ことば
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選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
個人研究
  • ―口語体のジェンダー化に伴う評価の変容―
    深澤 愛
    2024 年 45 巻 p. 3-20
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿では、明治20年代に「です」「ます」を基調とした言文一致体の作品を発表した作家、若松賤子の文体に対する明治20~40年代の言説を分析した。明治20年代は丁寧語の使用について言及がないのに対し、明治30年代になると丁寧語を賤子の文体の特色とし、賤子が女だから丁寧語を用いたと理解されるようになる。また、ジェンダーを観点とする評価は、賤子と同時期に丁寧語を言文一致体へ導入した男性作家に対する言説には見られない。賤子の文体への評価が以上のように変容した要因は明治30年代に確立した口語体にある。口語体は確立と同時にジェンダー化し、口語体の下位区分である敬体は女にふさわしい文体と認識されるようになった。このときできた文体観は、さかのぼって口語体確立前の明治20年代における言文一致の実践に対する理解にも適用されるようになったのである。

  • 小林 美恵子
    2024 年 45 巻 p. 21-38
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    「1940年ごろの〈おばあさん語〉は明治期の江戸語・関東語由来の女性一般のことばであった」(小林2023)を受けて、そのような話体が「家庭内ヒエラルキー」と密接に関連して昭和後半まで受け継がれる中で、より若い世代によって使われた〈女ことば〉にとってかわられていく様子を、戦後の小説やマンガ『サザエさん』のことばに観察する。

  • ―汎性語の「わ」・女性語の「わ」―
    大島 デイヴィッド義和
    2024 年 45 巻 p. 39-56
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿では、首都圏方言における談話助詞「わ」の意味・機能について、文末で平調イントネーションを伴って発音される汎性語の「わ」と、疑問上昇イントネーションを伴って発音される女性語の「わ」に分けて考察する。汎性語の「わ」は、平調イントネーションを伴う「よ」と重なる用法(群)を持ち、また「命題内容の聞き手にとっての関連性が比較的低い」という情報を追加的に伝達することを主張する。女性語の「わ」に関しては、これが特定の談話機能を持たない「キャラ語尾的な虚辞表現」であるという仮説を提案し、「よ/ね/よね」との共起パターンがこの仮説を支持する根拠となることを論じる。

  • ―「ガチガチ」を例に―
    葉 書辰
    2024 年 45 巻 p. 57-74
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、「硬さ」を表すオノマトペで語義数の豊富な「ガチガチ」の使用実態を明らかにし、その意味間の関係、意味拡張のプロセスやメカニズムを分析し、意味ネットワークを構築した。具体的には、5つのコーパスおよびYahoo!知恵袋からデータを収集し、各辞書における「ガチガチ」の意味説明では解釈できない多数の実例を確認し、新たにその意味を記述した。「ガチガチ」の意味は、プロトタイプ的意味、別義1~5に分類され、これによって各辞書の説明の不十分さが明らかになった。さらに、これらの意味間の関連性を分析し、「ガチガチ」の意味の進化過程や意味拡張のプロセスを検討し、最終的に意味ネットワークを描き出した。

  • 梅村 弥生
    2024 年 45 巻 p. 75-92
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究は日本語学の分野で非分析的否定疑問文と呼ばれる「(ノ)デハナイ↓カ」の1つの機能について、会話分析の中心的考え方である行為連鎖の視点を導入し、自然会話のデータを用いて分析・考察するものである。話し手の「(ノ)デハナイ↓カ」(文末が下降音調)を含む発話とその応答による連鎖が、①本活動の前提となる事柄を確認する、②確認のやりとりをもって、準備または予備の働きをするという2点の機能をもっていることを実証する。そこで、本研究では、この確認の連鎖を「予備的装置」と命名する。さらに、「予備的装置」について、①確認のターゲットは参与者らが極めてアクセスしやすい事柄である、②聞き手は確認を与えて参加する、③重要なのは本活動である、④この連鎖は本活動に取り込まれる、⑤副次連鎖を構成することがある、といった5つの特徴を持ちながら、後続する活動を聞き手と共同的に産出することを実証する。

  • ―日本語と中国語の比較を中心に―
    王 昌
    2024 年 45 巻 p. 93-110
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、談話展開の観点から課題解決場面において「不同意コミュニケーション」が生じる際の日中両言語の共通点・相違点を明らかにすることである。日本語の会話データは『日本語日常会話コーパス』を使用し、中国語の会話データは筆者が収集したものを使用した。第1の不同意表明のストラテジーについて、両言語の使用率上位3種類が異なり、日本語においては「否定の理由」単独の使用率が比較的高く、中国語においては「否定の理由」を述べる際に、明示性の高い「直接的な否定」との組み合わせが多く見られた。また、第1の不同意表明以降の展開パターンについて、両言語共通で確認要求型、代案要求型、理由述べ合い型、相手意思尊重型、解決策提示型というパターンが確認された。最後に、終結の仕方については、日本語では「合意形成標識あり」の出現回数が、中国語では「合意形成標識なし」の出現回数が有意に多いという結果になった。

  • 髙宮 優実
    2024 年 45 巻 p. 111-128
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究では、初めて日本に留学する日本語学習者が、留学直後から、日本語会話パートナーとの定期的な会話練習を通じて、どのように相手との会話に対応し人間関係を構築しようとしていたかを、特に「ほめとほめへの応答」「けなし」の2点の言語行動に関わる会話に着目し、明らかにする。会話の分析・考察の結果、留学前の準備によって、比較的スムーズに対応できている部分と、対応に改善の余地がある部分が観察された。学習者は日本語を使って、概ね臨機応変に相手との会話を構築していけることが観察され、留学期間が長くなればなるほど、相手との関係やその場の状況にあわせ、会話を調整できるようになることが明らかになった。

  • ―技能実習指導員へのインタビュー調査から―
    大槻 薫子
    2024 年 45 巻 p. 129-146
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    介護分野に技能実習生の受け入れが開始されて久しいが、彼/彼女らは日本語でコミュニケーションができるのかという不安は尽きない。そこで本研究は、現場で介護職員らが技能実習生らと協働する際に感じるコミュニケーションの不安の有無やその所在を明らかにすることを目的とし、技能実習生を受け入れている3つの施設で、技能実習指導員からみた技能実習生の口頭でのコミュニケーションについてインタビュー調査を行った。その結果、実習年数が長くなれば、その分技能実習生らの業務遂行能力が評価され、日本語での相互理解を助ける手立てとなること、実習生の日本語能力の未熟さが業務に支障をきたすと安易に結びつけることはできないこと、そして利用者が話す方言の不理解は、利用者とのコミュニケーションをとるきっかけにもなることが示唆された。

  • 斎藤 理香
    2024 年 45 巻 p. 147-164
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    日本のフェミニズム勃興期から戦前に母性主義者として活動した山田わか(1879–1957)には、アメリカの売笑をめぐる社会事業・福祉問題運動家「マイナー女史」(「女史」はわかによる呼称)の著書を翻訳した『売笑婦の研究』(1920)がある。モード・マイナーMaude E. Minerは、ニューヨーク市の「夜間法廷」や保護施設で出会った約1000人の若い売笑婦たちの生の声を記録・分析し、彼女たちが売笑に至った理由が家族関係や経済状況など複合的な要因にあることを豊富な事例を通して検証した。マイナーはまた、売笑婦の更生と社会復帰を手助けする保護施設を自ら設立し、売笑を社会問題として捉える視点と、売笑を予防するための社会と法的な整備を訴えた。ここでは『売笑婦の研究』を紹介し、マイナーの知見と人身売買被害の当事者でもあったわかの廃娼の思想との間の共通点を指摘する。

  • 遠藤 織枝
    2024 年 45 巻 p. 165-182
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    2019年に入手した寿岳章子の日記群の最後の部分を対象として、生の章子がいかに学び、焦り、喜びを感じたかを掘り下げる試みである。本稿では京都府立西京大学(後に京都府立大学と改称)の専任講師を経て助教授に昇進した時期の、章子の多彩で豪華な人々との交わりに焦点を当てる。学会活動を通じて知り合った、多くの学者、研究者との交流を通して、章子がそれぞれの人物をどう観察し、何を学び取ろうとしていたかを見ていく。さらに、この間、ほぼ毎週のように書き続けた書評の実際を探りながら、その精力的な活動を紹介する。

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