筆者はポリエチレンアジペートの球晶の生成過程を偏光顕微鏡下に詳しく観察した。熔融したポリエチレンアジペート (ポリ縮合度約16) をスライドグラスの上で27℃で放冷すると, まず直線状の分子束の形成が起る。次にその熔融物の冷却速度がわずかに大きいときは, 一般に分子束は棒状のままで成長をやめる。そしてその分子束を中心にして二次的に放射状の排列が起り, それが発達して球晶となる。これに対して, 熔融物の冷却速度が比較的小さいときは, 分子束の両端は開きつつ成長し, あたかも中央で束ねた藁束のような形となり, 次にこれを中心として, 二次的に放射状の排列が発達して球晶となる。また熔融物の冷却速度が非常に遅く, 二次的の排列が起りにくいときは, 分子束はゆっくりと成長をつづけ, その両端の展開はしだいに大きくなり, ついには両端の外側はたがいに相接し, 合して, 分子束は円形または長円形 (球形または回転長円形) となり, 次にそれを中心として, 放射状の排列が発達する。これらの過程は, ここに述べたように, 必ずしも明確に区別できる訳ではなく, 実際には熔融物の冷却速度と周囲温度ならびにそれに伴う応力によって起るものであって, 本質的に異なるものではない。しかしながらいちばん根本になる核は常に直線状の分子束であった。次に熔融物を注意深く徐冷して巨大な球晶をうることができた。またポリエチレンアジペートの球晶にはクラックを生じやすく, その方向はほとんど常に半径方向であつたが, まれに円周方向に生ずることもあった。
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