高分子論文集
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70 巻, 11 号
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総説
  • 原田 明
    2013 年 70 巻 11 号 p. 617-622
    発行日: 2013/11/25
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    高分子が他の分子により認識されるには,その主鎖が認識されるか,側鎖が認識されるかによる.高分子鎖が環状分子により取り込まれることにより,高分子の主鎖の長さや太さ,性質が認識され,いわゆる擬ポリロタキサンが形成される.高分子の側鎖が認識されることにより,タンパク質やDNAにみられるような認識やゲルの形成が起こる.ここではグルコースの環状オリゴマーであるシクロデキストリン(CD)を用いて高分子の認識について検討した結果について筆者らの研究を中心に紹介する.CDにより種々のポリマーがとりこまれることにより,ポリロタキサンが形成された.また,ポリマー側鎖の認識により,ヒドロゲルが形成した.このヒドロゲルは自己修復性を示した.また,CD環を有するゲルとゲストを有するゲルとが,ホスト–ゲスト間での相互作用により,選択的に結合した.この結合はさまざまな外部環境により,制御することができた.また,この現象を利用することにより,巨視的な大きさでゲルが光や酸化還元により,伸縮することを見いだした.
総合論文
  • 平田 修造, 安達 千波矢, 渡辺 敏行, 戸谷 健朗
    2013 年 70 巻 11 号 p. 623-636
    発行日: 2013/11/25
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    有機物において1秒を超えるような長い励起三重項状態は脱酸素の環境下かつ77 Kのような極低温下でのみ観測されると信じられてきた.これは,室温大気下では,有機物の室温での激しい振動運動や拡散運動,そして材料中に存在する酸素が材料の長い励起三重項状態を失活させるからである.筆者らは,ヒドロキシステロイド中に重水素置換された芳香族化合物をドープしたホスト–ゲスト薄膜は,室温大気下で励起三重項状態からの熱失活が大きく抑制されることを見いだした.このホスト–ゲスト薄膜は,室温大気中での励起三重項状態からの熱失活速度が十分遅いため,室温大気下で数秒レベルの長い励起三重項状態が観測された.結果として,この材料から室温大気中で1秒以上の寿命を有するリン光発光機能(蓄光機能)が観測された.材料を最適化することで,室温大気中で10%を超えるリン光量子収率と1秒を超えるリン光寿命を同時に有する有機蓄光材料の創製に成功した.
  • 野嶽 勇一, 福元 彰一, 榊原 隆三, 山﨑 信行
    2013 年 70 巻 11 号 p. 637-646
    発行日: 2013/11/25
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    タンパク質の機能上の弱点を改善するために高分子化合物の優れた性質を導入する「タンパク質コンジュゲート」の創製が脚光を浴びている.本研究では,牛乳アレルギーの主要抗原の一つであるβ-ラクトグロブリン(βLG)にデキストランを導入した新規コンジュゲート(DG-βLG)を創製し,アレルギー低減化牛乳の開発に向けた基盤の構築を図った.還元末端にグリシルグリシンを導入したデキストランをN-ヒドロキシスクシンイミドエステル化し,穏和な条件下でβLGと反応させてDG-βLGを得た.分子当たり5.2個のアミノ基にデキストランが結合した結果,抗βLG抗体に対する反応性の抑制,生体内での抗βLG抗体産生量の抑制,および酵素消化に対する耐性の改善,を介してβLGの免疫原性は大きく低減化することが明らかとなった.また,DG-βLGでは苦味系アミノ酸の被覆によって,呈味性も改善されることが判明した.
一般論文
  • 曽我部 啓介, 宮内 雅彦, 菊池 剛, 辻 宏之, 井田 純哉, 古谷 浩行
    2013 年 70 巻 11 号 p. 647-654
    発行日: 2013/11/25
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3′,4,4′-テトラカルボン酸二無水物(ESDA)と種々のジアミン(1a-1l)からポリアミック酸(2)を合成し,2を熱イミド化することでポリエステルイミド(3)を得た.3は,種々の有機溶媒に溶解し,とくにメタ結合を有するジアミン{ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(1a)}から合成した3aはエーテル系溶媒にも高い溶解性を示した.溶液 1H-15N HSQCによりアミドプロトンの化学シフト値を決定し,1H NMRからそのイミド化率を99.5%と決定できた.3lのイミド化率は,トリフルオロアセチル化 19F NMR法で定量すると,98.5%であった.3は,その一次構造から凝集構造を形成できないため,かつ,大きな自由排除体積を有するジグザグ構造を有するために,優れた高温流動性を有していると考えられた.3aのキャストフィルムは透明で,良好な機械的特性と,高い絶縁信頼性を示す熱可塑性フィルムであった.
  • 堀田 寛史
    2013 年 70 巻 11 号 p. 655-667
    発行日: 2013/11/25
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    環状イミノ化合物をイミド基形成の窒素原子源として利用することにより重付加でポリイミド類を得る新規な合成法を開発した.テトラカルボン酸二無水物とビス(2-イミダゾリン)との反応ではポリアミドイミド(PAI)ができ,ビス(2-オキサゾリン)との反応ではポリエステルイミド(PEI)が生成する.低分子のモデル反応を用いたメカニズムの解析の結果,重合反応の経路には二種類あることがわかった.2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(1-メチル-2-イミダゾリン) (1Me13PBI)や2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン) (13PBO)のように1位に活性水素をもたない環状イミノ化合物の場合は反応の中間体としてベンゾ[1,3]オキサゼピン-4,7-ジオンが生成し,これが分子内転位してPAIまたはPEIを与える.一方,2,2′-(1,3-フェニレン)ビス(2-イミダゾリン) (13PBI)のように1位に活性水素をもつ環状イミノ化合物の場合はアミド酸中間体を経てPAIとなる.得られたPAIはDMSOなどの溶媒に可溶であったがPEIは不溶であった.TG-DTAでの耐熱性についても調べた結果,用いた環状イミノ化合物に応じて13PBO<1Me13PBI<13PBIの順に高かった.
  • 吉川 裕規, 成田 武文, 大澤 敏
    2013 年 70 巻 11 号 p. 668-673
    発行日: 2013/11/25
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    ジェット水流による破砕でキトサンナノファイバー懸濁液を作製し,薬剤徐放機能を有する新しい創傷被覆材の開発を試みた.塩化リゾチームの吸着性を検討した結果,キトサンナノファイバーおよび成形体であるフィルムともに単層吸着することがわかった.塩化リゾチーム含有キトサンフィルムを作製し,PBS中への放出特性を検討した結果,塩化リゾチームの累積放出挙動は直線性を示し,キトサンの治療薬徐放機能が確認された.さらに,キトサンナノファイバーをガーゼに塗布することで生体適合性および薬剤徐放機能を有する新しい創傷被覆材を容易に作製できることを示した.
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