高分子論文集
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74 巻, 4 号
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インテリジェント高分子II
総合論文
  • 田村 篤志, 有坂 慶紀, 由井 伸彦
    2017 年 74 巻 4 号 p. 239-249
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/04/06
    ジャーナル フリー
    多数の環状分子の空洞部に線状高分子が貫通した超分子ポリロタキサンは,環状分子の可動性を利用した材料設計に利用されている.ポリロタキサン中の環状分子は軸高分子両末端に結合したかさ高い封鎖基によって軸高分子上に束縛されているが,化学的,物理的な刺激によって封鎖基が脱離する設計を施すことでポリロタキサンに分解応答性を賦与することができる.細胞内外の環境変化や特定の生体分子との反応によって超分子骨格が崩壊する分解性ポリロタキサンはドラッグデリバリーシステムや生体材料への利用が期待される.従来の分解性高分子とは異なる機構によって分解応答を示すポリロタキサンは生体材料として興味深い機能や新規材料の創出に繋がる.本報では筆者らがこれまでに推進してきた分解応答性ポリロタキサンの設計と生体材料応用に関して概説する.
  • 畔柳 奏太郎, 丸山 厚, 嶋田 直彦
    2017 年 74 巻 4 号 p. 250-256
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    生医学材料として応用されている感温性高分子のほとんどは下限臨界溶液温度型高分子であった.これは生理的条件下において上限臨界溶液温度(UCST)型挙動を示す高分子が少なかったためである.筆者らは水素結合性の官能基であるウレイド基をもった高分子が,生理的条件下においてUCST挙動を示すことを明らかにした.またウレイド高分子の冷却によって素早く相分離する性質を利用して,加熱変性の恐れがあるタンパク質のバイオセパレーションシステムを構築した.面白いことに培養細胞にウレイド高分子を相転移温度以下の温度で添加したところ,単層培養状態の細胞がスフェロイド状に形態変化することがわかった.さらに培養温度を相転移以上に上げると再度単層培養に切り替えることができ,ウレイド高分子は温度変化によって培養形態をスイッチングできる材料であることが示された.ウレイド高分子は新たな刺激応答性材料として興味深い.
  • 樫田 啓, 浅沼 浩之
    2017 年 74 巻 4 号 p. 257-264
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/04/10
    ジャーナル フリー
    天然核酸塩基は高い二重鎖安定性と直交性という化学的に魅力的な性質をもつ.この天然塩基対に代わる新たな塩基対を開発することができれば,天然がもちえない機能をもった核酸材料の開発が可能となる.筆者らは非環状骨格であるD-threoninolに着目し,これを介した疑似塩基対の開発を行ってきた.また,疑似塩基対の化学構造が天然塩基対とまったく異なるにもかかわらず二重鎖の安定化と直交性という天然塩基対の化学的機能を模倣できることを明らかにした.本報ではとくに疑似塩基対の安定性に焦点を当て,筆者らの最近の研究成果と今後の展望について概説する.
  • 寺島 崇矢, 澤本 光男
    2017 年 74 巻 4 号 p. 265-277
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/06/22
    ジャーナル フリー
    近年筆者らは,親水性ポリエチレングリコール鎖と疎水性基を側鎖にもつ両親媒性ランダムコポリマーが水や有機溶媒中で精密な自己組織化を実現する機能性高分子として有効であることを見いだした.このランダムコポリマーは,一次構造と側鎖機能基を設計・制御すると,一分子鎖で折りたたまれたユニマーミセルや多分子鎖で集合したナノ会合体を自在に構築できる.とくに,(1)比較的高濃度でもユニマーミセルを形成し,(2)組成と鎖長の選択により多分子会合体のサイズと会合数を精密に制御でき,さらに(3)組成選択的な自己組織化(セルフソーティング)によりサイズの異なる会合体を水中に共存できるなど,一般的な両親媒性ブロックコポリマーとは明確に異なる自己組織化挙動を示した.さらに,得られた機能性ナノ会合体は,水中で温度応答性を示し,水中での触媒反応場やフッ素溶媒中でのタンパク質の保存にも応用できることが明らかとなった.
原著論文
  • 村上 大貴, 溝口 知世, 谷口 葵, 金沢 諭史, 木下 雅貴, 秋葉 勇
    2017 年 74 巻 4 号 p. 278-284
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,異種ブロック鎖間の連結点にアルコキシアミン骨格をもつ両親媒性のポリアクリル酸-b-ポリメタクリル酸メチル(PAA-b-PMMA)を双頭型の開始剤を用いて合成し,PAA-b-PMMAが水中で形成するミセルの感熱応答性について検討を行った.小角X線散乱(SAXS)および動的光散乱(DLS)測定から,PAA-b-PMMAは室温で半径が20 nm程度の球状のミセルを形成していることがわかった.一方,このPAA-b-PMMAミセル溶液を90°Cで12時間熱処理を行うと,水に不溶の成分が生成した.SAXS測定から,回転半径7.5 nmのポリアクリル酸が分子状分散していることがわかった.また,GPC測定から,水に不溶の成分はPAA-b-PMMAから解離したPMMAであった.ここから,熱処理を行うことによりPAA-b-PMMAの連結点が解離するためにミセルが崩壊し,PMMAが水層から放出されることがわかった.
  • 和久 友則, 寺澤 希実, 瀧本 和彦, 市川 将弘, 半田 明弘, 田中 直毅
    2017 年 74 巻 4 号 p. 285-292
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/05/18
    ジャーナル フリー
    タンパク質から成るナノ粒子は,生分解性を有し,低毒性で,再現性良く調製できるという利点をもつことから,ドラッグデリバリーのキャリアとして有用である.本研究では細胞膜透過性をもつカチオン性オリゴペプチドであるTATペプチドによるオボアルブミン(OVA)のナノ粒子化について検討した.OVAとTATペプチドの混合液を熱処理することでおよそ50–200 nmの粒子径をもつナノ粒子を作製することが可能であった.OVAとTATの混合比などの作製条件を変えることによりナノ粒子のサイズ制御が可能であった.また,TATとOVAの混合溶液のDSC測定およびCD測定より,共存するTATペプチドはOVAの熱変性温度や二次構造には影響を与えないことが示された.一方,偏光解消実験に基づく解析より両者は溶液中において確かに相互作用しており,解離定数は2.7 µMであることがわかった.また,変性状態のOVAとTATの混合溶液を加熱した場合にはナノ粒子が得られなかった.これらの結果より,ネイティブ状態のOVAがTATペプチドとイオンコンプレックスを形成した後,熱変性することによってナノ粒子を形成することが示唆された.さらに,OVA/TATナノ粒子はRAW264細胞に効率よく取り込まれることを示した.以上より,カチオン性ペプチド存在下でのOVAの熱処理によるナノ粒子形成は,タンパク質を基盤としたドラッグデリバリーキャリアーの作製法として有用であると期待される.
  • 清水 秀信, 下田 嘉史, 和田 理征, 岡部 勝
    2017 年 74 巻 4 号 p. 293-297
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/05/02
    ジャーナル フリー
    冷水には溶けにくく,温水には溶けやすい食品添加物であるカテキンを,1.0 wt%の感温性高分子水溶液に添加したときの相転移挙動を,カテキンの添加濃度と温度を変えて,高分子水溶液の透過率を測定することにより評価した.感温性高分子としては,ヒドロキシプロピルセルロースやポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を用いた.カテキンの添加により,HPCの透過率–温度曲線もPNIPAMのそれも低温側に大きくシフトする傾向を示し,どちらの相転移温度もカテキン濃度に比例してほぼ直線的に低下した.相転移温度を10°C低下させるのに必要なカテキンの濃度は,HPCでは0.13 wt%,PNIPAMでは0.2 wt%であった.これらの結果から,カテキンと感温性高分子の相互作用により高分子鎖が疎水化するため,相転移温度が低下した可能性が示唆される.カテキンは,少量で感温性高分子の相転移温度を大きく変化させることができる物質であることから,感温性高分子の相転移挙動を制御するのに有効にはたらくことが期待される.
  • 望月 威夫, 尾身 拓哉, 野田 飛鳥, 奥崎 秀典
    2017 年 74 巻 4 号 p. 298-303
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/04/25
    ジャーナル フリー
    ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン) (PEDOT:PSS)水分散液とエチレングリコール(EG)からなる導電性インクを調製し,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルム上にバーコートすることでフレキシブル透明圧電素子を作製した.PEDOT:PSS水分散液90 wt% (EG 10 wt%)において,シート抵抗(Rs),膜厚(d),電気伝導度(σ),全光線透過率(TT),ヘイズはそれぞれ109 Ω/□,155 nm,590 S/cm,84%,3.0%であり,透明電極の性能指数(FOM)は27であった.フレキシブル透明圧電素子の音響伝達特性から,最大音圧レベル(SPL)はPEDOT:PSS水分散液が90 wt%で最大70 dBに達した.さらに,最大SPLはPEDOT:PSSの電気特性と強い相関があり,Rsの低下とともに直線的に上昇することがわかった.
  • 板倉 幸枝, 大谷 亨
    2017 年 74 巻 4 号 p. 304-310
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/05/22
    ジャーナル フリー
    ポリグリセロールデンドリマー(PGD)はL-アルギニン(Arg)と106 (M-1)オーダーの極めて高い結合定数を示す.この現象に着目し,がん細胞へのArgデリバリーの可能性を検証するため,葉酸(FA)もしくはBiotinをがん細胞標的リガンドとして修飾し,がん細胞表面上に存在するこれら受容体との相互作用を介してがん細胞へ選択的にArgを送達するキャリアとしての評価を行った.第三世代のPGD (PGD-G3)とFAもしくはBiotinをエステル化反応させたところ,PGD-G3一分子あたり一分子のリガンドが導入された.FA受容体過剰細胞,biotin受容体過剰細胞,どちらの受容体もない細胞を用い,Arg取り込み能を評価したところ,一部の細胞ではArg取り込みに伴う蛍光強度の増大がみられたことから,特異的なリガンド–受容体相互作用を介した取り込みの可能性が示唆された.
  • 中島 祐, 樋渡 堅太, Jian HU, 黒川 孝幸, 龔 剣萍
    2017 年 74 巻 4 号 p. 311-318
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/07/04
    ジャーナル フリー
    ポリアクリルアミド(PAAm)ゲル前駆体溶液にアニオン性の微粒子ゲルを分散させ,電気泳動を行ってからPAAmゲルを重合することにより,内部に微粒子ゲルの濃度勾配を有する電解質微粒子ゲル/PAAmゲル複合体(傾斜構造P-DNゲル)を創製した.微粒子ゲルは電気泳動に伴って陰極側に移動し,その偏在度合いは電気泳動時間によってコントロール可能であった.本傾斜構造P-DNゲルは,純水中で大きく湾曲してらせん構造を形成した.これは,ゲルの陽極側(PAAmゲル層)の膨潤度が陰極側(微粒子リッチ層)よりも大きいという膨潤ミスマッチによってひき起こされたものである.また本P-DNゲルをエタノール水溶液,NaCl水溶液に浸漬させ,各層の膨潤度を制御することにより,ゲルの形態をそれぞれ平板状,円筒状へと多様かつ可逆的に変化させることにも成功した.
一般投稿論文
総説
  • 則末 智久, 杉田 一樹, Tran Thao NGUYEN, 中西 英行, 宮田 貴章
    2017 年 74 巻 4 号 p. 319-333
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/06/08
    ジャーナル フリー
    医療,非破壊検査,ソナーなどで広く用いられている超音波を,高分子材料のミクロな構造解析に応用すべく,新しい超音波散乱技術の開発を行ってきた.本報では,おもに二つの手法について最近の研究成果をまとめる.一つ目は,動的超音波散乱(DSS)法であり,これは動的光散乱(DLS)法の超音波版である.高度に着色もしくは乳濁した微粒子分散系において,粒子径分布や凝集状態を解析することが可能である.また,ブロードバンドパルスを用いているため,位相を活用して試料の位置情報を取得することができ,粒子の構造を可視化することも可能である.二つ目の手法は超音波スペクトロスコピー(US)法である.この手法は古くから用いられている,いわゆる吸収法であるが,散乱関数論を組合せ,液体中に浮遊する微粒子一個の硬さ情報を,非接触で希釈乾燥することなく評価可能である.最近では,マイクロカプセルのシェル部分の弾性率やシェル厚みを評価する技術に発展したので,この研究例についても述べる.
原著論文
  • 樋口 晃司, 佐々木 海渡, 岩野 篤, 森田 浩平, 新屋敷 直木, 岡村 陽介, 長瀬 裕
    2017 年 74 巻 4 号 p. 334-345
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー
    電子付録
    ホスホリルコリン(PC)基を有するジオールモノマーからPC基含有セグメント化ポリウレタンの合成を行った.ここで,PC基と重合基を連結するスペーサー部がエチレン鎖またはヘキシレン鎖からなる二種のPC基含有モノマーを合成し,スペーサー鎖長が異なるポリマーを合成した.得られたポリマーから自己支持性のキャストフィルムの作製が可能であり,エラストマーとしての性質を示した.また血小板粘着試験の結果,ポリマーフィルム表面には血小板がほとんど粘着せず,優れた抗血栓性を発現することがわかった.一方,得られたポリマーフィルムについて誘電分光測定を行ったところ,ポリマー中のPC基やソフトセグメントの運動に由来する緩和過程が観測された.さらに,緩和時間のアレニウスプロットから活性化エネルギーを算出した結果,PC基近傍および凝集構造の運動性に由来する緩和過程は結合部位のスペーサー鎖長に影響を受けることが示唆された.
  • 松井 栄樹, 内田 敦之, 奥田 雄斗
    2017 年 74 巻 4 号 p. 346-352
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究ではフタレイン系色素骨格を高分子化する方法として,ジクロロエタンを溶媒,トリエチルアミンを塩基として用いて酸クロリドと室温で反応を行う,低温溶液重合を選択し検討を行った.まず,フルオレセインとテレフタル酸クロリドを用いて反応を行ったところ,目的の重合が進行し,得られた生成物についてESI MS,MALDI TOF MS測定による質量分析,FT IR測定により詳細な同定を行った.また,フルオレセインは同様の反応条件にてスルホニル化およびホスホニル化を伴って重合が進行すること,フェノールフタレインもテレフタル酸クロリドとの重合が進行することがMS測定より明らかとなった.以上より,本手法は両端にフェノール性ヒドロキシ基を有する色素の高分子化法として広く利用できることが明らかとなった.
ノート
  • 亀田 隼大, 大谷 顕三, 中西 英行, 則末 智久, 宮田 貴章
    2017 年 74 巻 4 号 p. 353-359
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー
    In this study, the phase separation of a uniform mixture composed of poly(ethyl methacrylate) (PEMA) and poly(ethyl acrylate) (PEA) was induced by photopolymerization of methyl methacrylate (MMA) monomer used as a co-solvent. Phase separation of the ternary mixture was initiated by irradiation with 405 nm visible light that triggers the polymerization of MMA. To image the morphology of the ternary systems, the two polymers PEA and PEMA were labeled with fluorescein and rhodamine-B, respectively. The phase separation kinetics was in situ monitored by using the multi-tracking techniques under a laser-scanning confocal microscope [LSCM]. It was found that a PEMA-rich phase first separated from the mixture and subsequently, the PEA-rich component segregated and enwrapped the PEMA-rich phase in the PMMA matrix of the ternary blend. The correlation among polymerization yield, the molecular weight of the resulting PMMA and the onset of phase separation of the two components PEA and PEMA from the ternary mixture are also discussed in terms of Hildebrand solubility parameters.
  • 横山 憲文, 金澤 有紘, 青島 貞人
    2017 年 74 巻 4 号 p. 360-364
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/07/25
    [早期公開] 公開日: 2017/05/18
    ジャーナル フリー
    Graft copolymers were synthesized via grafting-through method by the quantitative synthesis of macromonomers via living cationic polymerization using vinyloxy group-containing alcohols as quenchers and subsequent cationic copolymerization of these macromonomers and an alkyl vinyl ether. The quenching of living cationic polymerization of isobutyl vinyl ether (IBVE) using methanol, ethanol, 2-propanol, and tert-butyl alcohol indicate that the primary alcohols are suitable for end functionalization due to the stability of the acetal ω-ends. Thus, macromonomers were prepared by the end-capping method using vinyloxy-containing primary alcohols as quenchers for the living cationic polymerization of IBVE under appropriate conditions. The spacer structure adjacent to the vinyloxy group of the macromonomer is highly important for the efficient cationic copolymerization that proceeded without side reactions. A macromonomer prepared from 1,4-butanediol monovinyl ether was successfully copolymerized with IBVE using an appropriate catalyst, yielding graft copolymers in high yields.
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