高分子論文集
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42 巻, 10 号
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  • 森 有一
    1985 年 42 巻 10 号 p. 601-615
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    従来, 研究されてきた血液適合性材料について概観し材料表面と血液成分との相互作用という観点から血液適合性のメカニズムを解析すると同時に筆者が新たに開発中の2種類の血液適合性材料 ((1) ポリエチレンオキサイド (PEO) 鎖を有するハイドロゲル, (2) ヘパリン化親水性材料) についてそのメカニズムの解析を中心として論じた。
    (1) PEO鎖を有するハイドロゲルは血液成分の付着が著しく抑制され, その結果, 優れた血液適合性がin vitro及びin vivo評価で実証された. 本材料表面から血液中に伸びる親水性及び柔軟性に富むPEO長鎖が浸透圧効果及び排除体積効果により効果的に血液成分の付着を防止すると同時に, 一種の緩衝材の役割を果たすことにより血液成分への損傷を抑制しているものと考えられる。
    (2) ヘバリン化親水性材料は表面から血液中に溶出するヘパリンが常に内部から表面に補給されつづけるという性質をもつていて, 抗血栓性が長期間持続するという特徴がある。しかしながら生体内に留置された初期に最も血栓が形成されやすく, その時期をうまく乗り切れば生体のadaptation機能が作用し, 人工材料が生体に同化してしまい長期間の血液適合性が付与されうる可能性が示唆された。
  • 林 和子, 村田 健一, 山本 襄, 山下 岩男
    1985 年 42 巻 10 号 p. 617-622
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    空気中前照射法により, 低密度ポリエチレンチューブ (内径3mm) に0~3.0%の橋かけ剤N, N-メチレンビスアクリルアミド (MBA) 存在下に, アクリルアミドをグラフト共重合し, 得られた表面のキャラクタリゼーションと生体内抗血栓性評価を行つた。その結果, FT-IR-ATR分析から求めた表面グラフト率は, MBA濃度とともに増加し, グラフト表面の見掛けの水の接触角は, MBA濃度0.5%付近で極大となったがMBA濃度とともに表面粗さも増すことから, 真のグラフト表面の水のぬれは, MBA濃度とともに高くなると判断した. 犬末梢静脈中での開存時間はMBAの存在により大きく短縮した. これは, 橋かけにより水溶性グラフト鎖の運動性が抑えられたために, タンパク吸着や血小板粘着を抑制する散漫層の水中での形成が妨げられたことによると推定した。表面粗さの抗血栓性に及ぼす影響は, それほど大きくないと考えられた。
  • 三山 創, 桑野 敦司, 藤井 信行, 長岡 昭二, 森 有一, 野一色 泰晴
    1985 年 42 巻 10 号 p. 623-628
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    光グラフト重合により, 長さの異なるポリエチレンオキシド鎖を有するポリアクリロニトリルを合成した. 得られたグラフトポリマーのエチレンオキシド含量, 含水率, 界面自由エネルギー, NMRスペクトル, 及び透過電顕によるポリマーの微細構造の測定を行った. また, ポリマー表面への血小板粘着のin vivoテストを行った. その結果, エチレンオキシド含量が高いポリマー, すなわち, 高含水率のポリマーでは, ポリマー表面への血小板の粘着量は著しく小さな値を示した. これらの実験結果に基づき, 血小板粘着抑制に対するグラフトボリマーの種々の物性の効果について検討を行った.
  • 手塚 育志, 松井 彩絵里, 福島 晃, 宮 正光, 今井 清和, 片岡 一則, 桜井 靖久
    1985 年 42 巻 10 号 p. 629-634
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    グラフト鎖長及びグラフト密度の制御されたポリビニルアルコール (PVA) /ポリジメチルシロキサン (PDMS) グラフト共重合体を合成し, この共重合体膜表面の乾燥状態及び水中状態のキャラクタリゼーションを接触角測定により行った. 乾燥状態での膜表面は, ほぼ完全にPDMS成分で覆われているが, 水中ではその表面状態が著しく異なっていることが示された. このグラフト共重合体の血液適合性について, 血小板の粘着率及び粘着血小板の形態変化に着目して評価した. グラフト共重合体中のPDMS鎖長及びシロキサン含量の変化に伴い血小板粘着率は大きく変化し, 接触角測定から予測される表面の変化を裏付けた. 更に, 接触角測定からは検出できない変化も存在することが示唆された. DMSシロキサンユニット鎖長40, シロキサンユニット含量2.7 mol%のグラフト共重合体で最も低い粘着率が認められ, 血小板の形態変化も小さいことが示された.
  • 高松 俊昭, 円乗 伸子
    1985 年 42 巻 10 号 p. 635-646
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    管状またはシート状の多孔質ポリ四フッ化エチレン (EPTFE) をポリビニルアルコール (PVA), ポリ-N-ビニルピロリドン (PNVP), ポリアクリルアミド (PAAm), ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリラート (PHEMA), アルブミン, フィブリノーゲンまたはγ-グロブリンの溶液に漬けて, 減, 加圧処理を繰り返し, EPTFE中にこれらの溶液を吸収させた. 溶液吸収率はEPTFEのフィプリン長の増加に伴い増加した. これらの試料をヒトの多血小板血漿 (PRP) に接触し, 37℃で2.5時間放置したあと試料面への血小板粘着状況を走査型電顕で観察した. EPTFE-親水性ポリマー表面での血小板粘着はPHEMA>PVA>PNVP=PAAmの順に減少した. EPTFE-血漿タンパク表面ではγ-グロブリン>フィブリノーゲン>アルブミンの順であった. 血小板粘着度は溶液吸収率にはあまり依存せず, 吸収剤の化学構造が関係している. これら試料の水に対する接触角はPVA>RAAm>PNVP>PHEMAの順に減少したが粒触角と血小板粘着の相関は明らかではない. in vitroテストでEPTFEにPAAmを吸収させたものが血小板粘着が最も少なく, 抗血栓性に優れているようである.
  • 青柳 隆夫, 宇留野 道生, 明見 仁, 篠原 功, 岡野 光夫, 片岡 一則, 桜井 靖久
    1985 年 42 巻 10 号 p. 647-654
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    親水-疎水型のみならず親水性連鎖どうし, 疎水性連鎖どうしからなる極々のプロックコポリマーを用いて, マイクロスフィアカラム法による血小板粘着挙動を検討した. その結果, ドメインの連続したミクロ相分離構造を形成するブロックコポリマー表面で血小板の粘着量が著しく減少し, しかもブロックコポリマーのドメイン間表面自由エネルギー差が血小板粘着抑制に大きな影響を及ぼしていることが見いだされた. また, ブロックコポリマーにおいては, 血小板流出曲線から求めた血小板凝集時間 (PAT) が非常に長いことから, 血小板の活性化を効果的に抑制していることが明らかとなった. 更に, ウサギ頚部動静脈間シャントを用いた実験においては, ホモポリマーを用いた場合に現れる血小板数の急激な減少や血小板凝集能の低下といった現象が, プロックコポリマーを用いた場合には現れないことから, 優れた血液適合性を有することが明らかとなった.
  • 佐野 政史, 由井 伸彦, 讃井 浩平, 緒方 直哉, 片岡 一則, 岡野 光夫, 桜井 靖久
    1985 年 42 巻 10 号 p. 655-662
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    種々の連鎖長を有するポリスチレン-ナイロン6ABA型プロック共重合体の表面微細構造と血小板粘着性との関係を検討した. プロック共重合体は, スチレン及びナイロン6のプレポリマーを用いて高分子反応により合成した. 材料微細構造は, 示差走差熱分析, 透過型電子顕微鏡, X線回折により解析し, また材料表面におげる血小板粘着性は, ミクロスフィアーカラム法により評価した. いずれの共重合体も, ポリスチレンとナイロン6との相分離構造を形成しているものの, それら2相の分布状態及び結晶化度はプロック連鎖長により種々異なっていた. 血小板との相互作用では, 同様なプロック組成においても, より結晶化度の高い共重合体表面において粘着抑制効果がみられ, ナイロン6に起因する結晶性領域の大きさや分布状態が粘着抑制に強く寄与していることが明らかとなった.
  • 宮本 正樹, 笹川 滋, 高倉 輝夫
    1985 年 42 巻 10 号 p. 663-670
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    ポリテトラメチレングリコール (PTMG) 分子量の異なる一連の含フッ素セグメント化ポリウレタン (FPU) を合成し, ヒト白血球 (顆粒球やリンパ球サブセット) に対する粘着反応性を調べた結果, FPUに次の特性が見いだされた. (1) PTMG分子量は, FPUと各細胞との相互作用を支配する重要な因子であった. (2) PTMG分子量が約2000のFPU (FPU-50E) は, 顆粒球機能保持が高く, 顆粒球を取り扱う器材 (試験管, 保存バッグ) として有効であった. (3) FPU-50Eは, Ca2+, Mg2+共存下でリンパ球2大集団 (Tcell, Bcell) の内Bcellを特異的に粘着させたが, Ca2+, Mg2+非存在下ではBcell粘着が著しく低下した. そして, 2価カチオンや接触時間などをコントロールすることによりT, Bcell, 更には他のリンパ球亜集団をそれぞれ分離できる粘着担体としての可能性が示された. これらの効果は, FPU-50Eのミクロ相分離構造と関連があるものと考えられた.
  • 川ロ 春馬, 野尻 法夫, 大塚 保治, 宮本 正樹, 笹川 滋
    1985 年 42 巻 10 号 p. 671-678
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    顆粒球とラテックス粒子の相互作用 (顆粒球による粒子の貪食や顆粒球からの放出成分による粒子の凝集) の進展に伴う酸素消費・顆粒球体積の増加を測定し, 両測定値の意義・相違を比較・検討した. 酸素消費量は1μm前後の粒径のラテックス-顆粒球混合系で最大であったが, 顆粒球体積増加はそれとは異なる粒径依存性, 時間依存性を示し, 特に, 顆粒球との共存下で凝集反応を受けやすい疎水性小粒子ラテックス系で特異な現象が認められた.
  • 相澤 益男, 矢尾板 仁, 碇山 義人
    1985 年 42 巻 10 号 p. 679-684
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    赤血球の表面負荷電に着目し, SnO2あるいはIn2O3などの電位を制御して, 材料表面における赤血球の吸着を電気的に制御した. しかし電気的に吸着した赤血球は容易に脱着しなかった. そこでSnO2の表面に疎水性分子膜を形成して, 表面吸着を緩和させた. 疎水性分子膜は, (1) SnO2表面にステアリルシリル基を導入する方法, 及び (2) SnO2表面にステアリン酸のLB膜を形成する方法によって作成した. その結果, 疎水性分子膜を形成することによって, 非可逆的に強く吸着する赤血球は著しく減少し, 表面近傍に弱く吸着して不動化される赤血球が増大した. この不動化赤血球数は顕著な電位依存性を示し, 電位変動によって可逆的に吸着 (不動化) 脱着を繰り返し行えることが明らかとなった.
  • 湯浅 真, 谷 雄一郎, 西出 宏之, 土田 英俊
    1985 年 42 巻 10 号 p. 685-688
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/03/25
    ジャーナル フリー
    リン脂質二層膜リポソームの層間に包埋された, ヘム誘導体 [5, 10, 15, 20-テトラ (α, α, α, α-0-ビバルアミドフェニル) ポルフィナト鉄 (II) -モノ (1-ラウリル-2-メチルイミダゾール)] は, 生理条件溶液 (pH7.4, 37℃, 生理食塩水) 中で酸素を可逆的に結合する. この系の酸素親和性 (p50=48mmHg (37℃)) 及び酸素船巌 (kon=8.1×103M-1S-1 (25℃)) は, 人血とほぼ同じ値である. リン酸または炭酸の緩衝液, あるいは輸液, または血漿にヘム包埋リポソームを分散させた溶液について, 酸素運搬能を人血の場合と比較した. 脂質膜にコレステロール, 糖タンパク質分あるいはポリペプチド (ポリ (L-ロイシン), ポリ (L-リシン), ポリ (L-グルタミン酸)) を添加した系についても検討した.
  • 鈴木 亨, 池田 和代, 伴野 丞計
    1985 年 42 巻 10 号 p. 689-691
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    塩化シアヌルで活性化したポリエチレンゲリコール (PEG) をグラフト化したヒト免疫グロブリンG (IgG) の界面凝集性・界面活性に及ぼす, PEG分子量, グラフト化量の影響について検討した. IgGの界面凝集性は, グラフトするPEGの分子量, 分子数が増加するほど低下した. 分子量5.600のPEGでは, IgG1分子あたり1分子のPEGをグラフトすると, ほぼ完全に凝集が抑制された. 一方, PEGグラフト化IgG溶液の表面圧は, ヒト血清アルブミンのそれより高く, PEGの分子量・分子数が増加するほど上昇した. このような界面化学的性質は, 界面へのPEGの優先吸着と, 界面領域からのIgG分子の排除に由来するものと解釈された.
  • 平岡 淳一郎, 荻原 忠, 桜井 聡, 末光 淳輔, 赤池 敏宏
    1985 年 42 巻 10 号 p. 693-697
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    高分子材料とimmunogtoblin G (IgG) の吸着相互作用について, 既報のマイクロスフィアカラム法を用いて解析を行った. 高分子材料としてはポリメタクリラート誘導体を用いて, その構造上のパラメーター (親-疎水性, 実効荷電など) がIgGの吸着挙動に及ぼす影響について検討した結果, IgG分子はポリメタクリラート誘導体に対しては, 疎水的相互作用や複数の相互作用の協同効果による吸着が主体であり, 実効荷電を持つ材料においても静電結合とみられる吸着の割合は少なかった. また, IgGをF (ab′) 2・Fcのフラグメントに分け, 各フラグメントの吸着挙動を解析した結果, 表面荷電がneutralである材料に対して正荷電を導入することでFabサイトの, 負荷電を導入することでFcサイトの吸着親和性がそれぞれ増加する傾向を示した.
  • 岩田 博夫, 筏 義人
    1985 年 42 巻 10 号 p. 699-703
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    人工材料表面に吸着したタンパク質の高次構造を研究する一つの手段として酵素分子の酵素活性と高次構造との関係に着目して研究を行った. 線溶系活性化酵素であるウロキナーゼを各種高分子材料に吸着させ, その熱失活速度及び失活量の放射線量依存性を求め, タンパク質と材料との相互作用に関して知見を得た. 70℃ における熱失活速度は水-材料問の界面張力の大きさに依存しており, セルロースやエチレン-ビニルアルコール共重合体のように界面張力の小さな材料表面では失活速度は低かった. 一方, ポサエチレンテレフタラート, ナイロン6, ポリフッ化ピニリデンのように界面張力の大きい材料表面では大きな失活速度を示した. またγ線による失活の放射線量依存性も熱失活の場合と同様に, 水-材料間の界面張力に依存しており, 界面張力の大きいフィルムほどγ線に対する感受性が高くなっている. 以上の結果から大きな界面自由エネルギーはタンパク質を変性しやすくしているといえる.
  • 大道 高弘, 由良 洋文, 石田 正夫, 赤池 敏宏
    1985 年 42 巻 10 号 p. 705-712
    発行日: 1985/10/25
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    タンパク質の代表としてレドッケス活性タンパク質であるチトクロムCを選び, このタンパク質と材料との相互作用を電気化学的な手法により解析した. すなわち, このタンパク質のレドックス反応を未修飾電極および高分子被覆電極を用いて解析することにより, このタンパク質と電極材料, 更には, このタンパク質とその高分子材料との相互作用を解析できることが分かった. たとえば, チトクロムCと材料との相互作用の種類及び強さ, 更には, 材料表面に対するチトクロムCの配向性, そしてその材料上でのチトクロムCのコンポメーション変化の有無などについての情報を得ることができた. このような手法は, タンパク質-材料間相互作用を高感度で, しかもin situで解析できる新しい手法として注目される. 更にこの手法は, 今回用いたチトクロムCにかぎらず, 他のレドックスタンバク質にも応用できると考えられる.
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