加硫ゴム中にはチオケトン基が存在する。このチオケトン基はゴム加硫中に生じ, 加硫の進むにつれて架橋に轉ずる。又, 加硫ゴムの経日變化に伴なつて架橋に轉ずる。アセトンで加硫ゴム中の結合していない硫黄を除去する操作中にも架橘に轉ずる。しからば, このチオケトン基の架橋に轉ずる構造は次のいずれであろうか。([5-1], [5-2], [5-3], [5-4] 圖参照)
[5-1]式はヂ・チオエーテル型であり, [5-2] 式は, トリ・チオエーテル型である。加硫ゴムの経日變化に依り, チオケトン基より轉ずる架橋生成に對する弾性的及び化學的取扱いに併せて, 加硫ゴム-ケタヂン架橋を全く同時に行つた結果, 次の知見を得た。W. Kuhn 及び久保氏理論 という代表的な弾性理論の解釋に定性的に矛盾を來たすことなく, 又, 低分子チオケトン重合の一般性にも合致し, 弾性的な實驗とも合致する構造は [5-2] 式表示のものの内, ゴム加硫中にあつては [5-4] 圖型のゴム分子内環状構造及び [5-3] 圖型のゴム分子内一部環状構造が期待され, 加硫ゴムの経日變化に伴なうチオケトン基より轉ずる架橋には [5-3] 圖型が期待される。他の構造は矛盾を生ずる。即ち加硫ゴムケタヂン架橋は, [5-3] 式で自己分子内環状構造は成り立ちにくく, 殆んど弾性架橋であると考えられる。これに反し, 硫黄に依るゴム分子架橋中には弾性に關與しない自己環状構造を型作る事が期待される。
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