日本蚕糸学雑誌
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67 巻, 6 号
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  • 長坂 幸吉, 間瀬 啓介, 岡田 英二, 山本 俊雄
    1998 年 67 巻 6 号 p. 437-443
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    拡散係数を用いて均質な環境条件での幼虫の分散性の遺伝解析を試みた。活発な分散をする青熟 (A) と不活発な大造 (松村) との間で交配を行い, 親品種とF1, BF1の拡散係数を比較した。孵化直後の幼虫の拡散係数の平均値は, 青熟で約52, 大造で3 (mm2/分) であった。F1では12~15 (mm2/分) と両親品種の間の値を示し, 正逆交雑の結果に有意差はみられなかった。BF1では同一雌由来の卵塊内に2種類の活発さの個体が生じたと考えられたので, Inoue (1978) の複合拡散モデルによる解析法を使って拡散係数と分離比を推定した。その結果, BF1では戻し親と同程度の活発さの集団と, F1と同程度の活発さの集団とがほぼ1:1の割合で分離すると推定された。以上から, 蟻蚕の分散性には主動遺伝子の存在が示唆された。
  • 杉村 順夫, 新田 育朗, 森田 洋二, 石川 純代, 森 智世, 小谷 英治, 古澤 壽治
    1998 年 67 巻 6 号 p. 445-451
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    クワ葉の上面表層に存在している巨細胞におけるカルシウムの蓄積挙動を検討した。組織化学的手法を用いてカルシウムを検出したとき, カルシウム蓄積程度は葉の加齢と相関関係があった。カルシウム蓄積は巨細胞の中央部にある“Cap”部位から始まり, 加齢に伴ってカルシウムの結晶が増加し, 液胞内を占領していた。この蓄積プロセスを更に走査型X線分析顕微鏡を用いて検討した。面分析の結果, カルシウムは特異的に巨細胞で検出され, 組織化学的結果と一致した。加えて, 点分析から巨細胞にケイ素が存在することが明らかになった。
  • 小野 恵子, 岩下 嘉光
    1998 年 67 巻 6 号 p. 453-459
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    Bacillus thuringiensis の結晶性毒素をカイコ幼虫に経口接種して, 毒素の中腸皮膜に対する細胞障害について病理組織学的に観察を行った。中腸皮膜の変性は経口接種後30分以内に, 主として前部の細胞群で生じた。円筒細胞では, まず微絨毛が変形, 消失した。次いで細胞質の先端部のミトコンドリアと小胞体が変形, 崩壊した。さらに細胞質は電子密度の低下と共に膨潤し, 胃腔に向かって突出した。突出した細胞質は破裂したり, 胃腔内に脱落した。一方, 盃状細胞では細胞質の変性に伴い, 微絨毛が変形, 消失し, 微絨毛内のミトコンドリアは細胞質に移行して崩壊した。細胞質が変性すると, 細胞は基底膜上で球状に縮小した。両細胞の障害は同時に生起し, 平行的に進行した。本報告は中毒蚕の致死と, 盃状細胞のイオン調節機能の失調との関連についても病理組織学的に考察を行った。
  • 白田 昭, 加藤 弘
    1998 年 67 巻 6 号 p. 461-466
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    市販されている食用トキイロヒラタケから抽出された色素は, 絹布等をトキ色 (ピンク掛かった肌色) に染色することが判明した。その概要をまとめると以下の通りである。(1)本色素は水やメタノールなどで容易に抽出される。(2)本色素は水溶液の状態では絹を黄色に染色し, 80%メタノールなどの有機溶媒中ではトキ色に染色する。(3)本色素は, 水の中では安定であるが, 有機溶媒の中では不安定で1日で染色力を失う。(4)以上のことから, 80~90%メタノールを用いて, 抽出と染色を同時に行う同時染色法と, 2時間抽出して直ちに染色する抽出液染色法を確立した。(5)本色素は, ビニロンおよびナイロンを最も良く染色し, ついで絹を良く染色した。しかし, ポリエステル, アクリル, レーヨン, アセテート, 羊毛, 綿をほとんど染色しない。(6)染色堅牢度をみると, 耐光性は弱いが洗濯性などは極めて強い。(7)本色素は安全性が高いと推察されることから, 食品や化粧品の着色剤として利用できる可能性を論じた。
  • カイコの翅原基の有糸分裂とDNA合成を指標にして
    陳 樹毅, 管家 英治, 川崎 秀樹
    1998 年 67 巻 6 号 p. 467-472
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    昆虫の細胞分裂促進因子を検出する方法の検討を行った。カイコの翅原基の有糸分裂とDNA合成を指標にした。用いる翅原基の発育ステージ, 20-ハイドロキシエクダイソン, カイコの体液の添加について検討を行った。5齢2, 3日目の翅原基では, 20E, 体液の添加による有糸分裂数, DNA合成に顕著な差が認められなかったが, 5齢1日目の翅原基では認められた。24時間ホルモンフリーの後, 5, 10ng/mlの20Eの添加により分裂の再開が認められた。体液の添加は分裂の再開時間を早めた。本システムを用いて脊椎動物の増殖因子の検定を行ったところ, インシュリンに細胞分裂促進効果のあることが判明した。5齢1日目の翅原基を用いた検定系の有効性が証明できた。
  • 清野 敦, 佐藤 由美子, 山下 哲郎, 佐藤 行洋, 鈴木 幸一
    1998 年 67 巻 6 号 p. 473-478
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    天蚕休眠前幼虫の体液抽出物を前幼虫に注射したところ, 注射した部位に麻痺性活性が認められた。また5齢幼虫の体液抽出物でも同様の活性が確認できた。そこで5齢幼虫の体液抽出物からこの活性因子を単離し, 一次構造を決定した。23残基からなるペプチドNH2-Glu-Asn-Phe-Ala-Gly-Gly-Cys-Ala-Thr-Gly-Phe-Met-Arg-Thr-Ala-Asp-Gly-Arg-Cys-Lys-Pro-Thr-Phe-COOHは, 鱗翅目の Paralytic peptides, Plasmatocyte-spreading peptide, Growth-blocking peptide と高い相同性を示したことから, 麻痺性ペプチドの一種であると考えられる。鱗翅目昆虫において普遍的に存在する可能性が高いため, カイコ (大造) の5齢幼虫に合成ペプチドを注射し活性を調査したところ, 同様の効果が認められた。カイコにおいて dose response を検討したところED50は170nM, LD50は100μMと1mMの間であった。
  • 西岡 孝彦, 佐藤 弘, 倉澤 良浩
    1998 年 67 巻 6 号 p. 479-484
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    繭中心から繭殻までの長さの系列を周期波形と考えると繭ごとにフーリェ係数が得られる。フーリェ係数を主成分分析の特性値として解析すると, 繭形に依存したスコアが得られる。主成分分析は分散共分散行列から得たものであり, 繭の形状を測定する際の尺度と同じ尺度のスコアが得られる。従って, 蚕品種別に第1, 第2主成分の平均値の組み合せを得ることで, 蚕品種に依存した繭形状を特徴づける代表値を得ることができる。
  • 1. 炭化水素
    岩 成美
    1998 年 67 巻 6 号 p. 485-491
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    繭層に存在する炭化水素の化学組成およびその構成割合を詳細に調査するとともに解寄との関連性について検討した。供試蚕品種は, 本学で育成した解辞の最も良い品種 (PN) や繰糸不能な品種 (大造) などである。これらの繭層を外層, 中層, 内層に分けて, IR, GCおよびGC-MSなどを用いて分析した。
    その結果, 繭層の種類および部位によって炭化水素の構成割合に違いが見られた。PNは大造と比較して炭素数の小さいイソ炭化水素の偶数鎖の割合が高かった。中でも, 3エチルヘキサコサンの割合が非常に高かった。この物質は, 大造では外層から内層に行くにつれてその割合が減少していたが, PNでは中層の方が外層よりも多かった。
    以上の結果から, 炭素数の小さいイソ炭化水素の偶数鎖 (3エチルヘキサコサン) の存在は解紆を良くする要因の一つかもしれない。
  • 河原 豊
    1998 年 67 巻 6 号 p. 493-498
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    よこ糸使いを変えながら, 種々の織物組織 (朱子, じん目, バスケット, 斜紋, 朱子よこ2重) を有する絹ネクタイ生地を製織して, せん断及び曲げ特性を調べた。また, 一部の生地には蒸絨加工を行い, 仕上げ効果を調べた。よこ糸に21d生糸×6本からなる精練糸のかわりに21d生糸×3本からなる精練糸を2本引き揃えて用いたとき, 全ての織物組織においてせん断及び曲げ変形に関する剛性とヒステリシスが増加した。よこ糸にメタクリルアミドでグラフト加工した絹を用いたとき, せん断変形に関する剛性とヒステリシスが減少した。一方, 朱子組織の織物では曲げ剛性が増加した。メタクリルアミドによるグラフト加工は絹の帯電性を低下させるのに効果的であった。蒸絨加工は, せん断剛性を低下させ, せん断及び曲げ変形に関するヒステリシスを減少させた。
  • 和田 早苗, 清水 進
    1998 年 67 巻 6 号 p. 499-502
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    昆虫病原糸状菌である Beauveria brongniartii 菌糸からのプロトプラスト分離における諸条件について, 2菌株を用い検討した。調査した4種の細胞壁分解酵素のうち, 両菌株において Novozyme 234で最も多くのプロトプラストが分離された。分離量は酵素反応1時間後に最大になり, 以後は次第に減少した。また, 用いる浸透圧調整液を比較したところ, 0.7MのNaClまたはKClを含む調整液を用いた場合に良い結果が得られ, 同じく0.7Mのマンニトールまたはグルコースを含むものでは分離量が少なかった。さらに, 2菌株の結果を比較すると, 最適な細胞壁分解酵素濃度や浸透圧調整液の効果において違いが見られたことから, 菌株により細胞壁の構造に差異があることが示唆された。
  • 三田村 敏正
    1998 年 67 巻 6 号 p. 503-506
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    ウスタビガの有効利用を目的とした飼育技術確立のため, エゾノキヌヤナギにおける野外放飼育と全齢人工飼料育について検討した。エゾノキヌヤナギでの野外放飼育はクヌギと比べて, 結繭率, 繭重で差がなかった。エゾノキヌヤナギはクヌギよりも1カ月ほど発芽が早いため, 孵化抑制のできない本種の飼育には有効と考えられた。エゾノキヌヤナギ葉粉末を用いた全齢人工飼料育では, 幼虫の胸脚異常割合は10%以下であり, 結繭率, 繭重ともクヌギ葉粉末飼料より高く人工飼料原料としても有効と考えられた。
  • 山口 拓志, 池田 健太郎, 齋藤 英毅, 松本 陽一, 野末 雅之, 柳沢 勝人, 茅野 誠司, 佐藤 俊一, 児玉 徹
    1998 年 67 巻 6 号 p. 507-510
    発行日: 1998/12/29
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    高速画像解析装置KS 300ver. 2.00を用いて, クワ芽枯病菌が含まれる. Fusarium solani β型と非病原菌のγ型の識別を検討したところ, 大型分生子の幅, および面積を中心線で割った値のそれぞれで両者を識別することが可能であった。クワ芽枯病菌である F. lateritium f. sp. mori と非病原菌の F. roseum ‘Graminearum’については今回検討したいずれの測定値を用いても識別できなかった。しかし, KS法は従来法に比べ, 短時間で個人差なく誰でも正確に測定することが可能である, という大きな利点のあることが判明した。
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