アタクチックポリスチレン (APS) /二硫化炭素系の低温で生じる物理ゲルの構造が小角中性子散乱, 広角中性子回折, および準弾性中性子散乱法を用いて, 温度, APS濃度, および分子量を変えて調べられた.
小角散乱の結果から, 明らかに分子鎖の重なりが起こらないような希薄溶液でも, 温度低下に伴い, 異なるAPS鎖間に架橋が生じ, それが大きな会合体へと成長することが明らかとなった. この会合体の形成・成長は2段階で進むこと, またゲル化と融解は約10Kの温度履歴で可逆的に起こることが示された. 希薄から半希薄溶液へと移行するにつれ, 温度低下に伴う会合体の形成と成長は1段階で進むことおよびゲル化と融解は約10Kの温度履歴で可逆的に起こることが示された. ゲル融解曲線に沿っての散乱の臨界指数は, 濃度増加に伴って, 臨界ゲル融解濃度近傍の約3.3の値から2.0の値へと連続的に移行した. このような連続的移行は, 会合とゲル化 (あるいは解離とゲル融解) との競合の結果, 架橋領域が変化する (すなわち, 架橋領域が柔軟である) ことを示唆している. このように, 温度低下に伴い, 分子の凝集状態の大きな変化が観測された. しかし, 半希薄領域のゲル中のAPS 1本鎖の形態は, ゾル中のそれとほぼ同じであることが示された.
半希薄領域の広角回折の結果から, ゲル化の進行に伴い, 秩序構造を示すピーク数が2から4へと増加した. このことは, 分子のコンホメーション変化が段階的に進行していることを示唆している. 分子コンホメーション解析の結果, ゲル化に伴い, APS鎖のランダムコンホメーションは, 一部TTGG型の短い連鎖を含んだものへと変化することが示された. そして, 架橋点は, これら二つの連鎖間に溶媒分子を取り込んで安定化されていると考えられる. これは, APS/二硫化炭素ゲルがキセロゲルとして存在しないことからも確かめられた.
準弾性散乱測定から, 温度低下に伴い, 上記のTTGG型の短い連鎖からなる局所的なセグメント運動の凍結過程が観測された. この凍結の起こる温度はAPS鎖間の架橋の形成温度と一致することが示された. 見かけの架橋点形成のエネルギーは約4kcal/molで, 熱エネルギーより若干大きめの値であることが示された.
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