかになった。
4. 野生株と変異株からポリヘドリン遺伝子, およびその上流をクローン化し, 塩基配列を比較したところ, 両株の間で, 約1kb中に5箇所の差異が認められた。特にバキュロウイルスの very late gene の転写開始点付近に共通に存在し, それらの転写に不可欠と考えられている配列ATAAGがATAAAに変化していることが明らかになった。したがって, この点変異が多角体非形成の原因である可能性が示唆された。
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