高分子論文集
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66 巻, 8 号
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総合論文
  • 長 昌史
    2009 年 66 巻 8 号 p. 273-288
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/25
    ジャーナル フリー
    ラジカルおよびリビングアニオン重合法によって合成された種々のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPA)の水溶液の相挙動と曇点に関する系統的な調査を行った.アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を開始剤に用いて,4 種類の溶媒(メタノール,tert-ブタノール,ベンゼン,1,4-ジオキサン)中でラジカル重合により合成された PNIPA 試料は,立体規則度が同じであるにも関わらず,それらの水溶液の曇点が実験誤差を超えて異なることがわかった.曇点が約 1℃ 異なる tert-ブタノール中とベンゼン中で合成された試料について,メタノール中 25.0℃ において静的光散乱および粘度測定を行い,平均二乗回転半径<S2>と第二ビリアル係数 A2,固有粘度[η]を決定し,それらの解析の結果から,2 種類の PNIPA 試料は鎖の平均的広がりが異なり,その違いは試料の一次構造の違い,すなわち分枝点の数の違いに起因することを明らかにした.ジフェニルメチルカリウムを開始剤に用いたリビングアニオン重合により合成された直鎖 PNIPA 試料は,疎水性開始末端基の影響により,その水溶液の曇点が分子量の減少とともに急激に低下することがわかった.さらには,PNIPA 試料の水溶液について,曇点近辺における透過光強度の温度依存性を詳細に調査し,また静的および動的光散乱測定を行い,曇点において同水溶液が濁り始めるのは巨視的な液-液相分離によるものではなく,PNIPA の会合体が形成されるためであることを明らかにした.
  • 原 雄介
    2009 年 66 巻 8 号 p. 289-297
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/25
    ジャーナル フリー
    筆者らはこれまで,ポリマー鎖に BZ 反応触媒であるルテニウム錯体(Ru(bpy)3)を導入することによって,心臓の拍動のようにポリマー鎖の自励的かつ周期的な構造変換を可能にしてきた.これらの機能は,Ru(bpy)3 を感熱応答性のポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)に共重合させることで実現している.ポリマー鎖内に導入された Ru(bpy)3 は,酸化状態(Ru(III))では親水的に,また還元状態(Ru(II))では疎水的な部位として働く.そのため,ゲルでは膨潤収縮挙動を,リニアポリマーで凝集と解離の周期的変化を透過率振動として観測することができる.しかしながら,これまでの自励振動型高分子 poly(NIPAAm-co-Ru(bpy)3)の分子デザインでは,その駆動環境が BZ 反応場(強酸条件下)に固定されており,機能性ソフトマテリアルとしての適用範囲がかなり限られたものとなっていた.このような致命的な欠点を解消するため,本研究では駆動環境を生体環境場のような非常にマイルドな環境まで拡張させるための分子設計を明らかとした.また外部環境の変化によってもその自励振動挙動を自在に on-off スイッチングさせることを可能にすることで,より生命体に近い分子システムに進化させた.さらに高濃度の高分子溶液において,粘度の自励的振動現象を捉えることに成功した.
  • 内藤 昌信
    2009 年 66 巻 8 号 p. 298-311
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/25
    ジャーナル フリー
    Wurtz 型脱塩重縮合はポリシラン(PSi)の重合法として広く用いられているが,PSi 共重合体の重合機構については不明の点が多い.本報では,dichloromethyl-3,3,3-trifluoropropylsilane(M1)と dichloro-n-decyl-i-butylsilane(M2)から合成したマルチブロック共重合体 PSi1 を用い,PSi1 中の M1 に由来するブロックをフッ素アニオン(F-)で選択的に分解することで,M1 および M2 由来の PSi のブロック長を決定した.また,この PSi1 共重合体は誘電率:1.84(n-pentane)~7.58(tetrahydrofuran)の有機溶媒をゲル化することを見出した.構造解析の結果,PSi1 がオルガノゲルを形成するときには,M1 と M2 由来のブロックがミクロ相分離し,その中で,主鎖 Si と 3,3,3-trifluoropropyl 基間での Si/F 相互作用や,長鎖アルキル側鎖のパッキングが高分子鎖を繋ぐ架橋点となることでゲル化が起こることを明らかにした.
  • 青木 裕之
    2009 年 66 巻 8 号 p. 312-320
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/25
    ジャーナル フリー
    近接場光学顕微鏡(SNOM)の開発によって,光を用いながら回折限界を超える高い空間分解能での光学計測が可能となった.本報では SNOM の原理と最近の近接場分光法の展開について紹介するとともに,SNOM を用いた高分子の構造解析について述べる.SNOM による蛍光イメージングを行うことで,これまでの手法では困難であったバルク内の単一高分子鎖のコンホメーションを観察することが可能となる.これにより超薄膜中や,ブロック共重合体のミクロ相分離構造などの制限された空間内に拘束された高分子鎖の形態について明らかにした.またマクロスコピックな一軸延伸下において分子レベルでの鎖の変形について直接評価することができた.SNOM は鎖一本の直接観察を通して従来では得られなかったさまざまな情報を与えることができ,新しい高分子材料の構造解析手段として重要な役割を担うようになると考えられる.
  • 早川 晃鏡
    2009 年 66 巻 8 号 p. 321-330
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/25
    ジャーナル フリー
    ナノスケールの新しい微細加工技術として注目されるブロック共重合体リソグラフィに用いるポリマー薄膜材料として,ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)を有するブロック共重合体の開発を行った.sec-ブリルリチウムを開始剤に用いたリビングアニオン重合により,ポリスチレン(PS),あるいはポリメチルメタクリレート(PMMA),および POSS 含有ポリメタクリレート(PMAPOSS)の組合せからなる PS-b-PMAPOSS,および PMMA-b-PMAPOSS を得た.重合条件の最適化により分子量制御が可能であり,分子量分布 1.08 以下,分子量 13,400-47,700 の高分子量体が得られた.得られたブロック共重合体のスピンキャスト膜をシリコンウェハ上に作製した後,溶媒アニーリングを行ったところ,基板に対し垂直に配向したラメラ,あるいはシリンダー構造からなるミクロ相分離構造が得られた.垂直配向型薄膜を用いて酸素プラズマエッチングを行ったところ,PS あるいは PMMA ドメインが選択的に除去され,膜上に凹凸状のライン,あるいはヘキサゴナルに配列したホール構造が形成された.ホール構造の直径は 9 nm であった.以上の結果から,POSS 含有ブロック共重合体はブロック共重合体リソグラフィ材料として有用であることが示された.
  • 小西 玄一
    2009 年 66 巻 8 号 p. 331-339
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/25
    ジャーナル フリー
    フェノール樹脂は古くから知られている優れた熱硬化性樹脂であるが,モノマーの反応性の高さから精密合成が困難であった.そこでフェノール類のヒドロキシル基に機能分子を導入した「デザイン型フェノール」という概念を提唱し,さまざまな角度からその付加縮合について検討したところ,得られるノボラックの主鎖構造,結合様式,分子量や高次構造の制御が行えるようになってきた.この新しい重合法により,直鎖状,熱可塑性,超高分子量のノボラックの合成が容易になった.またこれらのポリマーは材料科学的にも高いポテンシャルを有しており,ブレンド,有機/無機複合化,光機能化などの手法を用いて,フェノール樹脂の優れた耐熱性や機械的特性が生かされたナノマテリアルが生まれつつある.
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