上下顎無歯顎者77名について患者自身が発音しにくいと訴えた音の調査を行なった。
調査時期は, 1) 術前, 2) 全部床義歯装着直後, 3) 義歯装着後7日, 4) 義歯装着後30日の4時点である。それぞれの時点で, 日本語音100個をいわゆる50音図の順にかなで表記した調査表を用いて, 被検者が発音しにくいと感じた語音に印をつけさせた。
なお, 被検者のうち, 48名はすでに全部床義歯を使用していたが, 今回あらたに製作し装着した者 (全部床義歯経験者群) であり, 他の29名は始めて全部床義歯を装着した者 (全部床義歯未経験者群) である。
調査表中のいずれかの語音が発音にくいと認めた者は, 経験者群48名中, 術前で29名 (60.4%) であるが, 新義歯装着直後にはやや増加し (31名, 64.6%) , 以後経時的に減少する (30日後19名, 39.6%) 。未経験者群では29名中, 術前17名 (58.6%) であるが, 義歯装着直後から順次減少して, 各時点とも経験者群よりも少ない (30日後6名, 20.7%) 。
被検者1人当りの平均障害語音数は, 術前には経験者群よりも未経験者群の方が多い。両群とも義歯装着後順次減少する。
語音の先行子音の音別にみると, 両群とも術前には [s] , [∫] の障害が多いが, 義歯装着後には急激に減少して行く。とくに, 未経験者群で著明である。一方 [ç] , [k] , [g] では義歯装着直後に障害率が増加するが, 以後減少する。
先行子音の調音点別にみると, 術前には歯音の障害が最も多いが, 義歯装着後には経時的に減少して行く。とくに, 未経験者群で著明である。また, 軟口蓋音は義歯装着直後に術前より障害が増加し, 以後減少するが, 未経験者群ではとくに, 義歯装着直後および7日後の障害が著明である。
先行子音の調音方法別にみると, 摩擦音, 破擦音では術前の障害が多いが, 義歯装着後には著明に減少する。弾音は義歯装着後も比較的長く障害が残る。破裂音, 通鼻音の障害は比較的少ない。
後続毋音別にみると, [i] , [m] の障害が比較的多い。
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