繊維素誘導體の可塑物特にセルロイドの缺點である易燃性を防止して, 安全な難燃性を賦與しようとする研究は古くから行われており, 燃焼の際にCO
2を容易に發生して燃焼を防止する (NH
4)
2CO
3, Na
2, CO
3等の炭酸鹽, 或はC1
2を發生するC
2Cl
6, 四鹽化ナフタリン (C
10H
4Cl
4) 等の多鹽素化合物, 叉は金属硫酸鹽, 鹽化物, 硼酸鹽, 硅酸鹽, 燐酸鹽, 砒酸鹽, 蟻酸鹽, 醋酸鹽等多種多様の不燃性乃至難燃性物質をセルロイドに添加する方法が提示きれているが, これ等の物は何れも繊維素誘導體の溶劑若しくは膨潤劑ではなく, 單に可塑物の充填體上しての役目を負うているにすざずこれ等を添加した可塑物の物理的性質に於て幾多の缺點を有し, まだ優れた物理的性質を犠牲としないで難燃性を賦與する可塑劑が見出されていない。然るに1902年トリ・フェニール・ボスフエート, トリ・クレジル・ボスフエート, トリ・ナフチル・ボスフェートがセルロイドの樟蟹代替可塑劑として使用せられるに到つて, セルロイドを難燃性とすると同時にその物理的性質を損じない事が明になり, この方面への發達の端を開いた。即ち燐酸エステルは繊維素誘遵體をよく溶解著しくは膨潤し, かも不揮發性, 耐光性, 耐水性・無色無臭の安定性の強い可塑劑であるばかりでなく, 無機酸エステルであるから可塑物を著しく難燃性にすると共にその物理的性質を害さない。この燐酸エステルの繊維素誘遵體を溶解若しくは膨潤する性質はその分子構造の中に合まれている燐酸基に起因している。燐酸エステルの可塑物に難燃性を賦舁する特徴を更に向上させるためにチオ燐酸エステルが用いられる。又フエノール類のハロゲン置換體燐酸エステルはハロゲンの作用により燃燒性を低下すると言われている。燐酸エステルの三個のエステル殘基が同一のものより脂肪族アルコール類及びフェノール類の混合エステルは繊維素誘遵體に對する親相生が向上して來る。これ等の研究の結果を総括するに燐酸エステル系可塑劑よりなる繊維素誘導體の可塑物の燃焼性を低下するためにはエスタルを構成するエステル殘基が炭素數の低いこと, ハロゲン置換のあること及びエーテル結合を有すること或はそれ等の混合であることが必要である。一般に純性溶劑は極性物質を良く溶解するものであつて, 硝酸徽維素, 醋酸繊維素等の繊維素誘導體は強い極性物質であるから, これ等の可塑劑も亦強い極性基を有するものほど優良な溶解性を有して可塑物に良い物理的性質を賦輿することになる。両その外に可塑劑としては射光性, 耐熱性, 耐水性, 不揮發性, 無色無臭, 安定性, 並びに繊維素誘導體自身の分解抑制作用等の諸性質を具傭することが必要である。著者は難燃性を主とし以上の優良なる諸性質を可及的に有する新しい燐酸エステル系可塑劑の合成並びにこれ等のエステルの諸性質を研究した。
しかして酸鹽化燐とメタノール, エタノール, 正プタノール, イソ・アミール・アルコール, エチレングライコールのメチル, エチル, 正プチル, フエニール, クレジル, 及びオルソ・クロロフェニール・モノ・エーテル並びにエチレンケロロヒドリンを原料として單燭乃至混合燐酸エステル29種の合成, 燐酸エステルの鹽素化, 燐酸エステル, アマイドの合成及びこれ等化合物の諸性質, 特に硝酸繊権素並びに硝酸繊維素と, これ等新可塑劑との可塑物の諸性質の可塑剤による影響を明にした。
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