高分子論文集
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67 巻, 7 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総合論文
  • 藤原 正浩
    原稿種別: 総合論文
    2010 年 67 巻 7 号 p. 357-367
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    ケイ素と酸素から構成される化合物は,安定で環境適合性も高い材料である.近年は,加水分解性の低いケイ素-炭素結合を利用した種々の無機有機複合材料が活発に研究され,多くの新材料が創出されている.筆者らは,シリカ系化合物に光応答性を有する有機官能基を導入することで,光刺激を源泉とする種々の機能を有するシリカ有機系複合材料を研究している.例えば,疑似正六面体構造を有する酸化ケイ素化合物であるシルセスキオキサンの八つの頂点部に光二量化能を有するクマリン基を導入し,これに波長の異なる紫外線を照射することで,可逆的に架橋重合反応を行うことができた.また,規則正しい細孔をもつメソポーラスシリカの細孔出口でクマリン基の光二量化反応を行えば,光応答性ゲートを細孔に付設したことになり,細孔内分子の放出を光刺激でオンオフ的に制御できることも見いだした.一方,光異性化能を有するアゾベンゼンに紫外線と可視光を同時に照射すると,分子の「箒」のような機能が働き,近傍分子の拡散・輸送を著しく向上できることも明らかにした.
  • 樋口 昌芳
    原稿種別: 総合論文
    2010 年 67 巻 7 号 p. 368-374
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    三座配位子であるターピリジンを二つ有する有機分子(有機モジュール)と,鉄やルテニウムといった六配位の金属イオンを錯形成させることによって,有機モジュールと金属イオンが主鎖に沿って交互に結合した構造を有するポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)を合成した.このハイブリッドポリマーにおいて,有機モジュールと金属イオンは 1 : 1 で錯形成し,その錯形成定数(log K)は 9 以上と見積もられた.この有機/金属ハイブリッドポリマーに分子修飾を行うことで,次のようにポリマー構造や電子・光物性を制御できることを見出した.主な知見は以下の通り.(1)有機モジュールにおいて,ターピリジン部位の末端ピリジンの 6 位の炭素にキラルなテトラエチレングリコール鎖を導入すると,ハイブリッドポリマーの骨格に円二色性(CD)が誘起された.これはハイブリッドポリマーにおけるヘリカル構造の誘起に基づくと考えられる.この誘起 CD の溶媒効果および温度効果を明らかにした.(2)ハイブリッドポリマーの発光特性を有機モジュールへの官能基導入によって制御した.スペーサー部位に発光基を導入したビス(ターピリジン)と鉄イオンの錯形成によって合成したハイブリッドポリマーでは,有機モジュール部位の発光は鉄イオンによって大きく消光した.一方,親水性のトリエチレングリコール鎖を導入した有機モジュールを用いると,このハイブリッドポリマーの発光特性が格段に向上することが判明した.(3)ビス(ターピリジン)と鉄やルテニウムイオンからなるハイブリッドポリマーがエレクトロクロミック特性を有することをこれまでに明らかにしているが,電解質としてリチウム塩を含むゲル電解質を用いることで,エレクトロクロミック固体デバイスの作製に成功した.さらに 2 種類の金属イオン種を導入したハイブリッドポリマーを用いて,電圧の変化に応じで 3 色の表示が可能なマルチカラーエレクトロクロミックディスプレイを作製した.
一般論文
  • 住友 慶子, 荒川 貴博, 佐藤 宏美, 谷岡 明日香, 斎藤 誠一, 小池 誠治, 山口 佳則
    原稿種別: 一般論文
    2010 年 67 巻 7 号 p. 375-380
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    表面親水性でかつ,細胞接着性を有し,フォトリソグラフィーによる微細加工が可能な感光性シリコーン樹脂(ADEKA ナノハイブリッドシリコーン FX-V8330)を開発した.FX-V8330 は,シロキサン主骨格にヒドロキシフェニル基やカルボキシアリール基といった極性基を持ち,従来のポリジメチルシロキサンと比較して,親水性の表面機能を与えた.FX-V8330 基板上における U2OS 細胞と COS-1 細胞の培養では,コロナ放電処理を施したポリスチレンと同等の細胞接着性を示した.初代培養細胞である褐色脂肪前駆細胞の培養においては,コラーゲン被覆ガラス基板に匹敵する細胞接着が観測された.さらに,FX-V8330 基板に接着した細胞は,トリプシン処理による剥離,継代培養,分化誘導が可能であり,分化誘導に伴う細胞の死亡率が低く抑えられ,培養基材として優れた性質を有していた.
  • 伊掛 浩輝, 玉繁 千里, 清水 繁, 室賀 嘉夫, 栗田 公夫
    原稿種別: 一般論文
    2010 年 67 巻 7 号 p. 381-389
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    化学構造の異なる 2 種類のポリ(ヘキサメチレンカーボネートジオール)(PHMCD)およびポリ(シクロへキシレンジメチレンカーボネートジオール)(PCHCD)とチタニアをゾル-ゲル反応させ,ハイブリッドを調製した.化学構造が異なってもチタニアを約 1.5 vol%複合したハイブリッドは,320 nm 以下の紫外線をカットし,可視光線領域の透過率は 90%以上で良好な透過性を示した.チタニア複合量が増すと,両試料とも屈折率 nD は増加し,アッベ数は減少したが,PCHCD ハイブリッドの方がより高い nD を示した.動的粘弾性と X 線小角散乱解析から,高分子マトリックス中にナノメートルサイズの無機ドメインが形成し,チタニア複合量が増すとともに大きくなった.その結果,高分子セグメントが束縛され,ゴム弾性領域の貯蔵弾性率 E'が高くなったが,両ハイブリッドのチタニア含量が同じであれば,E'値はほぼ同じとなった.
  • 岡田 夕佳, 村田 晶子, 安藤 貴真, 末永 辰敏, 是永 継博, 鈴木 正明
    原稿種別: 一般論文
    2010 年 67 巻 7 号 p. 390-396
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    光学デバイスの小型・薄型化を実現する高屈折率材料が注目されているが,汎用光学樹脂においては屈折率とその波長依存性について制御範囲に限界があった.筆者らは,酸化ジルコニウムナノ粒子を UV 硬化樹脂中に分散させたナノコンポジットにより,汎用光学樹脂にない高屈折率と高アッベ数の両立を実現した.本材料は膜厚 30 μm において光線透過率 90%以上を示し,実用上十分な透明性を示した.また,樹脂レンズに形成した回折格子にナノコンポジットを積層した「白色回折格子」により,回折効率の波長依存性を低減し,可視光全域において一次回折効率 95%以上を実現した.この「白色回折格子」を撮像用レンズに適用し,レンズ枚数削減によるカメラ光学系の薄型化の可能性について検討を行った結果を報告する.
  • 南 有紀, 村田 一紀, 渡瀬 星児, 松川 公洋
    原稿種別: 一般論文
    2010 年 67 巻 7 号 p. 397-402
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    ビニルトリメトキシシランと 2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを表面処理剤として用いて,ビーズミル処理と超音波照射によるジルコニアナノ粒子の表面処理を行った.特に,超音波照射により,2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとジルコニア表面のヒドロキシル基とのウレタン結合を形成することで有機化し,メチルエチルケトン中で粒子径 8.5 nm のジルコニアナノ粒子分散液を調製することができた.得られたジルコニアナノ粒子を高分散した多官能アクリレート溶液に光ラジカル開始剤を添加し,これらを PET フィルム上にバーコーターで塗布して薄膜作製した.この薄膜への紫外線照射によって光架橋したポリアクリレート薄膜においても,ナノ粒子が均一に分散している事がわかった.これらのジルコニアナノ粒子分散ポリアクリレート薄膜は,高屈折率を示した.
  • 棚橋 満, 渡邉 佑典, 藤澤 敏治
    原稿種別: 一般論文
    2010 年 67 巻 7 号 p. 403-411
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    筆者らは,シリカゾルを用いて孔構造や強度を制御したシリカナノ粒子凝集体をあらかじめ作製し,ポリスチレン(PS)とともに混練することにより,凝集体をせん断力にて溶融 PS 内部で解砕・分散させる簡便なシリカ/PS 系ナノコンポジット調製法を提案した.本報では,予備作製した凝集体の孔構造・強度が,PS マトリックス中でのシリカ分散状態に及ぼす影響について考察した.多孔質凝集体の強度が PS 融体中で発生するせん断応力を下回るほど弱くなくても粒子接触点の数が少ない凝集体表面からのシリカ一次粒子の「はく離」による凝集体のサイズダウンが進行し,良好なナノ分散が達成されることがわかった.さらに調製したシリカ/PS 系ナノコンポジットの熱線膨張率(CTE)を測定したところ,シリカとマトリックスの濡れ性が悪い本系コンポジットの CTE 低下は,添加シリカの体積効果によるところが大きく,シリカフィラー介在による PS 分子鎖の熱運動の拘束効果は弱いものであった.
ノート
  • 伊藤 和也, 渡瀬 星児, 渡辺 充, 西岡 昇, 松川 公洋
    原稿種別: ノート
    2010 年 67 巻 7 号 p. 412-415
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    A phosphorescent coordination hybrid has been successfully prepared from silsesquioxane containing phosphine oxide and europium tris β-diketonate. The novel silsesquioxane was synthesized by the sol-gel reaction of corresponding trialkoxysilane obtained by the ene-thiol reaction of allyldipenylphosphine oxide and mercaptopropyltriethoxysilane. Despite the high concentration of the europium complex (50 wt%), the complex was dispersed completely into the silsesquioxane, giving a dense, homogeneous, and transparent hybrid thin film. The luminescence property of this film was also investigated. This hybrid thin film with the embedded europium complex shows bright phosphorescence accompanied with a characteristic sharp spectrum derived from the f-f transition of europium at ambient temperature. It can be concluded that the enhancement of the emission intensity and the branching ratio for the europium complex in the hybrid compared to the europium complex in PMMA is due to the formation of a coordination bond between the europium complex and the phosphine oxide in silsesquioxane.
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