日本蚕糸学雑誌
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63 巻, 5 号
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  • 横山 岳, 鈴木 雅京, 阿部 広明, 黄色 俊一
    1994 年 63 巻 5 号 p. 347-352
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    産下直後の卵に温湯処理を施してGe/+/W型および+/+/W型3倍体雌蚕を誘発し, そのサイズと重量についてGe/W型と+/W型2倍体雌の産下した卵と比較しつつ解析した。Ge/+/W型3倍体雌は+/+/W型3倍体雌と同様に不整形卵や潰れ卵を多く産下したが, 正常の形をした卵も混在していた。産下卵 (正常) の長径と短径については, Ge/+/W型3倍体雌の産下卵は, Ge/W型2倍体雌のそれより短く, +/+/W型3倍体および+/W型2倍体雌の産下した卵のそれらとほぼ同じ長さであった。卵重においても卵の長・短径の場合と同様, Ge/W>Ge/+/W≒+/+/W≒+/Wの関係であった。これらの結果から, Ge/+/W型3倍体雌個体では, Geは劣性遺伝子として発現しているものと判断した。
  • 嶋田 透, 〓 益彰, 野口 洋子, 永田 昌男, 小林 正彦
    1994 年 63 巻 5 号 p. 353-360
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコ核多角体病ウイルスの多角体非形成変異株における多角体タンパク質 (ポリヘドリン) の遺伝子の構造と発現を, 野生株と比較しながら解析し, 以下の知見を得た。
    1. 核多角体病ウイルスの野生株と多角体非形成変異株のそれぞれに感染したカイコ幼虫脂肪体のタンパク質を, 抗多角体抗体を用いたウェスタンブロッティング法で解析した結果, 変異株では陽性の泳動帯が現われず, ポリヘドリンが合成されていないことが判明した。
    2. 野生株と変異株に感染したカイコの脂肪体より全RNAを抽出し, ポリヘドリン遺伝子をプローブとしてノーザンハイブリダイゼーションを行った。変異株では陽性の泳動帯が認められず, ポリヘドリン遺伝子からmRNAへの転写が行われていないことが明らかになった。
    3. 野生株と変異株のDNAを制限酵素で切断し, ポリヘドリン遺伝子の断片をプローブとし, サザンハイブリダイゼーションを行った結果, 両者とも陽性の泳動帯を生じ, その分子量にも差異はなかった。したがって, ポリヘドリン遺伝子の内部および周辺に大きな欠失や挿入はないことが明らかになった。
    4. 野生株と変異株からポリヘドリン遺伝子, およびその上流をクローン化し, 塩基配列を比較したところ, 両株の間で, 約1kb中に5箇所の差異が認められた。特にバキュロウイルスの very late gene の転写開始点付近に共通に存在し, それらの転写に不可欠と考えられている配列ATAAGがATAAAに変化していることが明らかになった。したがって, この点変異が多角体非形成の原因である可能性が示唆された。
  • 佐々木 潤, 浅野 真一郎, 伴戸 久徳, 飯塚 敏彦
    1994 年 63 巻 5 号 p. 361-366
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    北海道各地で採集した187の土壌サンプルから, 合計63株の Bacillus thuringiensis を分離した。H抗血清により63株の B. thuringiensis のうち45株は serovar alesti, kurstaki, sotto, aizawai, israelensis, indiana, mexicanensis と同定され, 18株は運動性を持たず, 同定不可能であった。また, 分離株の中から新しい殺虫活性や強い殺虫活性を持つ株を選抜する目的で, 結晶タンパク質の形態の観察, 家蚕に対する殺虫活性試験およびPCR法を用いた cry 遺伝子の同定を行った。その結果, 新しい性質の株が3株得られた。サイコロ型結晶を産生する serovar mexicanensis TKD2-14, ならびに胞子に付着したひし形結晶を産生する serovar alesti KMK9-20は, それぞれの属する serovar の type strain とは結晶形態が異なっていた。また serovar sotto KMK1-36は, type strain 同様ひし形結晶を産生する株であったが, cry-IA (b)cryIA (c) 遺伝子を有しており, type strain とは cry 遺伝子構成が異なっていた。
  • 片瀬 雅彦
    1994 年 63 巻 5 号 p. 367-375
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    組織培養を用いたクワの繁殖技術を開発する目的で, 培養器内での発根・順化について検討した。培養器のガス交換改善のためにメンブラン・フィルタ (ミリシール) を1~4枚付け, 無機塩濃度を半分にしたMURASHIGE and SKOOGの培地に培養シュート (品種みつしげり) を置床したところ, シュートと根は良好に生長した。シュクロース無添加の培地では, ミリシールの枚数を増やすと生長量は増加した。シュクロースを3.0%添加した培地では, ミリシール1枚で生長は促進されたが, それ以上枚数を増やしても生長量は増加しなかった。発根培養後, バーミキュライトに移植して温室で育成したところ, ミリシールを3~4枚付けた培養器とシュクロース添加培地で発根培養した個体は, 葉の可視害が少なく乾物重も勝った。ミリシールを付けると培養器内湿度は低くなり, 培地の水分減少により水ポテンシャルが低下した。この影響で, 培養植物の水ストレス耐性が増すものと考えられる。
  • 但馬 文昭, 井上 正也, 石黒 善夫
    1994 年 63 巻 5 号 p. 376-382
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    生糸の自動節検査装置の開発するたあの基礎研究として, 糸の走行方向に対して直交する2方向からレーザー光を当て, 節による遮光量を節形状波形として計測し, 1方向からの計測結果と比較検討を行った。その結果, 節形状波形の幅および面積値において, 2方向からの計測結果は1方向からの計測結果に比べ, 平均値が大きく, 変動が小さくなることが知られ, 2方向計測により節形状の計測精度が改善されることが確認された。
  • 上石 洋一
    1994 年 63 巻 5 号 p. 383-391
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    絹の性能向上や重量増加を目的として, グラフト加工剤としてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル (HEMA) を, 架橋剤として水溶性のグリセロールポリグリシジルエーテル (GPE) を用い, 同一水溶液中で条件を変えて加工し, 付加率の変化や絹布の黄変, 手触りなどの変化を調べるとともに, 加工絹の機械的性質と防しわ性の試験, X線回折, 走査電子顕微鏡観察を行った。付加率はpHを3程度にすると20%以上が得られ, 布の黄変は酸性側に寄るほど大きくなった。防しわ性はグラフトのみにくらべて架橋剤を併用した方が優れていた。X線回折では, 付加率30%以下では絹フィブロインのβ構造の崩壊はみられなかった。付加率が増すにしたがいグラフトポリマーの反射に基づく無配向ハローが観察され, 強度も増加した。走査電子顕微鏡観察では, 付加率が大きくなるとグラフトポリマーの表面沈着が観察された。
  • 中国近代の生糸輸出貿易に関する研究 第III報
    顧 国達, 宇山 満, 濱崎 實
    1994 年 63 巻 5 号 p. 392-398
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    税関年報などに散在している生糸の貿易統計を利用し, 清末期における生糸の種類 (色) 別と港別の輸出量とその割合の推移を明らかにし, それぞれの変動要因についても検討を加えた上で, 蚕糸業の地域分布および輸出用生糸の出荷経路に基づき, 輸出生糸の産地分布を数量的に推計した。その結果, 生糸輸出における江浙地方の地位低下と他地方の地位向上が確認された。上海 (特に江浙地方) からの家蚕糸輸出量の停滞は, 主に器械製糸展開の遅れによると考えられる。1868~1911年の44年間における中国生糸の輸出総量は, 241,092tにのぼっていた。そのうち, 山東, 遼寧を主産地とした柞蚕糸は約1/6弱, 四川, 湖北, 湖南, 河南, 山東などを産地とした黄色家蚕糸は約1/10, 広東と広西を産地とした白色家蚕糸は約1/4強, 浙江, 江蘇, 安徽を産地とした白色家蚕糸は約1/2を占めていた。
  • 野口 洋子, 小林 正彦, 嶋田 透
    1994 年 63 巻 5 号 p. 399-406
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    稚蚕共同飼育における配蚕時の病原感染を集団的に診断するため, ポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction) によるカイコ核多角体病ウイルス (NPV) の検出法を検討した。正常蚕10,000頭から20,000頭に1ないし20頭のNPV感染蚕を混入し, 人工飼料育の飼育残沙または桑葉を含めた試料を, よく磨砕してアルカリ液を加え, 多角体を溶解した。1部を採取し, DNAを抽出して適当に希釈した後PCRを行って, アガロースゲル電気泳動でバンドを観察した。これにより, 飼育残沙や桑葉等を含んでいても, 20,000頭の正常蚕に1頭混入したNPV感染蚕の存在を診断することができた。多角体のアルカリ処理, ウイルスDNAの調整, プライマー等について最適の条件を検討し, 実用化のモデルを示した。
  • 桑樹の耐アルミニウム性に関する研究 (第2報)
    矢彦沢 清允, 山本 満寿夫, 押金 健吾
    1994 年 63 巻 5 号 p. 407-414
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    桑樹の生育に対するH+イオンおよびAl3+イオンの濃度の影響を水耕法により検討し, 次の知見を得た。1) 桑樹はAl添加により生育が著しく低下した。特に低位pHにおいてH+イオンよりAl3+イオンの影響を顕著にうけることが明らかとなった。2) まずクロロシスが下葉に現れ, その後, 側葉脈間の波形クロロシス, 中肋のクロロシスへと進行した。この症状は桑葉に発現する典型的なMg欠乏症によく類似している。また, 根は, 細根が太く, 短くなる顕著な矮小化を示した。
  • 北村 愛夫, 陳 開利, 柴本 秋男, 出村 誠
    1994 年 63 巻 5 号 p. 415-419
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    有機溶媒処理による絹の凝集構造変化について密度, 内部表面積および非結晶領域の分子間水素結合エネルギーオーダー分布 (いわゆるL. O. 分布) の解析から追究した。さらにこの処理絹の構造の安定性について, 水浸処理を追加しての凝集構造からも検討した。この結果有機溶媒処理により, 非結晶領域に構造弛緩がおこり, 微小な空隙が発生していることが分かり, 内部表面積の増大さらにL. O. 分布において, 中, 高相対湿度領域で大きくなり, この領域で破断される水素結合の多いことが明らかとなった。
  • 小林 公幸
    1994 年 63 巻 5 号 p. 420-422
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    多段循環式飼育装置による切断条桑育に対応する省力的除沙技術を確立するため, 除沙網を用いない自動除沙機構を開発した。
    1. 現行の多段循環式飼育装置とは飼育バケットの形状を異にし, 除沙時にその底部が片開きする試験用飼育装置を試作し, それによって自動除沙機構の開発を行った。
    2. 除沙は, 80mm間隔のくし状のシャフト (除沙フォーク) を飼育バケットの側壁部から挿入し, それによって蚕座の上半部を支え, 飼育バケット底部を片開きとして蚕さを落下させる機構とした。
    3. 飼育試験の結果, 除沙後の蚕座は慣行の網取り法よりやや厚めとなるが, 本機構によって除沙網を用いずに除沙できることが確認された。
  • 小林 公幸, 伊藤 郁男
    1994 年 63 巻 5 号 p. 423-424
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    多段循環式飼育装置の飼育バケットの循環速度を速めること等に対応するため, 循環の折り返し部における飼育バケットの振れ防止法を開発した。
    1. 試作装置は現行の多段循環式飼育装置と同様な形式とした。
    2. 折り返し部において, 飼育バケットを循環させる駆動用スプロケットと振れ止め用歯車を同軸シャフトによって回転させた。振れ止め用歯車は半径が駆動用スプロケットの1/2, 回転速度が2倍である。飼育バケットの駆動軸にも同径の歯車を固定して付設し, 両歯車が噛み合うことによって, 飼育バケットの振れが強制的に抑制される機構とした。
    3. 飼育試験の結果, 本方法は折り返し部における飼育バケットの振れ止めに有用であることが実証された。
  • 片桐 幸逸, 國友 義博, RICARDO ROMO DAVALOS, 岩田 益
    1994 年 63 巻 5 号 p. 425-426
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
  • 桑の内生生長物質に関する研究XII
    柳沢 幸男, 塩入 秀成, 工藤 鉄也, 大木 三男
    1994 年 63 巻 5 号 p. 427-430
    発行日: 1994/10/27
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    サイトカイニンは根で合成され, それが地上部に輸送されて葉の老化抑制や腋芽の発芽促進に関与していることが認められている (SKENE, 1975; NOODEN and LETHAM, 1984)。著者らは前報 (柳沢ら, 1992) でサイトカイニンの前駆物質であるイソペンテニルアデノシン (IPA) (LETHAM and PALNI, 1983; CUTTING, 1991) が側根などに多いことを認めた。また, 組織培養などでは培地のサイトカイニンとオーキシンのバランスにより, 芽と根の生長が促進されることが分かっている (田口, 1983; GARDNER et al., 1985)。従って, ここでは挿木における発芽および発根とサイトカイニン含量の変化との関係を検討した。
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