蛍光増白剤存在下の酢酸菌培養で生じる複合体及びその染料抽出処理で再生するCell I試料の構造と吸湿性の関係を, 室温気相重水素化-赤外吸収スペクトル測定法で検討した. バクテリアセルロースのOH基は, 60分間の重水素化で約37%がOD化する. これに対して, 複合体中のセルロースのOH基は, 5分前後の重水素化でその80~90%がOD化されることが分かった. 染料抽出試料は, 5分の重水素化で43.1%, 60分では48.6%のOH基がOD化された. 複合体のOHバンドは, 3400cm
-1近傍にピークを持つブロードな吸収を示し, バクテリアセルロースのスペクトルに認められる分子内, 分子間水素結合に基づく吸収は認められなかった. また, 複合体のODバンドは, 2517cm
-1にピークを持つブロードな吸収を示し, Cell I結晶由来の水素結合性OD基の吸収は認められなかった. 染料抽出試料のスペクトルには, Cell Iが再生したことを示す分子内水素結合に基づく3345cm
-1の吸収が認められるが, その低い結晶性のためにOH基はブロードな吸収を示した. 事実, 再生Cell Iの非結晶性の0H基は約50%になり, バクテリアセルロースのその量に比べ, 約13%増加することが分かった. 複合体は, (110) 面に相当する単分子層セルロースシート間に増白剤を含み, この増白剤がシート間の結合を妨げているために水分子の複合体への拡散が極めて容易になり, その吸湿性が飛躍的に増大することが明らかになった.
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