交通学研究
Online ISSN : 2434-6179
Print ISSN : 0387-3137
59 巻
選択された号の論文の20件中1~20を表示しています
  • 別所 和希, 福山 敬
    2016 年 59 巻 p. 45-52
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    道路整備等都市政策の効果を分析する経済モデルの1つとして、応用都市経済モデル(以下、CUEモデル)が挙げられる。CUEモデルは、東京都市圏等大規模都市圏域に適用され、特例市規模等のより小規模な地方都市圏への適用は行われていない。しかし、人口十数万人を擁する地方都市圏は市場均衡を仮定するに十分であり、データ不足の問題や農業等地方小都市特有の産業構造等に対応できればCUEモデルは政策評価の強力なツールとなりうる。そこで、CUEモデルに必要なデータ不備の補完や推計方法の変更等を行うことで、小都市に適用可能なCUEモデルの構築を試みる。
  • 谷貝 等
    2016 年 59 巻 p. 61-68
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    東日本大震災により、三陸地域の鉄道・道路は甚大な被害を受け、特に鉄道については、現在においても復旧されていない区間が残り都市間の移動が困難な状況となっている。公共交通による都市間移動時間(待ち時間+所要時間)を震災前の水準と比較することにより都市間の公共交通による移動サービス水準の復旧状況を計測した結果、鉄道が復旧した区間のみではなく代替となる都市間バスの運行や鉄道線の敷地を活用したBRT(Bus Rapid Transit)として整備された区間では、震災前の公共交通による移動サービス水準が確保されており、震災からの公共交通の復旧には、鉄道の復旧が長期化する場合、都市間バスやBRTの整備効果が高いことが明らかとなった。
  • 新納 克広
    2016 年 59 巻 p. 69-76
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    財政難を主な理由に、敬老乗車制度による高齢者のバスや鉄道の利用が無料から有料に転換させられている。本稿は、資源配分の効率性の観点から、高齢者にどの程度の運賃負担を求めるべきかを考察する。有料化により、高齢者のバス利用は大きく減少し、高齢者が勤労就学世代より運賃水準に敏感であることが実証された。地方政府から事業者への支出を所与とするとき、ラムゼイプライシングを適用すると、高齢者が支払う運賃は勤労就学世代が支払う運賃の半額以下になることを示す。
  • 宇都宮 浄人
    2016 年 59 巻 p. 77-84
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    本稿では、日本の地方圏の地域公共交通とソーシャル・キャピタルとの関係について定量的な把握を行う。まず、県別のマクロデータでみると、つきあい・交流、社会参加に現れるソーシャル・キャピタルの高さと地方圏の乗合バスのサービス水準にプラスの相関関係があることが示される一方、乗用車の普及度合いは、社会参加とはプラスの相関関係がみられるが、信頼に対してはマイナスの相関関係があるという結果になる。次に、富山市におけるケーススタディからは、質の高い公共交通の整備が自家用車の使用を控える行動変化ももたらすとともに、高齢者を中心に各種活動への積極的な参加を促し、ボンディング及びブリッジングの両面でのソーシャル・キャピタルの醸成に寄与していることが示される。これらの結果は、これからの交通政策において、地域公共交通の存在価値を従前の費用対便益だけで判断するのではなく、ソーシャル・キャピタルのような広い視野から考える必要性を示唆するものである。
  • 西村 弘
    2016 年 59 巻 p. 85-92
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    交通現象の解明において、交通経済学(Transportation Economics)と交通論(Transportation Studies)の役割は異なる。前者は種々の交通現象を踏まえて一般化・概念化を行おうとし、後者は前者の理論を用いてそれぞれに異なる個々の交通現象を解明し、かつ不適合な現象について問題提起を行う。その問題提起は、交通経済学の考察を通じて経済学一般の発展にも貢献しうる。だが、交通経済学には「科学としての経済学」の限界、経済学自体の限界があり、交通論はそれを補う。しかし、その解明は普遍的とは言えず、個別具体に即したものであり、一般化には交通経済学を必要とする。両者の性格の違いは、学(エピステーメ)と知慮(フロネーシス)の相違といえ、社会に関する学問はその両方を備えねばならない。人間の幸福追求にとって交通が欠かせぬものであり、かつそこに課題がある限り、交通現象を解明する交通経済学と交通論はともに必要といえよう。
  • 秋山 孝正, 井ノ口 弘昭
    2016 年 59 巻 p. 93-100
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    健康まちづくりを基本とした都市交通の構成に関して、都市活動と空間移動の視点から提案を行う。このため、医療・健康・福祉の側面に着目した都市健康度を指標化する。このとき都道府県の統計指標を用いて、健康都市の特性を整理するとともに、市町村に対する健康度推計を可能とする。つぎに、現実の健康まちづくりプロジェクトとして吹田市・摂津市に関係するJR岸辺駅周辺のエコメディカルシティの開発計画を取り上げる。このとき都市活動と空間移動に基づく活動量の算定を試みる。現状の大規模医療機関を中心とした交通行動についての活動量を計測する。健康まちづくりにおいては、公共交通を中心とした歩行空間の構成が重要とされる。当該地区の都市交通システムの具体的構成と交通行動変化に基づく活動量より、都市健康度に対する分析を行う。これより最終的に、健康まちづくりの交通計画に関する基本事項を整理する。
  • 松本 秀暢, 堂前 光司
    2016 年 59 巻 p. 101-108
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    現在、我が国では自転車交通事故は年間約11万件発生しており、全交通事故件数の約2割を占めている。今後、運輸部門からの二酸化炭素排出量の削減に向けて、自転車利用は高まることが予想され、自転車交通安全対策の強化は急務となっている。本研究では、自転車交通事故死傷者数を説明するモデルを構築した上で、我が国における自転車交通事故の要因を分析した。そして、オランダの事例を紹介しながら、我が国におけるこれからの自転車交通安全対策について検討した。分析結果からは、特に自転車走行環境整備、そして自転車交通安全教育の推進が、自転車交通事故低減に効果的であることが明らかとなった。
  • 寺地 祐介, 荒木 大惠
    2016 年 59 巻 p. 109-116
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    本研究では、東京国際空港で実施されている、小需要路線に対する優遇措置である、1便・3便ルールと呼ばれる発着枠下限の設定を評価することを目的としている。具体的には、複数の地方空港の間に路線が開設されているハブ空港を想定し、小需要路線に対する発着枠下限ルールと運航費に対する補助の二つの代替的な政策について、数値計算によって厚生の比較を行う。数値計算の結果、発着枠下限の削減と下限を撤廃したもとでの運航費補助という二つの政策は社会厚生を改善し、両政策が同じ効果を持つことが示された。また、経済主体間での厚生改善の帰着については、大きな差は見られず、両政策は、小需要路線利用者の厚生を悪化させるものの、他の経済主体の厚生を改善する。さらに、現在、東京国際空港で行われている発着枠下限の設定は、小需要路線だけを見た場合には、当該路線において独占企業である航空会社の市場支配力を緩和する効果を持つことも示された。以上を踏まえると、ナショナルミニマムを目的とした現行制度の変更は、当該路線における航空会社の市場支配力を補強し、小需要路線利用者の厚生のみを悪化させることになるため、公平性の観点からすると、望ましくない可能性がある。
  • 西藤 真一
    2016 年 59 巻 p. 117-124
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    民営化をすすめたイギリスでは旅客数のきわめて少ない小規模空港でも民間運営が行われている。大規模空港とは異なり、小規模な空港では民間の単独出資による運営が行われているケースが多い。本稿では、そうした空港運営者は周辺土地開発や空港関連事業を組み合わせて経営を成り立たせていることを確認した。また、近年では地方空港を中心に旅客の落ち込みが見られ、マンストンやプリマス空港では空港閉鎖に至った。こうした事態への対応から、国ではなく地域が直接の対応者となり、財政的な裏付けが必要となる地域開発計画の策定を通じて、空港活用について地元で合意形成をはかっていることを確認した。
  • 米崎 克彦
    2016 年 59 巻 p. 125-132
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    本稿では、近年世界的に進んでいるオープンスカイ協定について、経済学的観点とゲーム理論の手法をもちいて分析する。特に2国間オープンスカイ協定が、世界全体の空の自由に対して「building blocks(積み上げ石)」になるのか、それとも「stumbling blocks(躓きの石)」になるのかについて検討を行う。そして本研究で導かれる結論は、ネットワーク拡大効果が市場が競争的になることからの負の効果を上回れば、オープンスカイ協定が成立する。ただし、ネットワークが大きくなることにより拡大効果が小さくなるため世界全体のオープンスカイネットワークが形成される可能性は非常に小さいということが導かれた。これは、2国間オープンスカイ協定が世界全体の空の自由に対し躓きの石になる可能性を指摘している。
  • 井ノ口 弘昭, 奥嶋 政嗣, 秋山 孝正
    2016 年 59 巻 p. 133-140
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    都市鉄道において、新規路線の開通、鉄道駅新設、ターミナル駅の大規模開発などの都市交通環境に変化が生じる。本研究では、京阪神都市圏を対象として、都市鉄道サービスの経年的変化が与える旅客流動変化に関する基礎的な分析を行う。具体的には、京阪神鉄道ネットワークの路線延長・鉄道駅の経年的変化を整理する。つぎに、京阪神の主要駅を起点とする鉄道駅起終点間の経路所要時間変化、経路所要費用変化、利用可能経路数変化を分析する。このとき、鉄道ネットワーク解析のため経路検索ソフトを援用した算定プログラムを構築する。また、鉄道ネットワークと鉄道需要との関係性を把握するため、代表的な鉄道駅の乗降客数の変化を鉄道サービス変化と周辺地域環境に基づいた経年的分析を行う。これらの分析から広域的な鉄道旅客流動変化の傾向を定量的に把握する。
  • 渡邉 亮
    2016 年 59 巻 p. 141-148
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    少子高齢化や女性の社会進出等の社会情勢やライフスタイルの変化を背景に、都市鉄道に求められるサービス改善は量から質に転換しつつあると考えられる。しかし、鉄道分野では、サービス改善の評価方法として、利用者の声を反映させる手法が確立されていない。そこで、本研究では鉄道利用者へのアンケートから、鉄道輸送サービスの評価要因を探ることとした。その結果、個別のサービスに対する評価だけでなく、期待や推奨・再利用意向といった要因や選好も、評価に影響を与えている可能性が示唆された。
  • 田中 智泰, 後藤 孝夫
    2016 年 59 巻 p. 149-156
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    本稿は、1991年度から2011年度までの21年間を分析期間として、『自動車運送事業経営指標』内のデータをもとに、日本のタクシー事業の全要素生産性を計測し、その結果の分析を行うことを目的とする。分析の結果、次の2点が明らかとなった。第1に、分析対象期間においては、TFP成長率はおおむねマイナスが続いていることが明らかになった。第2に、タクシー事業の規制政策を変更した期間をみると、2002年度から2006年度の5年間では3か年でTFP成長率がプラスになり、他の期間に比べると生産性の改善傾向があった。しかし、参入規制が強化された2009年度以降のTFP成長率は上下に大きく変動し、参入規制の強化の生産性に対する影響は明確ではないことが明らかになった。
  • 谷本 真佑, 南 正昭
    2016 年 59 巻 p. 157-164
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    本研究は、民間業者によるバス路線が段階的に撤退した岩手県久慈市および洋野町を対象に実施した2回の住民意識調査に基づき、住民によるバス路線の維持希望の背景にある意識構造について分析した。その結果、公共交通としてのバスによる地域貢献への認識が維持希望の意向に強く関連していること、ならびにバスの地域貢献への認識は高齢社会対策の面での貢献に対する認識と関連していることが明らかにされた。地方部におけるバス路線の維持希望について、住民の個人属性やバスの利用経験よりも、地域の抱える課題に対するバスの社会的重要性がバス路線の維持希望と強く関連しているものと理解できた。
  • 眞中 今日子, 中村 彰宏, 竹本 亨
    2016 年 59 巻 p. 165-172
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    本稿では、地域交通などの公共サービスによる最低限の生活水準の達成という政策を再分配政策と見なし、それぞれの地域の政策決定者が補助の水準を決めることを利他的行動の水準を決める意思決定と捉えて、経済実験による分析を行った。経済実験の結果、補助という利他的行動の水準に関する意思決定が、他者の利他的行動を観察することにより、補助の水準が平均化されることが明らかとなった。このことは、他の自治体の状況を観察しやすくすることにより多くの自治体で補助の程度に関する差異を縮小するように意思決定をする可能性を示唆する。
  • 荒谷 太郎, 宮崎 恵子
    2016 年 59 巻 p. 173-180
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    わが国の全離島の平均高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)は43.9%であり、わが国全体の高齢化率、23.0%と比較して高い水準にある。高齢化が進んでいる離島において、生活基盤の維持は重要な政策課題であるといえる。離島居住者は、通院など本土との往来にはフェリーや旅客船を利用しなければならない。特に高齢者にとっては、待ち時間や交通結節点内での移動など、本土との往来は大きな負担となっている。 本研究では、離島と本土を結ぶ直通バス(シームレス運航バス)が運行された場合、これまでの路線バスとフェリーを乗り継いで移動した場合と比較して、どの程度の負担感に違いが生じるかについて明らかにすることを目的とする。具体的には、社会実験時に測定した被験者の歩行速度より、シームレス運航バスを利用した移動(以下、シームレス利用)、路線バスとフェリーを利用した移動(以下、フェリー利用)を比較し、一般化時間を用いることにより負担感の違いについて明らかにした。本研究において示した結果は、利用者減少が見込まれる離島航路において、船を小型化しても利便性が保てることを示しており、持続的な航路運営に寄与するものと考える。
  • 醍醐 昌英
    2016 年 59 巻 p. 189-196
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    欧州では自動車由来の大気汚染物質の排出量を削減するため、Low Emission Zone(LEZ)制度が導入されている。同制度は高濃度のPMやNOX等を排出する車両の流入を制限するLEZを都市・地域内に設定する制度であり、EUのLDVsとHDVsに対する排出基準に準拠する。本稿ではロンドンとベルリンのLEZ制度を検討し、PMの大幅な削減に寄与するがNOXの削減幅の小ささから制度が修正されることや、都市のLEZ制度と全国システムの調和と共に、制度の多様性が重要であることが示唆される。
  • 加藤 博和
    2016 年 59 巻 p. 197-204
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    自動車運転免許の自主返納が1998年に制度化され、その後、返納者に対する優遇定期券の発売や運賃割引などを実施する交通事業者が増加している。そこで、最近のバス事業者によるサービス内容、及び地方自治体における対応状況を考察する。また、運転免許返納を促進するためには代替交通手段の確保も必要であり、地域公共交通政策の観点から、自主返納支援施策を実施している自治体を事例として取り上げ、施策の利用者に対するアンケート調査を行い、その評価と課題の抽出を行った。
  • 宮武 宏輔, 根本 敏則, 林 克彦
    2016 年 59 巻 p. 205-212
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    再配達の増加は、宅配便事業者のラストマイルネットワークにおける配送効率を悪化させる。本研究では、宅配便事業者が消費者(受取人)の選択に依存せずに取り組むことができる配送効率化施策である、配送トラックと台車での配送を組み合わせた「チーム集配」に焦点をあてる。まず、チーム集配がもたらす社会的影響について整理し、次に配送密度(一定面積当りの配送軒数)を変数として、人件費や配送距離あたりのCO2排出量等から社会的費用(配送費用と環境費用の合計)を推計するモデルから、トラックのみで配送する「軒先集配」と「チーム集配」を比較した。その結果、「チーム集配」の社会的な効果と配送密度が高い地域における社会的費用面での優位性を確認することができた。
  • 河口 雄司
    2016 年 59 巻 p. 221-228
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/05/27
    ジャーナル フリー
    現在、フランスや韓国、アフリカ諸国等で航空券連帯税が導入されている。航空券連帯税は、航空運賃に対して一定額の税を賦課して、その税収の一部または全部をHIV・結核・マラリアという感染症で苦しむ発展途上国に医薬品を提供するなどの支援に利用される税制である。各国での運用形態は様々であり、課税額(税率)などは同一ではないが、税収の使途は、主にUNITAID(ユニットエイド)という国際機関に拠出されている。 航空券に課税される目的は、消費税の中立性、グローバリゼーションの恩恵の2点が要因と考えられる。しかし、受益と負担の関係を明確にするものではなく、この点に関して説明力は弱い。航空券連帯税を課税するならば、まずは観光への影響はあるのか、航空会社の国際競争力が低下するのかといった点について検証することが求められる。その上で、受益と負担の関係性を明確にし、課税権はどこに属するのか、税収の使途に対する旅客の理解を得られるのかといった部分で国内におけるコンセンサスを得ることが必要であると考えられる。
feedback
Top