顎顔面運動制御機構において筋伸展反射の固有受容器として重要な役割を果たしている顎顔面筋の筋紡錘の形態とその機能との関連はほとんど研究されておらず, いまだ不明な点が多い。著者はこれらを解明するために, 多量の筋紡錘が分布する顔面筋をもつヒミズモグラとヒメヒミズモグラを実験動物として, その左側顔面神経を外耳道の下で切断する実験を行った。切断手術後1~90日の経過にしたがってエーテル麻酔下で左右の顔面筋を摘出し, 二重固定, Epon包埋, 薄切電顕試料を作成し, 二重染色後, 日立HU12A型電顕で観察した。正常例から6個, 手術側から33個, 非手術側から36個の筋紡錘を観察し, 次の新所見が得られた。
I.正常筋紡錘について
1) 筋紡錘外包は筋紡錘を支配する有髄神経線維束からの神経周膜の直接の続きで構成される。起源的には両者は同一である。
periaxial spaceにヒダ状に突出した複雑な外包のヒダ形成と外包構成細胞内小器官の様相は, 外包細胞がperiaxial spaceのリンパ液の産生, 排泄機構となんらかのかかわり合いを持つことを示唆する。
2) 知覚神経終末には典型的な環ラセン終末 (糸粒体のびっしりつまった) のほかに, これと異なり複雑な形態を示す3~7本の分岐終末構造 (糸粒体は比較的疎で神経細管, 神経細線線維, 顆粒, 小胞などを含む) が同一錘内筋線維上に観察された。これが多分, 今まで何者にも同定されていなかった撒形終末であると思われる。
3) 非常に近接した2本の錘内筋線維がしばしば基底膜を失い, 20nm以下の間隔で密着している。この密着のしかたは鋸歯状に互いに入り込んでいる場合もあれば, 一方の筋形質の突起が相手筋形質内に陥入している場合とか, または双方の筋形質が突起状にとび出して互いに密着している例などがしばしば見られた。
4) 1本の環ラセン終末が2本の隣接する錘内筋線維をある時は8字状に, ある時は帯状に, ある時は錨状に支配している例が見られた。
II.神経切断例の筋紡錘の変性について
1) 神経切断された筋紡錘では知覚終末部に最初に変性が起こる。終末部は初め膨化し, 続いて収縮を起こし, 糸粒体の崩壊が現れる。切断後14日目には終末は完全に筋線維上から消失する。切断後3日目に有髄神経線維は軸索内の神経細管や神経細線維の消失を示し, 髄鞘の脱髄変性を起こし始める。切断後14日目には有髄線維は100%無髄となり, B霍ngner band様構造を示し, 神経線維東内には膠原線維の著明な増加が起こってくる。
2) 切断後7日目では錘内筋線維は筋小胞体の部分的崩壊を示し, 40日目で糸粒体は空胞変性し, 筋原線維の減少が著明となり, 面積比でみると正常の50%に減少したこととなり, 筋の外形は著しい波状を呈する。
3) 筋紡錘外包の層板の厚さは減少すると同時に膠原線維が増加する。
III.非切断側の筋紡錘は術後14日目で一部の錘内筋線維で糸粒体の空胞変性と筋小胞体の崩壊を示した。術後20日目では筋原線維の減少が目立ち, 知覚終末には膨化と糸粒体の空胞化が起こる。術後40日目で筋線維の外形は波状を呈し, 面積比で正常の60%に減少する。
IV.神経切断側においても健側においても衛星細胞は顕著な反応を示さなかった。
抄録全体を表示