ブロック共重合体が選択溶媒中で形成する高分子ミセルに関するこれまでに報告されている以下の動力学研究について,理論・実験両面の研究成果を紹介する.①平衡状態にある高分子ミセル間の構成ブロック共重合体鎖の交換動力学について,重水素でラベル化した共重合体ミセルとラベル化していない同種の共重合体ミセルを溶液中で混合し,共重合体鎖のミセル間の交換速度を小角中性子散乱で調べた.②ブロック共重合体のミセル溶液を温度ジャンプさせたときに起こる高分子ミセルの成長を,光散乱実験により調べた.③ミセルが存在しないブロック共重合体溶液の溶媒条件を,主としてストップドフロー装置を用いて急変させて,ミセルが安定な状態にもたらしたときのミセルの形成動力学を光散乱あるいは小角X線散乱(SAXS)により調べた.④球状ミセルと円筒状ミセルの間のモルフォロジー転移の動力学を電子顕微鏡観察とSAXSにより調べた.
筆者らは1-メチルピロールとアルデヒドの反応における新規擬リビング付加縮合重合法を研究している.この重合法では種々のアルデヒドを使用することで,ポリマーの主鎖の極性や分岐などの構造の制御のみならず,エネルギードナーやアクセプターなどを導入することもできる.本報では,新規擬リビング付加縮合重合法とその人工光合成系への応用として,二種類の構造制御したポリマーの合成法と物性について紹介する.一つ目はA,B-ブロック型両親媒性ポリマーで,親水性と疎水性のそれぞれ異なるブロックにエネルギードナーとアクセプターを有するものであり,ミセル系において異相間での光誘起エネルギー移動を示した.二つ目は分岐型ポリマーで,外側に多量のエネルギードナーを有し,中心部に電子ドナー–アクセプターを有するものであり,効率的な光捕集と中心部での光誘起電子移動を示した.
本報は,ブロックコポリマーが自己組織化により発現する周期長10~100 nmのネットワーク構造が,組成の制御,ホモポリマーの添加,一次構造の制御,二段階相分離法にどのように依存するかを詳細に検討し,構造の発現機構と制御方法とについてまとめたものである.ジブロックコポリマーにおいては,組成の精密な制御およびホモポリマーの添加によるFddd構造の創製,ジブロックコポリマーの一成分を高密度グラフト鎖にすることによるOrdered Bicontinuous Double-Diamond (OBDD)構造の安定化について述べ,トリブロックコポリマーにおいては二段階相分離によるOBDD構造の創製について述べる.
対称ジブロックコポリマーのミクロ相分離構造を取り扱うための粗視化モデルとして,ソフトダンベルモデルに基づく自己無撞着場(SCF)理論を提案する.二つの粗視化粒子を連結することでジブロックコポリマーを表現するソフトダンベルモデルに対して標準的なSCFモデルの導出手法を適用することで濃度場と外場に対する自己無撞着な連立方程式を導出する.得られたSCFモデルを用いて一次元系でシミュレーションを行うことで,ミクロ相分離構造を再現できることを示す.また,得られたSCFモデルの性質について考察を行う.
水溶性で生体親和性のポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン) (PMPC)ブロックと,疎水性のポリ(n-ブチルメタクリレート) (PBMA)ブロックからなる両親媒性ジブロック共重合体(PMPC-PBMA)を可逆的付加–開裂連鎖移動(RAFT)型ラジカル重合法で合成した.PMPCとPBMAの重合度は,それぞれ95と181量体だった.電子顕微鏡でPMPC-PBMAは,水中で楕円状のコア–シェル型ミセルを形成することを確認した.このミセルの疎水性コア中に,近赤外光(NIR)を吸収する疎水性シアニン色素(Cyd)を取り込ませ,水に可溶化できた.動的光散乱で求めたCydを取り込んだ楕円状ミセルの流体力学的半径は103 nmだった.Cydを取り込んだミセルの水溶液にNIRを照射すると,Cydの光熱変換による発熱挙動が観測された.Cydを取り込んだ生体適合性ミセルは光熱療法に応用できると期待される.
l-ラクチド(LLA)とε-カプロラクトン(CL)を重合後,引き続きd-ラクチド(DLA)とCLの重合をSn(Oct)2存在下に行い,ステレオブロック共重合体(Poly(LLA-r-CL)-b-Poly(DLA-r-CL))を合成した.Poly(LLA-r-CL)とPoly(DLA-r-CL)のブレンド体は二つの融点を示し,ホモ結晶を含むのに対して,Poly(LLA-r-CL)-b-Poly(DLA-r-CL)は選択的にステレオコンプレックス結晶を形成することが示された.得られたポリマーの機械的性質を評価したところ,Poly(LLA-r-CL)-b-Poly(DLA-r-CL)は高い破断伸度を示すことが明らかになった.Poly(LLA-r-CL)-b-Poly(DLA-r-CL)はPLLAやPoly(LLA-r-CL)と比較して低い酵素分解性を示した.
本研究では,ポリ(メタクリル酸)-block-ポリ(メタクリル酸2-Brブロモエチル) (PMAA-b-PBrEMA)ミセルのpH応答性について,BrのK吸収端近傍での異常小角X線散乱(ASAXS)により検討した.ASAXSの解析結果から,PMAA-b-PBrEMAミセルの疎水性コアの半径が酸性条件下では16 nmであるのに対し,塩基性条件下では6.5 nmとなることがわかった.また,会合数が酸性条件から塩基性条件下への変化に伴い260から20へと低下し,PMAA-b-PBrEMAミセルのコア–コロナ界面における分子鎖の数密度が,酸性条件と比較して塩基性条件で低くなることがわかった.ここから,PMAA-b-PBrEMAミセルは,塩基性条件下においてPMAA鎖間の静電反発によりコア–コロナ界面の曲率の増大と界面における分子鎖密度の低下が生じることが明らかになった.
An unsymmetric diblock copolymer b-Q57A97 of (ar‑vinylbenzyl)trimethylammonium chloride (Q) and N,N-dimethylvinylbenzylamine (A), synthesized by reversible addition-fragmentation chain transfer radical polymerization, and its molecular assemblies were characterized by static and dynamic light scattering and steady state fluorescence using N-phenyl-1-naphthylamine (PNA) as a probe. Scanning electron microscopy observations indicated that b-Q57A97 formed a unique fern leaf-like morphology in the presence of NaCl.
Polyethylene (PE) is known as the typical plastic whose surface properties are very difficult to modify and it is believed that it is impossible to modify the surface properties chemically. However, recently, Yao had clearly shown that side chain crystalline block copolymer (SCCBC) has an ability to modify the PE surface property chemically. In this study, by using the SCCBC, we had tried to stain the very high molecular weight PE fiber that is known to be the most difficult product with respect to modifying the surface property, not only chemically but also physically. From the results, the high molecular weight PE fiber can be dyed by using the SCCBC and it had shown very high durability. This study shows that the application area of SCCBC is very wide and useful.
クエン酸三ナトリウム(CIT),トリポリリン酸ナトリウム(TPP),またはアルギン酸ナトリウム(Alg)で架橋したキトサン(CS)ゲルとポリ(N-イソプロピルアクリルアミド) (PNIPA)を組合せることで,温度応答性CIT@CS-PNIPA,TPP@CS-PNIPAおよびAlg@CS-PNIPAをそれぞれ合成した.調製したゲルの圧縮試験により測定した弾性率は,CIT@CS-PNIPAが18.9 N/mm2,TPP@CS-PNIPAが86.6 N/mm2,Alg@CS-PNIPAが<0.01 N/mm2であった.CIT@CS-PNIPAおよびTPP@CS-PNIPAについて,シアノコバラミン(VB12)をモデル薬物として内包し,それぞれ薬物放出挙動を確認した.LCSTより高温の40°C,30分でのVB12放出率は,CIT@CS-PNIPA,TPP@CS-PNIPAともにほぼ100%に達し,PNIPAの熱応答による効果を確認するとともに放出には架橋剤による差を認めることができなかった.一方,LCST以下の25°C,30分では,VB12放出率がCIT@CS-PNIPAで70%,TPP@CS-PNIPAは10%であり,架橋剤による薬物保持性能に大きな違いが生じた.
タケ短繊維(BµF)とポリプロピレン(PP)複合体の帯電防止特性におけるBµFの効果を確認し,さらに帯電防止性と難燃性を兼ね備えた複合体の作製を目的に,タケの過熱水蒸気(SHS)処理に伴う表面特性変化とBµF/PP複合体の帯電防止特性評価を行った.その結果,SHS処理に伴い発生する成分によって表面疎水化が確認され,疎水化されたBµFはPPとの複合体に対して効果的に表面抵抗値低減に寄与した.次に,各種難燃化BµF/PP複合体の帯電防止特性を評価した結果,膨張性黒鉛(EG)が表面抵抗値の低減にも効果的であることが確認され,無水マレイン酸変性PP (MAPP)は,BµF単独の帯電防止特性を抑制したが,BµF/EGによる表面抵抗値の低減作用を抑制するに至らず,BµF/PP/EG/MAPP複合体は,難燃性と機械的強度ばかりでなく,帯電防止性能にも優れた複合体であることが明らかとなった.
2-ビニロキシエチルグリシジルエーテル(VEGE)とN-フェニルマレイミド(NPMI)のAIBNによるラジカル共重合を60°C,ベンゼン中またはテトラヒドロフラン(THF)中で行い,ベンゼン中では数平均分子量12万~25万,THF中では数平均分子量6千程度のコポリマーをそれぞれ高収率で得た.また,AIBN非存在下での共重合は,ベンゼン中では,重合はわずかしか進行しなかったが,THF中では数平均分子量5千程度のコポリマーが高収率で得られた.1H NMRスペクトルによる解析により,生成ポリマーの構造は,VEGE単位とNPMI単位からなる共重合体であり,MALDI-TOF-MSスペクトルによる解析により,VEGE単位とNPMI単位が交互に配列したシークエンスに起因するピークがおもに観測され,NPMI仕込み量に応じてNPMI単位の連鎖も見いだされた.生成したコポリマーのガラス転位温度(Tg)は,共重合体組成に依存し,約100~200°Cであり,NPMI単位の組成が増すに従って著しく上昇した.熱分解温度(Td)は300°C以上であり,高い耐熱性を有することがわかった.コポリマー中の側鎖のエポキシ基と多官応性芳香族アミンとの硬化反応により,高いガラス転位温度を有する新規の耐熱性エポキシ硬化樹脂が得られた.
Polymer networks composed of liquid-crystalline polyesters were synthesized with two kinds of titanium alkoxide catalysts, titanium tetrabutoxide and titanium tetraisopropoxide. We confirmed that titanium tetrabutoxide worked at a lower temperature in the reaction for the formation of a polymer network; a compound containing a gel component of 84 weight percent was obtained in the synthesis at 210°C with titanium tetrabutoxide catalyst, while that containing a gel component of 44 weight percent was obtained with titanium tetraisopropoxide at 230°C.