高分子論文集
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64 巻, 7 号
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総合論文
  • 川口 大輔, 高野 敦志, 松下 裕秀
    2007 年 64 巻 7 号 p. 397-405
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    ジャーナル フリー
    両末端反応性線状プレカーサーの分子内末端カップリング反応により大環状ポリスチレンを合成した.それをスルホン化した環状ポリスチレンスルホン酸ナトリウムをマイカ基板上に分散させた後,一分子鎖の形態を原子間力顕微鏡で観察することで,環状構造を証明した.環状ポリスチレンの純度を液体クロマトグラフィー測定により決定した.高純度の環状ポリスチレンの溶融状態における相互拡散挙動を中性子反射率測定および動的二次イオン質量分析測定により評価し,線状ポリスチレンのそれと比較した.線状ポリスチレンの臨界からみ合い分子量よりもはるかに大きな分子量領域では,環状ポリスチレンの相互拡散は線状のそれより著しく速いことを明らかにした.
  • 浅野 敦志
    2007 年 64 巻 7 号 p. 406-418
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    ジャーナル フリー
    3 種類のポリマーブレンドの相互作用,分子運動性,構造変化を固体高分解能 13C NMR 法を用いて解析した.側鎖が比較的長く,側鎖の分子運動が活発な poly(2-hydroxyethyl methacrylate)(PHEMA)と側鎖が短く遅い分子運動の poly(methacrylic acid)(PMAA)をブレンドすると,PHEMA 側鎖末端ヒドロキシル基と PMAA 側鎖末端カルボキシル基が強い水素結合を形成する.PHEMA/PMAA ブレンドから観測された回転座標系の 1H 核のスピン-格子緩和時間(TH)は,PHEMA 単体の TH と PMAA 単体の TH から計算される組成比の加重平均値に一致せず,TH の温度依存性からブレンド中で PHEMA の数十 kHz の分子運動が制限されていることを示した.さらに,PHEMA/PMAA ブレンドを熱処理することで分子間脱水反応をおこし,固体中で分子間架橋させると,分子間架橋した部位の運動性が極端に遅くなることを NMR スペクトルと T1C 緩和曲線から定量的に示した.PMAA と poly(vinyl acetate)(PVAc)のブレンドでは,側鎖どうしが水素結合して相溶するが,水素結合している側鎖としていない側鎖の分子運動性が異なることを,13C 核のスピン-格子緩和時間(T1C)の組成依存性から見いだした.また,PMAA/PVAc ブレンドの相溶性が分子間相互作用の比率に依存していることを見いだした.ガラス転移点が室温より極端に低い poly(vinyl methyl ether)(PVME)と polystyrene(PS)のブレンドでは,相溶であっても 1H スピン拡散の効率が落ち,TH 緩和曲線が単一の指数関数とはならない.1H スピン拡散の見かけ上の速さをパラメーターにして,PS/PVME ブレンドの TH 緩和曲線を 3 スピン系の緩和モデルを用いて定量的にシミュレーションすることができることを示した.
  • 松葉 豪, 西田 幸次, 金谷 利治
    2007 年 64 巻 7 号 p. 419-428
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    ジャーナル フリー
    流動結晶化における高分子量成分の効果を調べるために超高分子量成分を添加したポリエチレンブレンドに対して,シシケバブ構造形成過程の濃度依存性および結晶化温度依存性を明らかにすることを試みた.まず,シシケバブ精密構造に着目し,小角中性子散乱と小角 X 線散乱測定の結果を用いて,超高分子量成分がシシ構造に多く含まれていることを示した.さらに,時分割偏光解消光散乱測定の結果から,超高分子量成分が臨界濃度以上存在した場合,配向構造が観測されることを明らかにした.この臨界濃度は超高分子量成分のからみ合い点に関係するパラメーターである.さらに小角 X 線散乱測定を用いてケバブ構造形成過程の超高分子量濃度および結晶化温度依存性を調べた.結晶化温度が高くなると,配向が観測される臨界濃度の値も大きくなり,ケバブ構造形成過程は,超高分子量成分の結晶化速度および緩和速度に依存することを示した.さらに,せん断印加時からのモデル図を描き,シシケバブ構造形成過程について議論した.
  • 立石 洋平, 赤堀 敬一, 田中 敬二, 長村 利彦
    2007 年 64 巻 7 号 p. 429-436
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    ジャーナル フリー
    ポリスチレン(PS)薄膜中での階層的分子鎖熱運動性を検討した.セグメント運動は,動的損失弾性率の温度・周波数依存性に基づき評価した.比較的小さなスケールの運動は,PSにラベルしたアゾベンゼン(Az)の光異性化挙動に基づき考察した.膜厚が薄くなると,みかけのガラス転移温度は低下する.一方,薄膜中での β および γ 過程の緩和温度はバルクの緩和温度と同程度であったが,Az の光異性化は速くなった.以上の結果は,薄膜化に伴い表面層の寄与が顕在化することに起因する.温度上昇に伴う表面層厚化のモデルが提案された.
一般論文
  • 高橋 良彰, 今市 健太, 野田 昌宏, 高野 敦志, 松下 裕秀
    2007 年 64 巻 7 号 p. 437-440
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    ジャーナル フリー
    ともにラメラ構造を有するスチレン-2 ビニルピリジン二元ブロック共重合体と,スチレン-d8-イソプレン二元ブロック共重合体の,ずり速度増加後の非定常応力を測定し,ラメラ構造の配向現象を検討した.ずり速度を 2 倍に増加した後の非定常ずり応力 σ(t)をその定常値 σ(∞)で規格化した値は,時間でもひずみでもスケールされないことが明らかになった.さらに σ(t)の極大の現われ方には共通性や規則性が見いだせず,再現性もあまりよくなかった.静置した試料の流動開始後の σ(t)には,比較的大きな極大値が現われたが,流動を反転させた場合にはほとんど瞬時に定常値に達した.この結果は,流動開始時には無配向なので,多数のグレインが配向するが,流動の反転では配向の程度を変える必要がないので瞬時に定常状態に達したと考えれば理解できる.そしてそのことから類推してブロック共重合体の系全体としての平均的な配向度はそれぞれのずり速度で規定されるが,非定常応力は配向するグレインの大きさやその数などによって現われ方が異なってくると理解できる.
  • 中嶋 健, 大野 直人, 渡辺 謙治, 西 敏夫
    2007 年 64 巻 7 号 p. 441-451
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    ジャーナル フリー
    通常,試料の凹凸像を取得するのに用いられる原子間力顕微鏡(AFM)を,高分子一本鎖を直接伸長し,その力学物性を測定するモードに応用することができる.ナノフィッシング法と筆者らが呼ぶこの方法の現時点で把握している問題点と展望について述べる.特に準静的ナノフィッシングにおける原点決め精度の重要性と,現行の理論モデルの非妥当性について検討した.強制振動ないしノイズ解析による動的ナノフィッシングによって高分子鎖の粘弾性的な性質がどのように実測され得るかについてもその可能性を述べる.最後に高速ナノフィッシングが将来開拓しうる高分子一本鎖の内部構造解明に繋がる糸口的な実験結果についても報告する.
  • 近藤 愛子, 佐藤 尚弘
    2007 年 64 巻 7 号 p. 452-457
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    ジャーナル フリー
    0.1 M NaCl 水溶液中,pH=7,タンパク質濃度が約 10-3 g/cm3 の条件で,球状タンパク質である β-lactoglobulin(β-LG)を 75℃ で熱変性させた後に冷却させて形成される会合体の構造を,円二色性,粘度,および多角度光散乱検出器を有するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC-MALS)により調べた.円二色性測定の結果は,この熱変性タンパク質が冷却しても元の天然状態の二次構造には戻らないこと,そして粘度測定の結果は,このタンパク質が熱変性によりランダムコイル状の形態をとり,冷却により小さく収縮した形態をとることを示した.さらに SEC-MALS により,熱変性後に冷却して形成された β-LG の会合体に関して次の結果を得た:(1)β-LG の会合体は大小 2 種類に大別できる;(2)「小会合体」は平均して 5 個の β-LG 分子から形成され,各 β-LG 分子は天然状態に近いコンパクトな形態をとっている;(3)「大会合体」は 100 以上の β-LG 分子の集合体であり,その高モル質量域での回転半径のモル質量依存性は,分岐鎖状の接触ビードモデルにより説明できる.
  • 木下 太郎, 惣谷 志保里, 黒田 裕, 増渕 雄一
    2007 年 64 巻 7 号 p. 458-463
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    ジャーナル フリー
    大腸菌由来巨大 DNA の動的粘弾性測定を行った.培養した大腸菌から抽出した約 70 kbp の分子量をもつ二本鎖 DNA を緩衝溶液で種々の濃度に調整した.データが得られた濃度では,いずれもからみ合いを示す貯蔵弾性率と損失弾性率の交差点を確認した.得られた動的粘弾性カーブをプリミティブチェーンネットワークモデルと比較したところ測定精度の範囲で妥当な一致を見た.また最長緩和時間と平坦部弾性率の濃度依存性はレプテーションモデルで記述できた.
  • 山登 正文, 木村 恒久
    2007 年 64 巻 7 号 p. 464-470
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    ジャーナル フリー
    結晶性高分子の溶融状態から結晶化初期の構造について,ポリエチレンテレフタレート(PET)とアイソタクチックポリスチレン(iPS)の磁場配向現象を通じて検討を行った.磁場内で FT-IR 測定できるシステムを構築し,磁場配向の in situ 観察を行ったところ,PET と iPS のいずれも結晶化初期まで磁場配向が可能で,それ以降では配向できないことがわかった.加えて,iPS では溶融状態で存在する融解前の結晶に由来する秩序構造は磁場配向していないが,PET の場合では配向していることがわかった.この結果から,iPS では溶融中に存在する秩序構造の大きさは 100 nm 以下であり,PET では 100 nm 以上であることが示唆された.また,結晶化誘導期に存在する構造も磁場配向し,いずれもサブミクロンオーダーであることが示唆された.
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