高分子論文集
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69 巻, 10 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総合論文
  • 荏原 充宏
    2012 年 69 巻 10 号 p. 545-554
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    世界70億人のうち,1/2は衛生面で問題を抱え,1/3は電気が使えず,1/5がまともな水が飲めない環境で生活しており,その死因の半分以上が早期に適切な診断・治療を受ければ助かるようなepidemics (マラリア,結核,インフルエンザなどの疫病)といわれている.また,日本でも2011年3月に起きた東日本大震災ではライフラインが切断されたことで多くの“治療難民”を出す結果となった.本報では,こうしたインフラが十分でない環境,たとえば電気供給率の低いエリアでも確保可能なエネルギー源(指を擦った摩擦熱や太陽の光)で駆動するスマートポリマーを用いて,低コスト,簡便さ,迅速さなどを目指した早期診断システムの開発に関してその一例を紹介する.とくに,温度応答性ポリマーと抗体との複合体を用いて血中微量抗原を濃縮するシステムや,形状記憶ポリマーを用いた書き換え可能なマイクロ流路などについて概要する.
  • 金野 智浩
    2012 年 69 巻 10 号 p. 555-566
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    細胞親和性ポリマーからなるバイオ界面を創製し,ポリマーと細胞との接触界面での反応制御による細胞周期,分化,および機能維持について検討した.生体不活性を特徴とするポリマーにcis-ジオール基を含む分子との親和性を組込んだバイオ界面を創製した.これを表面に適応することでタンパク質の結合を促し,細胞接着,非侵襲な脱着を実現した.次にこのバイオ界面を三次元環境に拡張し,常温,常圧,中性条件下での自発形成–解離型ポリマーヒドロゲルを創製した.ヒドロゲルの貯蔵弾性率を調節することで固定化した細胞の増殖を制御することができた.また,固定化期間中に90%の細胞がG1期に収束する効果やES細胞の未分化性を保持する特性を見いだした.これを積層構造とした薬物徐放制御により培養細胞の数を一定に保つことに成功した.これら細胞親和性ポリマーを要素としたバイオ界面は細胞材料の工学的利用価値を高めるものである.
  • 杉原 伸治
    2012 年 69 巻 10 号 p. 567-579
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    新規重合系として,HCl·Et2Oを用いたメタルフリーリビングカチオン重合を開発した.これにより,新規生体適合/生分解性ブロック共重合体の合成も可能となった.さらにこの重合系だけに留まらず,可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合や他の重合系を組合せた極性変換へと展開し,それら重合系の特徴を利用したワンポット自己組織体の分子設計も検討した.刺激応答ゲル,球状ナノラテックス,シェル架橋型ミセル,ナノケージ,ウォーム,ベシクル,ランピーロッドがその分子設計例である.その際,RAFT水系分散重合を用いると,両親媒性ジブロックコポリマーとその自己組織化をin situで達成できた.とくに,これまでと同様に,得られるポリマーの親水/疎水ブロック占有体積比を変化させ,得られるナノ組織構造を制御しただけでなく,重合の固形分濃度を変化させることでも,その組織体構造制御を可能とした.
  • 宮内 雅彦
    2012 年 69 巻 10 号 p. 580-587
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,高耐熱性炭素繊維複合材料のマトリックス樹脂として,高溶解性・易成形性を有する新規な非対称構造を有するイミド樹脂を開発した.すなわち,酸無水物としてはピロメリット酸二無水物を使用し,ジアミンとしては非平面かつ非対称構造を有する2-フェニル-4,4′-ジアミノジフェニルエーテルおよび9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンを用い,末端剤としては4-フェニルエチニル無水フタル酸を用いた熱硬化型イミドオリゴマーの作成を行った.本イミドオリゴマーは,高い溶剤溶解性と高温時の優れた成形性を有するだけでなく,370°C/1時間で硬化した後の樹脂は高い耐熱性(Tg>350°C)と高破断伸び(εb>13%)を示し,従来にない特異な熱的・機械的物性を兼ね備えていることを見いだした.さらに,本イミドオリゴマーを用いて高耐熱性炭素繊維複合材料の試作に成功した.
  • 石井 大佑
    2012 年 69 巻 10 号 p. 588-597
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    “水”は生物と非常に密接にかかわっている.ほとんどの生物は,生命活動維持のための水分補給が必要不可欠である.それに加え,昆虫や植物は雨水などから受ける必要過多な水分を,その表面特性を利用して自発的に操作している.蓮の葉,バラの花びら,蝶の羽など,数多くの水を強力にはじく表面(超撥水表面)が観察されている.この超撥水性は,構成物質の化学的性質と表面微細構造によりもたらされている.つまり生物は,疎水性の化学物質を分泌し,微細構造を自己組織化により形成している.本報では,これらの自然界にみられる水を自発操作可能な超撥水表面に倣い,新規な高分子微細構造複合超撥水表面の自己組織化を利用した作製法を構築する.さらに,その表面上で観察される微小水滴操作技術の創成について述べる.これらの結果は,超撥水表面における学術的な知見を与えるだけでなく,超撥水表面の産業応用の可能性を広げる重要な要素となる.
  • 川口 大輔
    2012 年 69 巻 10 号 p. 598-611
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    高分子/高分子界面の拡散および緩和挙動に及ぼす分子構造の影響,ならびに,緩和過程のその場観察と種々の分子運動モデルを用いた解析について検討した.環状ポリスチレンと環状重水素化ポリスチレンの二層膜を作成し,その界面における相互拡散の温度依存性および分子量依存性を評価した.当自由体積条件下で比較すると,環状ポリスチレンの拡散係数は同程度の分子量を有する線状ポリスチレンのそれよりも大きく,環状ポリスチレンの拡散係数の分子量依存性は線状ポリスチレンのそれとは異なることを明らかにした.分子量の非対称な線状ポリスチレン/線状重水素化ポリスチレン二層膜界面における相互拡散を時分割中性子反射率測定により評価した.中性子反射率プロファイルの経時変化を種々の分子運動モデルを用いて解析を行った.相互拡散の初期過程が分子量に依らず,ラウスモデルに従って進行することを明らかにした.
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