高分子論文集
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68 巻, 8 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総合論文
  • 永木 愛一郎
    2011 年 68 巻 8 号 p. 521-531
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    近年,高速混合,精密温度制御,精密滞留時間制御,界面での効率的物質・エネルギー移動といったフローマイクロリアクターシステムの特長を活かした重合反応の開発への関心が急速に高まっている.重合反応の制御性を飛躍的に向上させることができるためである.本報では,そのような研究例を反応タイプ別に紹介する.ビニルエーテル類のカチオン重合では,カチオン生長末端の安定化を利用しない高速リビングカチオン重合が可能となる.また,スチレン類やメタクリル酸エステルのアニオン重合では,真空ラインなどを用いることなくバッチ型反応器よりも高い温度で重合を行うことが可能となる.さらに,フローマイクロリアクターシステムを用いて,重合反応を集積化することにより,さまざまなタイプのブロックコポリマーの効率的な合成も可能となる.今後,フローマイクロリアクターシステムが,環境調和型の新規高分子合成・製造において重要な役割を担うと期待される.
  • 金井 俊光
    2011 年 68 巻 8 号 p. 532-539
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    単分散コロイド微粒子を三次元的に周期配列させた構造体は,コロイド結晶と呼ばれており,近年,フォトニック結晶を始めとする光学材料への応用が期待され,注目されている.これまでのコロイド結晶は,基板に支持された薄膜状のものが多く,用途が限定されている.本報では,マイクロ流体デバイスを用いたエマルション作製技術を利用することで,球状やコア-シェル状のコロイド結晶を作製する方法を報告する.ゲル化剤をあらかじめ溶解させた荷電コロイド結晶とオイルをマイクロ流体デバイス内で流動させることで,荷電コロイド結晶からなるシングルエマルションや荷電コロイド結晶をシェルにもつダブルエマルションを作製した.その後,光照射によりゲル化剤を重合させ,コロイド結晶の粒子配列や形状を固定化することで,球状コロイド結晶ゲルやコロイド結晶ゲルをシェルにもつカプセルを作製した.球状コロイド結晶は,試料の回転に対してブラッグ反射波長が変化しない特徴があり,色材,センサーなどへの応用が期待される.
  • 中澤(田中) 千香子
    2011 年 68 巻 8 号 p. 540-549
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    野蚕絹フィブロインは,産生する蚕種により,一次構造も物性も異なる多くの種類が存在する.その物性の違いは,一次構造の違いとそれに起因する高次構造の違いに由来する.すなわち,野蚕絹フィブロインの一次構造を利用した絹様タンパク質を創出することにより,利用する野蚕種による物性の制御が可能となることを示唆している.しかしながら,家蚕絹フィブロインが,生体材料分野への応用に向けた多くの研究がなされているのに対し,野蚕絹フィブロインの研究は,ほとんど進んでいない.そこで,筆者は,野蚕絹フィブロインの構造に基づく新たな絹様タンパク質の生産を目的とした研究を行った.本報では,絹フィブロインの構造と力学特性について概説し,2 種類の野蚕絹フィブロインの特徴的な一次構造を利用した細胞接着能を有する野蚕絹様タンパク質の設計と生産についてまとめた.
  • 山本 拓矢
    2011 年 68 巻 8 号 p. 550-561
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    環状高分子は,主鎖末端が存在しないため,同一の組成・分子量であっても『かたち』(トポロジー)の違いから直鎖状高分子とは異なった特性を示す.筆者らは高分子の『かたち』に根ざした機能(トポロジー効果)の発現を狙って,環状高分子合成法の開発と機能化されたさまざまな環状高分子の新奇物性探究を行ってきた.新規合成法として,筆者が所属する研究室で過去に開発された ESA-CF と呼ばれる手法とクリックケミストリーを組合せることで,複数の環の結合様式に基づき bridged 型および spiro 型と呼ばれる多環状高分子の選択的合成に成功した.また,水素結合性のユニットを環に導入することで,高分子カテナンを効率的に構築した.一方,トポロジー効果の発現として,分子内メタセシス反応によって合成した両親媒性環状ブロック共重合体の自己組織化を行い,ミセルを構築したところ,直鎖状の前駆体が形成するミセルよりも熱安定性がおよそ 50℃ も向上するという現象が見られた.さらに,ペリレンジイミド部位を含む環状および対応する直鎖状の高分子を合成し,単一分子蛍光分光によってそれらの拡散挙動を観察したところ,『かたち』に基づいて拡散の様式が異なることが示された.
  • 松本 謙一郎
    2011 年 68 巻 8 号 p. 562-569
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は,微生物が合成・蓄積するポリエステルであり,バイオマスを原料として生産できるプラスチック材料として注目されている.さらに,PHA の生合成に必要な遺伝子を植物に導入する事により,大気中の二酸化炭素を炭素源とした PHA 生産が可能となる.PHA の熱的・機械的性質は,ポリマーを構成するモノマーの種類と共重合組成に大きく影響されるため,優れた物性をもつ PHA を生産するためには,組成の制御が重要になる.植物で共重合体を合成するためには,二酸化炭素から構成成分となるモノマーを供給し,さらにそれらのモノマーを重合できる活性を有する重合酵素を機能的に発現させる必要がある.筆者らは,人工的に変異を導入して機能を高めた PHA 合成酵素群を植物細胞内で組合せることにより,共重合体の合成に成功した.この結果により,人工改変酵素が光合成 PHA 生産におけるポリマーの分子設計に強力なツールになりうることが示された.
  • 鹿野 秀和
    2011 年 68 巻 8 号 p. 570-578
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    本報では,セルロースの側鎖設計による熱可塑性の付与,および溶融紡糸による繊維化とその特徴について紹介する.
      セルロースは,分子鎖内や分子鎖間で強固な水素結合のネットワークを形成しているため,熱可塑性を示さない材料である.セルロースへ熱可塑性を付与するため,セルロースのヒドロキシル基を基点とした側鎖設計について検討した結果,適切な側鎖をある一定の比率で導入したセルロース混合エステルが,溶融紡糸に適した熱可塑性と繊維の機械的特性を両立しうることがわかった.
      最適化したセルロース混合エステルを用いて溶融紡糸を行うため,溶融粘度や伸長粘度などの解析に基づいて溶融紡糸プロセスを設計した.その結果,衣料用繊維に適した熱可塑性セルロース繊維を得ることが可能となった.また,溶融紡糸を適用することで,従来の溶液紡糸によるセルロース系繊維と異なり,多彩な繊維断面の繊維や軽量繊維,極細繊維を得ることも可能となった.
  • 藤森 厚裕
    2011 年 68 巻 8 号 p. 579-593
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    高度に配列制御が施された分子組織体は,そこに生じる多様な分子間相互作用や,それに基づく協同現象により,単一分子ではなし得ない,優れた分子機能を発現する.こうした分子集合系の高次組織に新規物性を発現させるためには,機能性部位がどのような起源に基づいて構造構築・形態形成に至るのかを本質的に理解し,構成分子の配列・充填状態を制御する必要がある.
      本報では,Langmuir-Blodgett(LB)法をおもに用いた,“超薄分子組織膜の手法”により配列制御を施した両親媒性高分子を中心に,その関連物質を含めて,二次元分子性薄膜中での構造形成について議論する.具体的には,金属捕集能を有する両親媒性櫛形ポリマーの分子性薄膜,ならびに水面上での単粒子膜形成が特徴的な含長鎖アルキル芳香族ポリアミド,加えて,挙動が類似した低分子系の例として,機能性部位の stack 状態によって導電物性の変化する電荷移動錯体の構造転移についても紹介する.
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