高分子論文集
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55 巻, 12 号
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  • 末松 和実
    1998 年 55 巻 12 号 p. 723-735
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    ゲル化理論の最近の発展を概観する. 古典樹状理論において無視された環状種分布関数と, 排除体積問題の進展を紹介し, これらがいかにゲル化理論に取り入れてきたかを, 浸透理論との対比を混じえつつ, 筆者の視点から眺める.
  • 荻野 一善
    1998 年 55 巻 12 号 p. 736-748
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    ピアルロン酸 (HA) 水溶液の粘弾性を, 新たに開発したマグネチック・レオメータを用い, Cp/wt% (HA濃度) =1.0~0.25, T/s (周期) =180~23040の範囲で測定した. これらの結果は (a) Cp/wt%=1.0では≪J1.0≫/Pa-1=68.0 (周期: 2880~23040秒の平均), (b) Cp/wt%=0.75では≪J0.75≫/Pa-1=67.9 (周期: 1440~11520秒の平均), (c) Cp/wt%; 0.5では≪J0.5≫/Pa-1=68.7 (周期: 360~11520秒の平均) (d) Cp/wt%=0.25では≪J0.25≫/Pa-1=80.5 (周期: 360~11520秒の平均) の値を選ぶと, 上記の濃度, 周期の範囲で単一のVoigtモデルで表すことができた. Cole-Celeプロットではβ=0.725とすると, ほぼ単一の曲線上に測定値は乗るが, 遅延時間の分布については本実験から詳細な内容は不明である. Na型のHAをイオン交換樹脂によりLi, K, Cs型に変更したもの, また, Na型HAにKCl塩を添加したもの, のそれぞれについてArrhemusプロットを行った. その結果から, (i) 粘性流動の活性化エネルギーの値はLi, Na, K, Cs塩ではほとんど差異は見られなかったが, KCl塩添加ではそれらより大きい値となった (ii) ηの値自体はNa, Li, K, Csの順に低下するが, Gにはほとんど差異は見られなかった.
  • 和泉 義信
    1998 年 55 巻 12 号 p. 749-759
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    アタクチックポリスチレン (APS) /二硫化炭素系の低温で生じる物理ゲルの構造が小角中性子散乱, 広角中性子回折, および準弾性中性子散乱法を用いて, 温度, APS濃度, および分子量を変えて調べられた.
    小角散乱の結果から, 明らかに分子鎖の重なりが起こらないような希薄溶液でも, 温度低下に伴い, 異なるAPS鎖間に架橋が生じ, それが大きな会合体へと成長することが明らかとなった. この会合体の形成・成長は2段階で進むこと, またゲル化と融解は約10Kの温度履歴で可逆的に起こることが示された. 希薄から半希薄溶液へと移行するにつれ, 温度低下に伴う会合体の形成と成長は1段階で進むことおよびゲル化と融解は約10Kの温度履歴で可逆的に起こることが示された. ゲル融解曲線に沿っての散乱の臨界指数は, 濃度増加に伴って, 臨界ゲル融解濃度近傍の約3.3の値から2.0の値へと連続的に移行した. このような連続的移行は, 会合とゲル化 (あるいは解離とゲル融解) との競合の結果, 架橋領域が変化する (すなわち, 架橋領域が柔軟である) ことを示唆している. このように, 温度低下に伴い, 分子の凝集状態の大きな変化が観測された. しかし, 半希薄領域のゲル中のAPS 1本鎖の形態は, ゾル中のそれとほぼ同じであることが示された.
    半希薄領域の広角回折の結果から, ゲル化の進行に伴い, 秩序構造を示すピーク数が2から4へと増加した. このことは, 分子のコンホメーション変化が段階的に進行していることを示唆している. 分子コンホメーション解析の結果, ゲル化に伴い, APS鎖のランダムコンホメーションは, 一部TTGG型の短い連鎖を含んだものへと変化することが示された. そして, 架橋点は, これら二つの連鎖間に溶媒分子を取り込んで安定化されていると考えられる. これは, APS/二硫化炭素ゲルがキセロゲルとして存在しないことからも確かめられた.
    準弾性散乱測定から, 温度低下に伴い, 上記のTTGG型の短い連鎖からなる局所的なセグメント運動の凍結過程が観測された. この凍結の起こる温度はAPS鎖間の架橋の形成温度と一致することが示された. 見かけの架橋点形成のエネルギーは約4kcal/molで, 熱エネルギーより若干大きめの値であることが示された.
  • 高橋 正人, 畠山 立子, 畠山 兵衛
    1998 年 55 巻 12 号 p. 760-767
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    多糖/水系のゲル形成能に及ぼす溶液状態での熱処理の影響を, 粘弾性, 落球法, 示差走査熱量計 (DSC), 小角X線散乱法 (SAXS) により調べた. 多糖水溶液をゲルーゾル転移点以上の温度で熱処理した後冷却することにより, 熱処理しない場合に比べて, 弾性率, ゲルーゾル転移温度共に高くなり安定かつ強固なゲルが得られるばかりでなく, ゲル化しないとされてきたキサンタン/水系のような系をもゲル化させることを見いだした. 溶液状態での熱処理の過程における系内の水の融解エンタルピー量△Hmの経時変化をDSCを用いて測定した. △Hmは熱処理時間の経過とともに一度大きく増加してから減少に転じ, 減衰振動的に変化しながら一定値に収束した. 一方, SAXSによる実験では, 熱処理の初期には構造の崩壊に伴う長周期dの減少が観測され, その後増加した後初期の値よりも大きな値へと収束した. これらのことは, 熱処理の初期においては, 初め系内にあった構造が崩壊し, その後ゲル化に適した構造へと変化したことを示している. 溶液調整直後の系内では, 多糖分子鎖が会合体をつくりそれらが互いに孤立して系内でコロイド的な溶液をつくっていると考えられる. 熱処理を行うことで会合体の崩壊が起こり, 会合体から離れた多糖分子鎖が拡散によって溶液を均一化させ, その後冷却することにより系全体に及ぶ網目構造が形成され安定で強固なゲルが得られたと考えられる.
  • 深堀 美英, 真下 成彦, 若菜 裕一郎
    1998 年 55 巻 12 号 p. 768-779
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    結晶性熱可塑性エラストマー (TPE) とオイル系モノマーによる新しい非水系物理ゲルについて報告する. 本ゲル体は少量のポリマー成分が球状セルを単位とする3次元ネットワーク構造をつくり, そのセル内に多量のオイル成分を包含する相構造 (両成分ともに連続相) を形成している. ポリマー成分がつくる個々のセル (直径数10μm) は隣接するセルと直径数μmの貫通孔で連結されており, 一方, この貫通孔を通してオイル成分が連続化されている. このような相構造の形成はスピノーダル分解を起点とするが, 途中から核形成と成長過程に変化する特殊な相分離によって行われ, ポリマーとモノマーの分子量の差, 特にモノマーの高い分子運動性が相分離に不可欠の条件となっている. 最終的なネットワークの大きさは相分離速度と結晶化速度の競合によって決定される. 本ゲル体は非常に軟らかい弾性体 (高分子ゲル) としての特性をもち, 組成と構造を制御することによりゼリー的なもの, 肉的感触を与えるものなど幅広い特性のゲルを得ることができる.
  • 秋吉 一成, 黒田 賢一, 砂本 順三
    1998 年 55 巻 12 号 p. 780-785
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    コレステリル基や長鎖アルキル基を導入した疎水化プルラン (CHP, C16P) の希薄水溶液中での微粒子形成と濃度増加に伴うゲル形成およびそのレオロジー挙動について検討した. 希薄水溶液中では, 疎水化プルランは, 数分子が自己会合して安定なナノ微粒子を形成したが, CHPでは, 2 wt%以上の濃度で粘性の急激な上昇がみられ, 3.5 wt%以上で溶液全体がゲル化した. 一方, C16Pは, 5.5 wt%濃度以上でゲル化した. 疎水化多糖に界面活性剤 (SDS) を添加すると粘性が増大し, 疎水化多糖だけではゲル化しない濃度でもゲル化が誘起された. さらに, SDS濃度を高くすると, いったん形成されたゲルが再び溶解し, ゾルへと変化した. C16PとSDSとからなるゲルでは, 単一の緩和過程を有し, ほぼ理想的なMaxwell型のモデルに一致した動的粘弾性を示した. 疎水化プルランの疎水基を包接しうるシクロデキストリンの添加によっても, 疎水化多糖の会合を可逆的に制御しえた.
  • 松村 和明, 玄 丞烋, 岡 正典, 牛尾 一康, 堤 定美
    1998 年 55 巻 12 号 p. 786-790
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    水に重合度1700, けん化度99.5 mol%のポリビニルアルコール (PVA) を溶かして作製した不透明なPVAヒドロゲルと, 水-ジメチルスルホキシド (DMSO) (20: 80, w/w%) の混合溶媒を用いて作製した透明なPVAヒドロゲルの表面構造を走査型電子顕微鏡 (SEM) と原子間力顕微鏡 (AFM) で観察し, 犬膝関節軟骨のSEM像およびAFM像と比較した. 不透明なゲルには, 10~20μmの孔径の大きい多孔質構造が認められ, その孔の大きさは含水率に依存していた. 一方, 透明なゲルは滑らかな表面構造が見られ, 不透明なゲルより犬膝関節軟骨に近い表面構造をもっていた.
  • 中野 義夫, 清田 佳美, 川邊 邦昭
    1998 年 55 巻 12 号 p. 791-795
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    種々の環境感応型高分子ゲル薄膜を被覆した水晶振動子マイクロバランス (QCM-ゲル膜複合素子) を開発し, これを用いてゲルの多様な相 (構造) を分子レベルでセンシングすることを試みた. 本研究では, 環境感応型高分子ゲルとして熱に応答する感温型高分子ゲルを用い, 温度変化に応じたゲルの相挙動とQCM-ゲル膜複合素子の応答特性を明らかにした. 本素子は, ゲルの体積変化によって相の情報を得ることが困難な収縮相における相 (構造) 情報の詳細を得ることが容易であった. ゲルの相変化は, 質量負荷として水晶振動子に働き, QCMの発振周波数変化を誘導することによって簡便かつ迅速に電気的信号に変換できることを示した. 本QCM-ゲル膜複合素子は環境感応型高分子ゲルの相挙動を精密に明らかにするうえで極めて有効であることがわかった.
  • 高橋 正人, 荒川 将一, 土屋 裕子, 岡部 勝, 松田 英臣
    1998 年 55 巻 12 号 p. 796-801
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    直鎖低密度ポリエチレン (LLDPE) がデカリン中で形成する熱可逆ゲルの融解過程を落球法 (FBM), 示差走査熱量計 (DSC), 偏光顕微鏡により調べた. 落球法測定により得られたゲル融点に田中理論を適用することにより得られた架橋点1個に含まれる高分子鎖1本当たりのモノマー数は急冷ゲルで約40個, 徐冷ゲルでは6~9個であった. また, 1個の架橋点に含まれる高分子鎖の数は急冷ゲルで約3本, 徐冷ゲルで約4本であった. ゲルの架橋点構造は, 溶液中での高分子鎖の重なりの度合いによって決まる. このためゲル融点に対してスケール則が成り立つとして実験的にスケーリング関数を決定した. 得られたスケーリング関数を表すマスターカーブの上に実測値は乗り, ゲル融点に対してスケーリング則が成り立つことが示された.
  • 武居 正史, 平岡 教子, 芦塚 欣也, 横山 哲夫
    1998 年 55 巻 12 号 p. 802-809
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    本報は, 優れたエラストマー性を示す, ポリウレタンカチオノマー (PUC) の電気的性質について報告した. PUCは, 種々のポリオールを出発材料として, プレポリマー法により無溶媒で合成した. 最大の導電率を示したのはポリ (オキシエチレン) グリコール (PEG) を用いた試料である. PEGは, カチオンキャリヤーに対して高い導電率を与えることが一般的に知られているが, ヨウ化物イオンのようなアニオンキャリヤーを用いた場合でも高い導電率を与えた. 導電率の温度依存性はVogel-Tamman-Fulcher式では高い直線性を示した. 複素インピーダンスと複素粘性率の温度分散曲線は, 形状がよく一致した. 複素インピーダンスの温度分散は, 複素粘性率の温度分散よりも高温側に発現したことから, イオン伝導が分子鎖のミクロブラウン運動に要する以上の熱的エネルギーを必要とすることが示唆される.
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