石油類火災の消火剤として, ケラチン加水分解物系泡消火剤が使われているが, Fe (II) イオンとケラチン加水分解物とのコンプレックス構造を
13C NMRを用いて調べた. ケラチン加水分解物にFe (II) イオンを加えると,
13C NMRスペクトルの3本のピークで変化が見られた. これはケラチン加氷分解物に含まれるアミノ酸残基にFe (II) イオンが配位して, メチレン基の変化が
13C NMRスペクトルに現れたと推定した. そこで, この複雑なスペクトルを解析するために, モデル化合物としてポリ-L-オルニチンやポリ-L-リジンなどを選びFe (II) やCu (II) イオンとのコンプレックス形成能を調べた. ポリオルニチンとFe (II) との反応では,
13Cピークのブロードニングと低磁場シフトが観察され, Fe
2+が主にオルニチンの側鎖末端のアミノ基と配位したと考えられる. Cu (II) との反応ではピークの明瞭なブロードニングが見られたが, Fe (II) と比べ, コンプレックス形成能は弱いと考えられる. ポリリジンとFe (II) との反応では, 明瞭なピークの変化は観察されなかったが, pH 4.5でNMRを測定すると, ピークのブロードニングが見られた. また, Cu (II) との反応では2本のピーク (C
δとC
ε) で強いブロードニングが観察された. これはCu
2+イオンと側鎖末端アミノ基が強固なコンプレックスを形成したためと思われる. これらのことにより, ケラチン加水分解物中のオルニチンやリジンなどのアミノ酸残基はFe (II) イオンとコンプレックスを形成していると考えた.
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