日本蚕糸学雑誌
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70 巻, 2 号
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  • I. Folic acid γ-glutamyl hydrolase (conjugase) と dihydrofolate reductase
    黄 龍全, 張 剣韻, 早川 享志, 柘植 治人
    2001 年 70 巻 2 号 p. 85-88
    発行日: 2001/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコの5齢幼虫における葉酸の吸収, 利用及び葉酸化合物転換に重要な役割を果たしている folic γ-glutamyl hydrolase (conjugase) と dihydrofolate reductase の活性分布を調査した。Conjugse は幼虫の体液, 脂肪体および中腸に局在し, 体液と脂肪体は高い酵素活性を示した。また, dihydrofolate reductase は幼虫の体液以外の各組織に局在し, 中腸での活性は低く, 脂肪体と絹糸腺で高い酵素活性を示した。この結果は, カイコの場合, 飼料中の PteGlu の大部分は吸収される時点において, 中腸では還元されず, そのまま体液中に移行し, 各組織に取り込まれた後, 強い dihydrofolate reductase の作用を受けて速やかにH4PteGlu に還元されることを示唆する。
  • II. 1炭素単位と結合するテトラヒドロ葉酸の生成と転換に関与する酵素
    黄 龍全, 張 剣韻, 早川 享志, 柘植 治人
    2001 年 70 巻 2 号 p. 89-95
    発行日: 2001/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコの5齢幼虫における1炭素単位と結合するテトラヒドロ葉酸の生成と転換反応を触媒する酵素の活性分布を調査した。セリンの3位の1炭素ユニットを用いて5, 10-CH2-H4PteGluの生成を触媒する serine hydroxymethyltransferase [EC 2.1. 2.1] と, ギ酸の1炭素ユニットを利用して10-CHO-H4PteGluの生成を触媒する10-formyltetrahydro-folate synthase [EC 6.3. 4.3] および, 哺乳類などにおいて1炭素ユニットを利用する系の中枢と言われる5, 10-CH2-H4PteGluと10-CHO-H4PteGluの相互転換反応を触媒する酵素系の存在が明らかにされた。酵素は幼虫の体液以外の各組織に分布し, いずれも脂肪体とマルピーギ管では高い酵素活性を示した。一方, ヒスチジンの分解系で生成したホルムイミノグルタミン酸のホルムイミノ基を利用し, 5-NH=CH-H4PteGluを経て5, 10-CH=H4PteGluの生成に関与する酵素系, 5-CH3-H4PteGluの生成を触媒する methylenetetrahydrofolate reductase [EC 1.7. 99.5] 及び, 5-CH3-H4PteGluからH4PteGluへの再生を触媒する methionine synthase [EC 2.1. 1.13] の活性はいずれの幼虫組織においても検出されなかった。本研究の結果から推定されるカイコにおける葉酸化合物の代謝経路は哺乳類などと異なっていた。すなわち, カイコにおいてはH4PteGluが組織細胞中の葉酸補酵素代謝系の出発物質であり, ホモシステインからメチオニンへのメチル化に依存する5, 10-CH2-H4PteGlu→5-CH3-H4PteGlu→H4PteGluの転換経路は存在しておらず, 1炭素単位と結合するテトラヒドロ葉酸の生成と転換は主にプリンやチミジル酸の核酸合成系とセリン・グリシン転換系に向かっている。
  • 常山 泉, 田中 幸夫
    2001 年 70 巻 2 号 p. 97-101
    発行日: 2001/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    炭酸カルシウムが蟻蚕の摂食行動に及ぼす影響について調査した。蚕品種は「東」,「朝」及び「支131号」を供試した。セルロース粉末, 寒天及び蒸留水に炭酸カルシウムを加えたものを孵化直後の蟻蚕に与え, 72時間後の排出糞数と飼料上に留まっている蟻蚕の割合を調査した。飼育条件は, 25℃, 全暗とし, 同一の母蛾から得た蟻蚕を各試験区に50頭当て, 10蛾反復で行った。この結果, 全ての供試品種が飼料を摂食し, 炭酸カルシウムに摂食誘起作用があることと, 蟻蚕を飼料上に引き留める効果が確認された。さらに, 炭酸カルシウムとショ糖を組み合わせると相乗的な効果が現われ, 摂食量はショ糖区の3~16倍となった。
  • 小島 桂, 平野 文, 浅野 眞一郎, 佐原 健, 伴戸 久徳
    2001 年 70 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2001/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    2種類の単鎖DNAをゲノムにもつBmDNV-2は, 他のパルボウイルスとは異なるゲノムDNAの複製機構を有していると考えられる。本ウイルスの2種類のゲノムは両末端に53塩基からなる共通末端配列CTSをもち, この配列がウイルス複製に重要な機能を持つと考えられていたが, ゲルシフトアッセイの結果, 5'-CTSおよび3'-CTSにはウイルス感染時に特異的に結合するタンパク質が存在し, 3'-CTSに結合するタンパク質の少なくとも1つはウイルスの構成タンパク質であることが推定された。また, 本ウイルスが感染したカイコの中腸には感染特異的DNAポリメラーゼ活性が検出されたが, この活性とウイルス構成タンパク質であるDNAポリメラーゼ様タンパク質 (P128) との関連性は, 現時点では明らかでない。
  • 河原 豊, 花之内 智彦, 辻 正樹, 木村 照夫, 鞠谷 信三
    2001 年 70 巻 2 号 p. 109-115
    発行日: 2001/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    天蚕絹, さく蚕絹, 家蚕絹を遊星型ボールミルを用いてフィブリル化させ, フィブリルの形態および構造を, 透過型電子顕微鏡, 制限視野電子線回折, ならびに, ダイヤモンドATR-FTIR法によって調べた。透過型電子顕微鏡観察において, リボン状フィブリルは野蚕絹 (天蚕絹, さく蚕絹) についてのみ観察され, 家蚕絹ではほとんど観察されなかった。制限視野電子線回折から, いずれの絹においてもフィブリル化処理によって非晶化することがわかった。しかし, 非晶化はダイヤモンドATR-FTIR法で測定されるスペクトルにはほとんど影響しなかった。本研究のフィブリル化処理では絹のβシート構造は破壊されることはなく, 単にβシートのスタッキングに乱れが生じたために非晶化したと考えられる。
  • 加古 武
    2001 年 70 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2001/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    直接染料による酸性浴染法でのキトサン処理柞蚕絹織物の染着性について検討した。C. I. Direct Orange 39, C. I. Direct Brown 106による無処理織物, キトサン処理織物のK/S値は, いずれも染浴pH約6~3まで著しく増加した。pH約4より低い場合, C. I. Direct Brown 106 (分子量1300) では, 無処理織物のK/S値はキトサン処理織物より高いが, C. I. Direct Orange 39 (分子量299) は, 逆に小さくなった。また, pH約8~6では, いずれの染料もキトサン処理織物のK/S値は, 無処理織物がより大きくなった。C. I. Direct Orange 39, C. I. Direct Brown 106では, 染色時間の増加に伴って織物のK/S値はいずれも増加し, 酸性浴染法のK/S値は中性染浴法より大きい傾向を示した。また, 酸性浴染法では, 染色初期 (染色温度80℃) は, いずれの染料もキトサン処理織物の染色速度は無処理織物より小さいが, C. I. Direct Orange 39は C. I. Direct Brown 106より, いずれも大きかった。酸性浴染法 (pH 3.20) において, 染色温度90℃が30℃より増加し, C. I. Direct Orange 39では, 無処理織物, キトサン処理織物のK/S値は, それぞれ26.1%, 13.5%, また, C. I. Direct Brown 106では, それぞれ52.2%, 9.0%増加した。
    中性浴染法による緩衝液 (pH 7.20) で染色した織物のK/S値は, 塩化ナトリウム添加液 (60%owf) の場合より大きく, C. I. Direct Orange 39では無処理織物2.9倍, キトサン処理織物1.5倍, C. I. Direct Brown 106では無処理織物2.0倍, キトサン処理織物1.4倍, いずれも増加する傾向を示した。
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