緒言 : 三叉神経痛は最も激烈な顎顔面領域の神経障害性疼痛の一つである。しかし, その病態には不明な点が多く残されており, 現在も確立されていない。本研究では, 典型的三叉神経痛 (CTN) 群および外傷後有痛性三叉神経ニューロパチー (PPTN) 群と健康成人コントロール (HC) 群の間に, どのような灰白質容積の相違が認められるかを調査した。
方法 : 対象はCTN患者30名, PPTN患者25名および健康成人30名である。CTN群およびPPTN群の灰白質容積をHC群と比較するため, 3テスラの磁気共鳴画像法にて撮影された画像を用いたボクセル単位形態計測を行った。臨床的所見と灰白質容積の関連の有無を調べるため, 回帰分析を行った。また, 関心領域の解析には, 多重比較を使用した。
結果 : CTN群およびPPTN群双方の右側下側頭回に, HC群と比較して有意な容積の減少を認めた。また, PPTN群の右側中側頭回に, HC群と比較して有意な容積の減少を認めた。さらに, PPTN群の側頭皮質および頭頂皮質にCTN群と比較して有意な容積の減少を認めた。疼痛強度および病悩期間は, いくつかの脳部位の灰白質容積と負の相関を認めた。
結論 : 三叉神経痛は側頭皮質の容積変化と関係があり, これらの部位が症状と関連する可能性が示唆された。
増殖と分化を制御するシグナル受容体であるNotch1の不活性化変異は, 口腔癌を含む扁平上皮癌に特徴的にみられる。Notch1は腫瘍抑制遺伝子であると考えられているが, 口腔腫瘍におけるNotch1の発現については, 十分な研究がなされていない。本研究は, Notch1の発現と口腔の前癌病変との関連を明らかにすることを目的とした。6週齢のマウスに4-ニトロキノリン-1-オキシド (4-NQO) を飲料水を介して8週間投与し, 舌腫瘍を誘発した。観察期間の後に投与後16~24週で舌を採取し, 組織学的解析を行った。4-NQO投与群では前癌病変と癌が多発した。免疫組織学的解析により, 前癌病変の多くでNotch1の発現減弱を認めた。また, 正常組織像を呈するNotch1陰性領域が多く観察された。時系列的な比較から, 腫瘍形成の初期段階でNotch1陰性領域が生じ, その一部が前癌病変に進行することが示唆された。Notch1陰性領域における分化マーカーの発現は正常であり, Notch1の機能は上皮の分化には必須ではないことが示唆された。また, ヒト標本の解析により, Notch1発現の減少が前癌病変のマーカーとして応用できることが示唆された。
以上より, 口腔の前癌病変のごく初期においてNotch1発現が減少し, その発生に重要な役割を果たす可能性が考えられた。