高分子論文集
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67 巻, 1 号
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総合論文
  • 笹沼 裕二, 鈴木 宣暁
    2010 年 67 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/25
    ジャーナル フリー
    芳香族ポリエステル poly(ethylene terephthalate) (PET), poly(ethylene-2,6-naphthalate) (PEN), poly(trimethylene terephthalate) (PTT)のコンホメーション解析を,モデル化合物,ethylene glycol dibenzoate (EGDB)と trimethylene glycol dibenzoate (TMGDB)の分子軌道法(MO)計算とポリマーの高精度回転異性状態(RIS)法の計算を組合せて行った.両モデル化合物の MO 計算は,1H, 13C NMR 実験で求めた O-CH2 と CH2-CH2 結合の配座分率と電気複屈折測定で得られた分子 Kerr 定数と双極子モーメントの実験値を再現した.EGDB は C=O…H-C と C-O…H-C の引力的相互作用,静電相互作用,双極子-双極子相互作用を形成する.TMGDB ではさらに,中心の CH2-CH2-CH2 結合が続けて g+g- コンホメーションをとるときに π-π 相互作用が芳香族環の間に働き,このコンホメーションをもつ屈曲した状態を著しく安定化する.これらの屈曲したコンホマーが TMGDB や PTT 特有の芳香族環の二量化による蛍光発光の源と考えられる.PET の高精度 RIS 法計算が与えた特性比は,融液の中性子散乱の実験値と一致した. RIS 法で求めた熱力学量から芳香族ポリエステルの融解・結晶化の特徴を考察した.
  • 相馬 洋之, 黒子 弘道, 莊司 顯
    2010 年 67 巻 1 号 p. 10-27
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,はじめに αR ヘリックス形 H-(Ala)18-OH および H-(Ala-Gly)9-OH の密度汎関数理論による精密な構造最適化計算(B3LYP/6-31G(d))および GIAO-CHF 法による最適化構造に対する 1H, 13C, 15N, 17O 核の遮蔽値計算(B3LYP/6-311G(d, p))を行った.その結果,最適化構造計算により得られた αR ヘリックス形ポリペプチドの精密な二次構造パラメーター(φ=-62°, ψ=-43°),水素結合パラメーターおよびアミノ酸残基固有の計算化学シフト値が X 線・中性子線回折データおよび固体高分解能 NMR による実測化学シフト値(特に,主鎖カルボニル炭素,α 炭素およびアミド窒素)とよく一致することを明らかにした.次に,L-プロリン(Pro)残基を含む αR ヘリックス形モデルポリペプチド H-(Ala)8-Pro-(Ala)9-OH の最適化構造計算と合成ポリペプチド H-(Phe-Leu-Ala)3-PheC-Pro-AlaN-(Phe-Leu-Ala)2-OH の固体高分解能 13C および 15N NMR の測定結果より,Pro 残基が αR ヘリックス中に巻き込まれた構造が安定に存在することを実証し,本研究で用いた精密な量子化学計算法がタンパク質やポリペプチドの二次構造および三次構造の解析に極めて有効であることを示した.
一般論文
  • 川上 智教, 茂本 勇
    2010 年 67 巻 1 号 p. 28-38
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/25
    ジャーナル フリー
    高分子電解質の特性はナノスケールの高次構造に大きく依存するため,所望の特性を発揮する高分子電解質を分子設計するためには,分子間力と自己組織化によるナノ構造形成のメカニズムを結びつけることが重要な課題である.
      本研究では,高分子・溶媒・溶質の間に強い相互作用が存在する系について,静電相互作用を精度良く扱うために,charge equilibration(QEq)法に基づく動的な電荷決定法を採用し,高分子電解質に適用できるようパラメーターの最適化を実施した.最適化にあたっては,電場の影響を考慮するとともに,最適化アルゴリズムとして simplex 法を採用することにより,双極子モーメントと分極率の計算精度をともに向上させた.さらに,電荷再配置の計算効率を向上させるため,電荷を自由度とする電荷ゆらぎ MD 法を定式化した.
      これらのパラメーターと方法論を用いて高分子電解質 Nafion®を対象に電荷ゆらぎ MD シミュレーションを実行し,小角 X 線散乱から予想されるクラスター・チャネル構造への自発的構造形成には静電相互作用の精密な計算が重要であることを明らかにした.
  • 竹村 和浩, 古屋 秀峰
    2010 年 67 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/25
    ジャーナル フリー
    アモルファス状態のポリメタクリル酸メチル(PMMA)について,分子動力学(MD)シミュレーションを行った.ガラス状態の分子運動を特徴付ける動的不均一性にかかわる物理量,non-Gaussian parameter A を評価した.得られた non-Gaussian parameter A は中性子散乱測定の実測値と定性的によく一致した.PMMA 構成原子の平均二乗変位を求め,その値により運動性を分類したグループどうしの二体相関関数を解析した.運動性の同じ原子どうしが空間的に集まることがわかった.また,分子集合体中の空隙を解析した結果,ガラス転移温度(Tg)以上と以下において空隙の分布が異なり,Tg 以下では比較的大きな空隙が残存することがわかった.また,構成原子と空隙の二体相関関数を解析することにより,運動性が高い原子の周辺ほど空隙が多く存在することが明らかになった.
  • 青木 昭宏, 山崎 静夫, 堀口 紅実子, 亀谷 俊輔, 朝倉 哲郎
    2010 年 67 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/25
    ジャーナル フリー
    サクサン,エリサン,テンサンなどの野蚕の絹フィブロイン中には,12 残基程度のアラニン連鎖のブロックが周期的に出現し,その結晶部を担い,これらの繊維の強度発現の源となっている.本報では,これらの絹フィブロインの構造転移の過程において,水中で引き伸ばされたアラニン連鎖部分が水分子の消失に伴い,凝集して構造形成を行う様子を分子動力学計算によって検討した.その結果,アラニン連鎖はまず二分子間で分子間水素結合を形成し,大部分が二分子ペアーを形成したのち,脱水の最終段階で急激に凝集・結晶化することがわかった.また,十分に二分子ペアーを形成する間は,内部回転角は,β シート構造の値の近傍で揺らいでいた.最終構造は逆平行と平行の混合系であったが,十分に規則的な構造を形成した.
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