高分子論文集
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73 巻, 5 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
高分子科学・工学のニューウェーブ―2016―
総合論文
  • 田中 知成
    2016 年 73 巻 5 号 p. 389-400
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2016/09/23
    [早期公開] 公開日: 2016/06/13
    ジャーナル フリー
    高分子鎖の側鎖に糖分子が結合した構造の糖鎖高分子は,糖分子が密集して存在することでタンパク質などのレセプター分子との結合が強くなる“糖クラスター効果”と呼ばれる性質を有する.近年,糖鎖高分子の合成とその機能を活用した応用研究が再熱しているが,その合成法は,従来と変わらず,糖分子のヒドロキシ基の保護・脱保護を必要とする多段階で煩雑な方法がほとんどであるため,糖鎖高分子化される糖分子は比較的低分子のものに限られ,複雑な構造を有する生体内オリゴ糖鎖への適用は困難である.筆者らは,脱水縮合剤を用いた無保護糖アノマー位の直接活性化法を基盤とする保護基を使用しない(保護基フリー)糖鎖高分子の合成法を開発した.本報では,シアル酸含有オリゴ糖鎖を含む無保護糖鎖を原料とした糖鎖高分子の合成と,合成した糖鎖高分子のレクチンおよびインフルエンザウイルスに対する結合評価について概説する.
  • 松田 靖弘
    2016 年 73 巻 5 号 p. 401-411
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2016/09/23
    [早期公開] 公開日: 2016/08/04
    ジャーナル フリー
    高分子ゲルは最近数十年で急激に進化してきたソフトマテリアルであり,基礎科学的な研究から応用研究まで盛んに行われている.高分子ゲルは高分子が形成する網目構造によって溶媒の流動を妨げているが,網目構造の維持にかかわる物理的,化学的な相互作用は多種多様である.本報では筆者が最近報告した3種類のゲルに関してまとめる.ポリ(L-乳酸)は特定の溶媒と複合体結晶によって繊維状の構造を形成し,溶媒の流動を阻害する.スチレン–ブタジエン–スチレンのトリブロック共重合体は鉱油中でスチレンブロックが凝集することで高分子網目を形成してゲル化する.無水マレイン酸変性ポリプロピレンとセラミックス繊維のコンポジットはセラミックス繊維をポリプロピレンの球晶が架橋することでより少ないとセラミックス繊維でゲル化が可能である.これらの架橋構造を制御することによってゲルの耐熱性などの物性を変えることができる.
  • 髙坂 泰弘
    2016 年 73 巻 5 号 p. 412-427
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2016/09/23
    [早期公開] 公開日: 2016/06/20
    ジャーナル フリー
    アクリル酸エステルのα-置換基は重合にかかわるビニル基に直結し,その重合性に大きく影響することから,ビニル基や重合活性種の電子状態を調整する基が導入されることが多い.これに対し,筆者はα-置換基の周辺環境を意識した分子設計に基づく高分子合成を提案する.α位に直接機能団を置換すると,ポリマーの主鎖近傍に機能団を配置でき,高分子特有の隣接基効果を最大限に引き出すことができる.また,α-置換基を起点とする主鎖分解など,ビニル基の直接修飾ならではの反応性を賦与することも可能である.一方,アミノ基を有する置換基を導入すると,これらがカルボニル基と水素結合を形成し,特異な反応性が発現する.α位にハロメチル基を置換すると,高活性ハロゲン化アリルとしての反応性が現れる.本報では,これら最新の成果を体系的に紹介し,ビニル基周辺を意識したモノマー設計の意義について議論する.
  • 平井 智康
    2016 年 73 巻 5 号 p. 428-441
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2016/09/23
    [早期公開] 公開日: 2016/07/20
    ジャーナル フリー
    界面の存在は高分子合成から高分子材料の機能までの多岐にわたって大きな影響をおよぼす.このため,界面の設計・制御,解析は微細・薄膜さらに高機能化が求められる次世代高分子材料開発において必要不可欠である.筆者は精密重合法を基盤として高分子の分子量,立体規則性を制御することで特異な界面の創製を行い,大型放射光施設において原子レベルから数ナノメートルオーダーの界面構造の解析を行うことで,界面と機能との相関の解明を目指している.ここで得られる知見を界面設計にフィードバックすることで,次世代機能性材料開発へと繋がる.
  • 金澤 有紘
    2016 年 73 巻 5 号 p. 442-452
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2016/09/23
    [早期公開] 公開日: 2016/06/29
    ジャーナル フリー
    異種モノマー間の交差生長反応を伴う共重合系として,ビニルエーテルとオキシランのビニル付加・開環同時カチオン共重合に関する最近の研究を概説する.オキシラン由来のオキソニウムイオン生長種にビニルモノマーが付加しないため,これらのモノマーの共重合は一般に難しいとされてきた.そこで,オキソニウムイオン生長種の開環反応により炭素カチオン種を生成するようモノマー構造・開始剤系に着目し,適切に設計することで,両モノマー間の交差生長反応を伴った共重合が進行することを明らかとした.本報ではさらに,交差生長反応の頻度に影響を与える因子,ケトンを用いた三元共重合系の構築,アルコキシオキシラン・環状ホルマールを用いた制御カチオン共重合系の設計に関する研究結果についても述べる.
  • 南 豪
    2016 年 73 巻 5 号 p. 453-463
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2016/09/23
    [早期公開] 公開日: 2016/06/24
    ジャーナル フリー
    有機トランジスタは柔軟性や簡便な製造プロセスの適用が可能であるなど,化学センサのプラットフォームとして魅力的な電子デバイスである.筆者は,水系媒質中での標的化学種の検出を指向し,自己組織化単分子膜を活用した分子認識材料(抗体・酵素・人工レセプタ)の固定化と,それにより認識能が賦与された有機トランジスタ型化学センサの構築を試みてきた.これまでに,カチオン・アニオン・中性低分子種からタンパク質に至るまで,水溶液中に含まれる生体関連化学種および環境汚染物質の検出に取り組んでおり,有機トランジスタによる認識情報の電気的読み出しに成功している.有機トランジスタと自己組織化単分子膜修飾電極を組合せた当該デバイスによる本成果は,超分子化学・分析化学・有機デバイス工学の視点から見て興味深いものであり,有機分子エレクトロニクスおよび分子認識材料の新たな可能性を切り拓くものである.
  • 千葉 貴之
    2016 年 73 巻 5 号 p. 464-474
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2016/09/23
    [早期公開] 公開日: 2016/07/05
    ジャーナル フリー
    複数の発光ユニットと電荷発生層を直列に積層したタンデム有機ELデバイスでは,ユニット数に応じた高性能化が可能になる.塗布プロセスでは,材料の溶解性や塗布溶媒の下層への浸透を十分に考慮する必要がある.また,真空プロセスでは容易に成膜が可能なアルカリ金属や金属酸化物は,有機溶媒に難溶であるため塗布プロセスへの適用が困難である.筆者らは,塗布成膜可能な酸化亜鉛ナノ粒子を開発し,アミン系高分子材料との積層化により優れた電子注入性と溶媒浸透防止を実現した.また,強い電子アクセプター性を示すリンモリブデン酸を電荷発生層に適用し,蛍光高分子型タンデムデバイスの開発に成功した.さらに低分子リン光材料へと展開し,白色タンデムデバイスの開発に成功した.このデバイスは実用的な高輝度5000 cd/m2において,世界最高水準の外部量子効率28%を達成した.
  • 兼橋 真二
    2016 年 73 巻 5 号 p. 475-490
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2016/09/23
    [早期公開] 公開日: 2016/08/23
    ジャーナル フリー
    地球温暖化の原因とされる地球温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)は年々その排出量が増加傾向にある.このCO2排出量を削減するために,さらなる省エネルギー化や水素や自然エネルギーの有効利用があるが,一方で現在も排出し続ける大量のCO2の対策が急務である.CO2分離回収および貯留プロセス(CCS)は,CO2排出量を大幅に削減できる有力な方法のひとつであり,現在,世界中でその実証試験が行われている.CO2分離回収技術のうち,高分子膜を用いた分離法は,操作の簡便さ,省スペースかつ分離の際に化学反応を伴わないことから,経済効率の高いクリーンな分離技術として知られている.本報では,高分子膜によるCO2分離回収技術についてまとめたものであり,とくに高分子と多孔性ナノ粒子からなる二成分系ハイブリッド膜(Mixed Matrix Membrane, MMM)を用いたCO2分離膜の開発について述べる.
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