高分子論文集
Online ISSN : 1881-5685
Print ISSN : 0386-2186
ISSN-L : 0386-2186
68 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総合論文
  • 尾坂 格, 瀧宮 和男, Richard D. MCCULLOUGH
    2011 年 68 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    ドナー・アクセプター型半導体ポリマーは,分子間相互作用を高めることができるため,高移動度材料創出に向けて非常に有用なアプローチである.本研究では,電子欠損性(アクセプター性)の芳香族へテロ環であるチアゾロチアゾールやベンゾビスチアゾールを,立体規則性を保持しながらポリチオフェン骨格に導入することで,新規な半導体ポリマーを合成した.直鎖状アルキル基を有するチアゾロチアゾール系ポリマーは,最大で 0.3 cm2/Vs と,半導体ポリマーとしては非常に高い移動度を達成した.また,アルキル鎖が長いポリマーほど,移動度および安定性が高いことがわかった.これは,結晶性が高いことに起因すると推測される.さらに,ユニット内のアルキル基の置換数を減らすことで,イオン化ポテンシャルを増大させることができ,安定性を向上させることに成功した.このポリマーでは,溶解性を確保するために分岐状アルキル基を導入したことで,分子配向性は低下したものの,高移動度を保つことができた(~0.1 cm2/Vs).一方,チアゾロチアゾールの π 拡張縮合環であるベンゾビスチアゾールを,同様にして導入した半導体ポリマーは,最大で 0.26 cm2/Vs と非常に高い移動度を示した.さらに,素子を高湿度下にて 2 ヶ月間保存しても,特性はほとんど変化せず,非常に安定性の高いポリマーであることがわかった.本研究で合成したポリマーはプリンタブルエレクトロニクスにおいて非常に有用な材料であり,これらの結果は,今後さらなる高性能半導体ポリマーを開発する上で,非常に重要な知見となると考えられる.
  • 矢澤 宏次, 浅川 直紀
    2011 年 68 巻 1 号 p. 11-23
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    固体 NMR 法を中心とした解析により代表的な導電性高分子である結合様式制御型ポリアルキルチオフェンの分子運動,およびそれに起因する分子構造について普遍的モデルを提案し,光機能との関連を調べた.側鎖の炭素数 4 のポリ(3-ブチルチオフェン)(P3BT)において,通常のガラス転移とは異なる「ツイストガラス転移」が 340 K 付近に観測された.これは主鎖のねじれを配向秩序と考えた結晶中での転移であり,ガラス性結晶と柔粘性結晶間の転移である.側鎖の炭素数 6 のポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)では,はっきりしたツイストガラス転移は観測されず,結晶から柔粘性結晶への転移が 300 K 付近に観測された.これは,より長いアルキル鎖によって,結晶化へのフラストレーションが弱められ,ガラス結晶化する割合が減少したためであると考えられる.また,この転移は低温での側鎖の激しい運動に起因しており,この運動により分子間の π-π 相互作用が弱められ,分子間励起子由来の可視光吸収ピークがブルーシフトすることがわかった.300 K より高温では,主鎖のねじれ運動が活性化し,分子間だけでなく分子内の励起子も局在化させ,両励起子ともにブルーシフトすることがわかった.
一般論文
  • 津田 祐輔, 橋本 有紀, 松田 貴暁
    2011 年 68 巻 1 号 p. 24-32
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    炭素数 12 の長鎖アルキル基を 3 個有する芳香族ジアミンモノマーである 12G1 と脂肪族骨格のテトラカルボン酸二無水物である Cyclo-DA,もしくは芳香族骨格のテトラカルボン酸二無水物である DSDA,また,共重合用のジアミンとして DDE を用いて,溶解性に優れ,耐熱性も十分な可溶性ポリイミドを合成した.得られたポリイミドの薄膜に紫外線(λmax; 254 nm)を照射すると,水に対する接触角は照射した紫外線エネルギーに応じ,100°付近から最少 20°付近まで大きく低下し,疎水性から親水性に制御可能であることが判明した.接触角測定の結果および ATR 解析の結果より,紫外線照射によってポリイミド表面の疎水基である長鎖アルキル基が減少しヒドロキシル基などの親水基が生成していることが考えられる.本技術は,紫外線照射により,ポリイミド表面を容易に疎水部と親水部にパターニングする手法として,プリンタブルエレクトロニクスの分野での応用が期待される.
  • 信家 克哉, 山門 陵平, 高木 幸治
    2011 年 68 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    4-メチル安息香酸-4′-ニトロフェニルエステルを開始剤,リチウムヘキサメチルジシラジドを塩基として用いて,ビチオフェンを π 共役系として有する 4-(N-オクチルアミノ)-3-(2′-(5′, 2″-ビチエニル))安息香酸フェニルの連鎖重縮合を行った.N,N,N′,N′-テトラメチルエチレンジアミンを添加して加熱することにより,モノマー消費を促進することができた.GPC 測定からポリマーの数平均分子量は 3600 であり,1H NMR スペクトルから約 6 量体であると算出され,MALDI-TOF-MS スペクトルから両末端構造を決定した.別途モデル化合物として 4-(N-オクチル-N-ベンゾイルアミノ)-3-(2′-(5,2′-ビチエニル))-N′-メチルベンズアニリドを合成し,ポリマーとともにクロロホルム溶液中で光学スペクトルを測定した結果,モデル化合物に比べてポリマーの極大吸収波長のブルーシフト,極大発光波長のレッドシフトが観測された.クロロホルムとメタノールの混合溶媒中でポリマーの発光スペクトルを測定した結果,メタノールの割合が増加するにつれて強いエキシマー発光が観測された.励起状態において,クロロホルム中とメタノール中では高分子鎖が異なるコンホメーションをとっていることが示唆された.
  • 水崎 真伸, 宮下 哲哉, 内田 龍男
    2011 年 68 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    液晶ディスプレイに残像が発生すると画質が低下する.これは,液晶パネルを構成する液晶層に不純物イオンが存在すると,残留 DC 電圧を誘起するためとされている.そこで一層の高画質化のために,この残留 DC 電圧の発生原理を明確にすることは重要である.本研究では,配向膜を構成するポリイミド膜表面へのイオンの吸着およびポリイミド膜表面からの離脱のモデルに基づき実験結果を解析した.この結果,液晶パネルに直流オフセット電圧が印加されると,不純物であるイオンがポリイミド膜表面に吸着することにより残像が発生することを明らかにした.
  • 青木 純, 井ノ口 智章
    2011 年 68 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/25
    ジャーナル フリー
    ラングミュア-ブロジェット法を用いて成膜されたポリアニリンナノ薄膜を有機 EL 素子の正孔注入層に適用した.その膜はクロロホルムなどの有機溶媒に可溶でかつ両親媒性高分子であるポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸ポリイオン複合体からなる水面上単分子膜を ITO 陽極上に移し取った単分子 LB 膜である.ポリアニリンナノ薄膜の正孔注入能を調べるため,電子輸送性および発光材料であるアルミニウムキノリン錯体と正孔輸送材料であるトリフェニルジアミン誘導体からなる代表的な有機 EL 素子構造を用いて素子特性を評価した.ポリアニリンナノ薄膜の導入により発光開始電圧は 7.0 V から 6.0 V へ低電圧化し,注入電流,発光輝度は約一桁増加し,ポリアニリンナノ薄膜の正孔注入効果を明らかにした.さらに,ポリアニリンナノ薄膜の電子状態を電気化学的に制御することにより部分酸化のエメラルディン塩(ES)から完全酸化のペルニグラニン塩(PS)へ変えたところ,PS 状態でより大きな注入電流および発光輝度が得られた.しかし,キャリヤーバランスが崩れたため電流効率,電力効率は低下した.スピンコート膜と比較すると,発光開始電圧はポリアニリン膜の有無が重要であり,膜厚には無関係であることが明らかとなった.
feedback
Top