交通学研究
Online ISSN : 2434-6179
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64 巻
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  • 金谷 牧代, 黒崎 文雄
    2021 年 64 巻 p. 43-50
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    本研究はロシアの地方旅客路線の運営の枠組みを明らかにし、長所と課題の抽出を行うことを目的とする。研究手法は、ロシア語の法令を中心とする公開文献の調査と専門家へのヒアリング調査である。本研究の結果、2011年の鉄道改革 とその後の運営見直しにより、連邦、連邦構成主体(Субъекты Российской Федерации) 、株式会社ロシア鉄道(ОАО“Российские железные дороги”:以下、ロシア鉄道)、近郊旅客会社の役割の詳細が決められ、地方旅客路線の運営費負担の責務が各地域に移管されたことが明らかとなった。一方で、現状の鉄道運営には、行政の費用負担と競争原理の欠如に課題があることも示された。
  • 吉田 裕, 安部 誠治
    2021 年 64 巻 p. 51-58
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    地震発生後における鉄道の運転再開までに要する時間は、地震の規模によっては平常時の輸送障害にくらべ長い場合もある。特に、大都市圏において規模の大きな地震が発生した場合、多くの鉄道利用者が移動できなくなり社会的混乱の発生が想定される。そこで本研究では、地震発生後の鉄道利用者が望む情報提供のあり方を明らかにするため、地震発生後に列車の運転再開を待つ状態を想定させた集合型アンケートを実施した。その結果、運転再開が困難である旨を利用者にはっきり伝えることは有効であること、早めに再開見込みを発信することにより回答者の約7割はその後の見込み変更を許容することが分かった。
  • 宇都宮 浄人, 三古 展弘, 毛海 千佳子
    2021 年 64 巻 p. 59-66
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    日本では、鉄道事業者が沿線地域において輸送機関以上の影響度があると考えられるが、定量的な分析はされていない。本研究では、ウェブアンケートから、沿線住民が抱く鉄道事業者の影響度や期待度、満足度を定量的に把握した。その結果、大都市圏のみならず地方圏でも鉄道事業者がまちの魅力形成に影響があると感じる人が多いこと、一方、鉄道事業者に対する沿線住民の期待度は利用頻度にかかわらず総じて高く、大都市圏を中心に移動手段として満足度が高い傾向にあるものの、沿線の魅力向上にむけた貢献には高年齢層を中心に不満が多いことが明らかになり、今後の鉄道事業者の課題が示唆される。
  • 遠藤 伸明
    2021 年 64 巻 p. 67-74
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    わが国の地方自治体による外国航空会社への情報提供・宣伝を中心とするエアポートセールスの実態とその影響を、アンケート調査ならびに基礎的な回帰分析を通じ考察した。アンケート調査より、地方自治体はエアポートセールスにある程度積極的に取り組んでいることが明らかとなった。回帰分析の結果より、国際航空路線商談会の参加回数で評価したエアポートセールスへの積極的な取り組みは、外国航空会社の地元の空港への運航便数にプラスに作用していることが明らかとなった。
  • 中村 知誠
    2021 年 64 巻 p. 75-82
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    空港民営化の進展の中で空港の所有・運営形態は多様化しており、ヨーロッパやオーストラリアの空港では年金基金が主要な資金提供者となるケースも見られている。ヨーロッパを中心とする年金基金は環境・社会・ガバナンスに配慮したESG投資に積極的に取り組んでおり、投資対象の環境パフォーマンスを重視するとされる。本稿では、パネルデータ分析を通じて空港の所有形態および年金基金の投資の有無が環境パフォーマンスに与える影響を明らかにしている。民営化によって必ずしも環境悪化につながるものではなく、むしろ長期投資を考慮する年金基金を経営に参加させることによって環境改善にさえつながる可能性があることを明らかにしている。
  • 福井 秀樹
    2021 年 64 巻 p. 83-90
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    本研究は、複数空港地域(Multiple Airport Regions, MAR)の特定空港の利用を制限するペリメーター規則(Perimeter Rules)がMAR内空港を利用する航空会社の輸送パフォーマンスに与えた影響を推定した。推定結果からは、(1)ダラスMARのペリメーター規則撤廃が旅客増加と運賃競争を促しつつ出発遅延を悪化させたのに対し、(2)ワシントンDC MARのペリメーター規則維持は旅客シフト・増加を犠牲にしつつ運賃競争の促進と出発遅延のコントロールという点ではダラスMARと同等もしくはそれ以上の成果をあげてきた、という示唆が得られた。本研究の分析結果は、ペリメーター規則がMAR内の遅延抑制を促しつつ、運賃競争も一定程度維持し得る可能性を示唆している。
  • 髙橋 達
    2021 年 64 巻 p. 91-98
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    本論は都市鉄道の混雑緩和や利用促進が温室効果ガス(CO₂)の排出量に与える影響を定量的に分析する。居住地と交通手段を選択する均衡モデルに道路と鉄道の混雑を導入した。日本の三大都市圏の平均的な都市を想定してパラメーターを設定し、シミュレーションにより都心部の鉄道混雑緩和投資と補助金による鉄道の利用促進がCO₂の排出量に与える影響を分析した。 都心部の鉄道混雑緩和投資として東急東横線渋谷・横浜間の改良工事と同規模のプロジェクトの影響を分析した。このプロジェクトにより交通部門のCO₂排出量を削減できるものの、住宅部門の排出量の増加が大きく、都市全体では排出量が0.03%増加してしまう。鉄道への補助金政策では自動車への走行税(5円/ km)を財源として鉄道利用者に一律の補助金を支給する場合の影響を分析した。この政策は、交通部門と住宅部門ともにCO₂排出量を削減させ、都市全体では0.3 %程度削減できる。
  • 井ノ口 弘昭, 秋山 孝正
    2021 年 64 巻 p. 99-106
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    大型貨物車は都市間の物流のため、都市間高速道路を多く走行している。一部の車両は、高速道路料金の節約のため、一般道路を多く含む経路を選択する。このとき、通過車両が都市内道路を走行することで、交通混雑、環境悪化などの問題が発生している事例がみられる。本研究では、都市間移動において各経路の通行料金の差に起因する交通問題を解消するため、一般国道有料化を提案し、その影響を分析する。名古屋・大阪間の移動に関して検討した結果、名阪国道に対して他の都市間高速道路と比べて若干安価な料金水準を設定すると、道路ネットワーク全体の総走行時間が最小化されることなどがわかった。
  • 内山 真由美, 亀山 嘉大
    2021 年 64 巻 p. 107-114
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    本稿では、佐賀県内10市10町を対象に実施したアンケート調査をもとに、地域公共交通網形成計画など地域公共交通政策における高齢者の運転免許証自主返納支援策と移動手段の確保の取り組みを確認した。調査結果から得られた課題である移動手段の確保という命題に対し、県内自治体が利用者のニーズをどのように把握して、公共交通サービスを提供しているかを検討した。各自治体の公共交通サービスの実施メニュー数(合計)と行政区域面積で相関関係が確認できることから、市町村合併で面積が大きくなったところほど、実施メニューを用意せざるを得なくなっている可能性が示唆された。
  • 鈴木 裕介
    2021 年 64 巻 p. 115-122
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    わが国では2017年5月に自転車活用推進法が施行され、国や地方自治体によって、交通体系の1つとして自転車の活用が推進されている。しかし、自転車の活用が進む中で、自転車事故は無視すべきではない問題である。確かに近年の自転車事故は、交通事故全般の発生件数と同様に減少傾向にあるが、自転車事故の社会的費用は2018年で3,444億円と推定され、自転車事故の発生をいかに抑制していくかという課題とともに、自転車事故の被害をいかに減らしていくかという施策も議論しなくてはならない。そこで本稿は、自転車事故の対策として、海外でも導入事例があり、国内でも導入が検討されている自転車用のヘルメットの着用施策に焦点をあて議論を進める。具体的には18歳以下及び75歳以上の自転車運転者に対し、頭部を保護するヘルメットの着用義務化を行った場合の効果を分析する。そしてヘルメット着用に関する施策のあり方について議論する。
  • 岡本 直久, 德谷 祐輝
    2021 年 64 巻 p. 123-130
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    本研究は、バスの利用者減少やバス路線の廃止に伴って多くの自治体で導入されているコミュニティバスについて、その多くが赤字運営である現状に着目し、選好データ(利用者意識調査)と集計データ(マクロ分析)の両面からサービス水準と利用実態と関係性を明らかにすることで、質の高いバスサービス実現のための総合的な知見を得ることを目的とする。 利用者意識調査では、茨城県石岡市の住民へのアンケートから、一対比較分析法により「運賃」「運行本数」「運行時間帯」「路線数」「定時運行」「バス停へのアクセス」に対する選好傾向を検証した。その結果、利用者は特に「路線数」「運行本数」の2項目を重視し、「運賃」「定時運行」はあまり重視しない傾向が見られた。また、年齢、性別、居住地、個人のバス利用頻度という利用者属性別でみると、属性ごとに重視するサービスが大きく異なることが分かった。 マクロ分析では、重回帰分析によって利用者数とサービス水準や社会経済状況の関係を検証した。分析の結果、利用実態との関係性が見られたサービス項目は「運行本数」「アクセス」であった。この2つの分析結果を比較し、特に「運行本数」「アクセス」サービス水準の向上は利用者増加に一定程度影響を与えることが示唆された。
  • 安達 晃史, 宋 娟貞, 湧口 清隆
    2021 年 64 巻 p. 131-138
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    多種多様な観光列車があるなか、レストラン列車とそれ以外の観光列車では、収益に関して鉄道事業者と沿線地域との間の配分構造が異なることが予測される。鉄道事業者の運輸収入と旅客特性や観光列車の種別との関係について明らかにするため、本研究では階層的クラスター分析によって観光列車・鉄道事業者の特徴を類型化し、パネルデータを用いて運賃水準や収入構造について分析した。営業指標面から観光列車を四つの特徴で類型化することができ、パネルデータ分析では、観光列車事業を行う鉄道事業者の運輸収入と定期外旅客比率にU字型の関係が見出された。推定結果を踏まえると、観光列車を導入した鉄道事業者が必ずしも合理的な列車・営業形態を選択しているとは言えないことが明らかとなった。
  • 亀山 嘉大
    2021 年 64 巻 p. 139-146
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    本稿では、2007~17年における都道府県のパネルデータを活用して、インバウンド振興の目標値である訪日外国人旅行数が地域経済に寄与してきたのかどうかを検証した。「訪日外国人旅行者の地域(観光)需要の大きさ」である観光マーケットポテンシャル(TMP:Tourism Market Potential)によって、訪日外国人旅行者数を単純な規模であるGrossの効果ではなく、発地から着地へのアクセシビリティを内包したNetの効果を計測し、TMPと観光政策が都道府県の生産性と賃金にどのような影響を与えてきたのかを分析した。推定結果から、TMPと観光政策はどちらも都道府県の生産性と賃金にポジティブな影響を与えていることが示された。一方で、パラメータ推定値の比較から、TMPや観光政策の効果は小さいことが示された。
  • 後藤 洋政, 幕 亮二, 中村 彰宏
    2021 年 64 巻 p. 147-154
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    地域航空路線は、地域住民の足としての役割と同時に、観光・ビジネス旅客にとっても重要な交通手段であるが、抱える課題は多い。本研究では、福岡=天草、福岡=五島福江路線を対象にコンジョイント分析を行い、潜在的な利用者を含めた旅客需要の把握を試みた。分析の結果、航空便の時間帯に関しては両地域とも訪問目的が観光の場合、便ごとの効用の差が有意であることや、現地空港からの二次交通サービスに関しては訪問目的によって効用が大きく異なることなどが示された。潜在的な需要を取り込むためには、旅行目的などを考慮した戦略が有効であることが明らかになった。
  • 岸 邦宏
    2021 年 64 巻 p. 155-162
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー
    JR北海道が公表した「単独では維持することが困難な線区」の一つである、JR札沼線北海道医療大学~新十津川間は、 2020年5月に廃止、代替交通手段としてバスを運行することとなった。運行するバスのサービスレベルの検討が重要となるが、鉄道の方が優位な要因もあることから、いかにカバーするかが住民の合意形成で求められる。本研究は、プロスペクト理論を用いて、鉄道廃止代替バスのサービスレベルを評価することを目的とする。プロスペクト理論の価値関数を構築し、廃止前と比較してバス転換に伴う住民の不満の要因に対して、満足度が向上する要因をどの程度にすべきかを明らかにする。
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