フォーラム現代社会学
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論文
  • ―調整変数としてのIR誘致への支持―
    伊藤 理史
    2025 年 24 巻 p. 1-12
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、有権者の大阪全体利益志向とIR誘致への支持の関係に注目して、大阪維新が比較的高い支持を得ている理由を解明することである。従来その理由については、有権者が大阪維新を「大阪全体の利益代表」と認知しているためだと説明されてきた。しかし大阪維新が、有権者の否定的な反応を引き起こしやすいIR誘致を推進しているにもかかわらず、比較的高い支持を得ている理由は解明されていない。そこで2020年に実施した「大阪市民の政治・市民参加と住民投票に関する社会調査」を用いて、有権者の大阪全体利益志向の大阪維新支持態度に対する効果が、調整変数であるIR誘致への支持の程度によってどのように異なるのかを検証する。交互作用効果を含む重回帰分析の結果、次の2点が明らかになった。(1)主効果について、大阪全体利益志向は大阪維新支持態度に対して正の効果がある。(2)交互作用効果(限界効果)について、大阪全体利益志向の大阪維新支持態度に対する正の効果はIR誘致への支持の値によって異なり、IR誘致を支持しない有権者ほどその効果が大きい。つまり、IR誘致を支持しない有権者ほど「大阪全体の利益代表」であることを重視した結果として、大阪維新は比較的高い支持を得ている。以上より、反大阪維新側は、有権者から「大阪全体の利益代表」として大阪維新よりふさわしい存在だと認知されない限り、有権者の支持を得られないことが示唆された。

  • ―独身寮における「生活指導」に着目して―
    佐藤 大修
    2025 年 24 巻 p. 13-26
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本研究は企業による独身寮における労働者への介入を可能にしている論理を特定し、その分析を行う。1960年代から1970年代半ばごろにかけての独身寮では生活する労働者を捕捉する「人間管理」という業務が推奨されてきた。これは企業生産に適合的な主体を形成しようとする「生活指導」を中心とする業務である。しかしこうした業務は戦後に成立し普及した労働者の私生活自由を保護し、企業による干渉を戒める規範と対立する。そこで本研究は独身寮管理実践を支える労務管理言説に着目することで、そうした規範の回避及び実践の正当化を可能にしている論理を特定する。

    分析の結果明らかになったのは、対象に未熟さを見出しその未熟さを根拠として介入を正当化するという論理である。それは集団就職によって新規に産業に参入してきた若年労働者の「若さ」を資源として、対象にあるべき主体への駆動を要請できる「教育のロジック」だった。本研究ではこの「教育のロジック」によって、労使や管理関係とはまた異なった形で独身寮管理実践が意味づけられていることを指摘する。

  • ―ペア・データの構造的ナラティブ分析から―
    岡田 玖美子
    2025 年 24 巻 p. 27-41
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本稿は、結婚を念頭に一定期間交際している20代から30代の異性愛カップルのナラティブな語りから、恋愛関係における関係維持・調整のプロセスとそのなかでのジェンダー規範の影響を明らかにするものである。現代の若者の恋愛関係については、ジェンダー平等化の高まりが指摘されてきた一方で、近代家族的イメージの残存や個人化することでの自己の押し付け合いによる関係継続の困難さも指摘されてきた。とくにメディアを通じてコミュニケーションの形式知が伝達されてきたものの、その限界や問題も指摘されてきた。

    本稿では、恋愛関係における日常的な相互行為のプロセスに着目するため、異性愛カップルへの半構造化インタビュー調査で得た3組のペア・データを仕事・家事・愛情表現という3つの場面に焦点化して、構造的ナラティブ分析を行った。

    その結果、‘doing intimacy’の過程では、各カップルが互いの行動や状況について、社会全体の傾向や過去の人間関係との対比、これまでの相互行為の蓄積のなかで解釈しながら、関係性を維持・調整していた。そのなかで、当人は明確に支持していなくても性別役割分業などのジェンダー規範やジェンダー非対称な社会構造から抜け出せない部分があった。しかし、ときには互いの「やりたいこと」や「相手を傷つけない」ために既存のジェンダー規範を問いなおすこともあった。これらの知見はデータの限界に留意する必要はあるが、本稿は‘doing intimacy’研究の第一歩である。

  • ―対立の日本と合意の韓国―
    池田 裕
    2025 年 24 巻 p. 42-56
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    先行研究は日本の福祉国家への支持が先進国の中で最も低いことを示す一方で、日本の福祉国家をめぐる対立が相対的に鮮明であるかどうかを調べていない。加えて、先行研究は韓国では所得が再分配への支持に影響するとはいえないことを示す一方で、社会的属性に基づく対立が韓国よりも日本で鮮明であるかどうかを調べていない。本稿は、2016年の国際社会調査プログラム(ISSP)のデータを用いて、日本と韓国の福祉国家への支持の平均値、分散、独立変数の効果を比較し、日本と韓国の福祉国家に関する世論の特徴を明らかにする。多母集団同時分析によれば、相対的に、韓国の福祉国家への支持の平均値が高く、分散が小さいので、福祉国家の重要性に関する合意が韓国の特徴である。裏を返せば、日本の福祉国家への支持の平均値が低く、分散が大きいので、福祉国家をめぐる対立の鮮明さが日本の特徴である。さらに、福祉国家をめぐる対立が就業状態や所得などの社会的属性に基づいている程度は韓国よりも日本で高い。先行研究は日本の福祉国家をめぐる対立が鮮明でないことを示唆するが、少なくとも現代日本では、福祉国家が政治的争点である程度が低いとはいえないし、福祉国家の重要性に関する合意があるとはいえない。

  • ―女性・子どもへの支援に着目して―
    嵜本 圭子
    2025 年 24 巻 p. 57-71
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、多文化化が進む現代日本社会において増加するイスラーム施設が生み出す役割、参集する人々、周辺住民との関係、地域コミュニティへの影響について取り上げ、新たに流入する文化の受容と定着のプロセスはどのように形成されるのか、関係する地域や住民の世界にもたらす変容を考察することである。

    本研究で対象とする大阪市西淀川区は、歴史的には在日コリアンが在住する区域のあるエリアであったが、近年ブラジル、ペルー、フィリピン、ベトナム、パキスタン、スリランカなど、住民の多国籍化が進んでいる。なかでも、大阪市に4つあるイスラーム施設のうち、2つが西淀川区に開設されている点が特徴として挙げられる。本研究では、多国籍化、多文化化が進む大阪市西淀川区に開設された2つのイスラーム施設に関して、その開設の経緯、施設が生み出す役割、参集する人々、周辺住民との関係、地域コミュニティへの影響、特にムスリマの居場所、子どもへの支援・交流に着目して考察した。

    その結果、2つのイスラーム施設では、ムスリムの生活の拠り所として、礼拝と祭りの場、情報の提供と相互扶助の場、教育の場、居場所、交流の場という役割に加え、大阪マスジドではムスリマの憩いと出会いの場、大阪イスラミックセンターでは、ムスリマ、なかでも日本人女性改宗者に対しての居場所、子どもについての支援・交流の場としての役割が生み出されていることが明らかになった。

特集Ⅰ 人口減少社会に生きる/ 活きる社会学
  • 平井 晶子, 大山 小夜
    2025 年 24 巻 p. 72-75
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
  • 平井 晶子
    2025 年 24 巻 p. 76-87
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    1990年代に考えられた日本の家族人口の未来像は2つあった。ひとつは家族やライフコースの多様化であり、もうひとつが少子高齢社会の到来である。家族やライフコースの多様化は予想したほど進まなかったが、少子高齢社会は予測通り到来し、日本は人口減少社会という新たな時代を迎えている。近代以降、右肩上がりに増え続けてきた人口が、安定期を経ることなく、2008年以降、急速な減少期に突入し、私たちは長らく経験したことのない人口減少社会を生きることになった。

    本稿では、この新たに出現した人口減少社会日本の現在地を、長期的な時間軸の中に、また世界人口という大きな空間の中に位置づけ、新たな自画像を描くことを試みる。また、世界最先端の人口減少社会、高齢社会で社会学を研究することにどのような意義や可能性があるのかについても検討する。

  • 中里 英樹
    2025 年 24 巻 p. 88-101
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本稿では、日本における育児休業制度が人口減少社会の課題にどう応じるかを検討している。特に、男性の育児休業取得率が2023年度に30%を超えた点が注目される一方で、取得期間の短さや、男性の取得が女性のキャリア中断の短縮に繋がらない点が課題として挙げられる。また、公的保育制度との接続が不十分であり、制度設計の改善が求められている。

    さらに、日本の育児休業制度は雇用保険を財源とするため適用範囲が限定されており、自営業者や同性カップルなどが対象外となっている。このような包摂性の欠如に加え、男性の取得率や取得期間の増加に伴い、育児休業給付総額がさらに増大する可能性が指摘されており、持続可能性の観点からも課題となっている。

    一方、ヨーロッパ諸国では、ジェンダー平等を目指した「パパ・クオータ」の導入や、育児休業と保育制度の統合的設計が進められている。本稿は、日本においてもジェンダー平等や社会的持続可能性を実現するため、包摂性を高めつつ、育児休業制度と保育制度の総合的な見直しが必要であると結論づけている。

  • ―フィンランドの高齢者ケア制度にみる労働の持続可能性―
    髙橋 絵里香
    2025 年 24 巻 p. 102-114
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本稿は、フィンランドにおける高齢者介護現場を対象に、「良いケア」と「良い仕事」の両立可能性について民族誌的に検討するものである。フィンランドはこれまで、社会民主主義型の福祉国家として、質の高い介護サービスの提供と休暇制度を軸とする労働保障を維持してきた。しかし、人材不足の深刻化するケア市場において両者の併存が困難になっており、特に業務効率化への圧力が現場に深刻な影響を与えている。本稿では、訪問介護サービスにおいて、こうした変化が介護の質と労働条件にどのように影響を及ぼしているかを民族誌的に記述する。加えて、コロナ禍による労働環境の悪化が、ケアワークそのものの価値を低下させた過程についても考察する。ケアワーカーは、日々の業務において良いケアの提供と自らの労働環境の維持との間でジレンマを抱えており、個別の現場でその均衡を図りながら業務をこなしている。そうした描写から、労働としてのケアの性質や、労働保障としての休暇制度を成立させる広範な社会的背景について考えていく。

  • 人口とケアの持続可能性
    筒井 淳也
    2025 年 24 巻 p. 115-120
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
特集Ⅱ 関西における〈社会〉の発見と自由な知の創造
  • 梅村 麦生
    2025 年 24 巻 p. 121-123
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
  • ―関西地域と知のあり方―
    荻野 昌弘
    2025 年 24 巻 p. 124-137
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    人口が減少し続け、経済規模も停滞する現代日本社会は、社会が拡大ではなく、収縮しているという意味で、高度収縮社会と捉えることができる。そのなかでも、戦前は「東洋のマンチェスター」と呼ばれた大阪を中心とする関西は、日本の他地域に比べても経済が停滞している収縮社会の典型である。そこで、本論では、まず、その特徴を経済規模、人口移動などの点から明らかにし、関西が失ったのは、戦前に生み出されつつあった文化的知であることを示す。次に、この失われた文化的知とは何かについて、文化的知を生む基盤としての自律的な社会の誕生と、それに関する知としての社会学の導入を中心に見ていく。そして、収縮社会である関西において、新たに文化的知を生む条件とは何かについて明らかにしていく。この条件とは、関西の外部に新たな知を求めていた遠心力が働く拡大社会とは異なり、すでに蓄積された知と事物に基づき、新たな文化的知を生み出す場が潜在的に存在しているので、そこがどこまで求心力を持つかが重要であるという点を最後に示す。

  • ─阪神・淡路大震災後の公共空間をめぐる想像力の再検討─
    稲津 秀樹
    2025 年 24 巻 p. 138-152
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    阪神・淡路大震災(震災)の発災から30年以上の月日が経過した。本稿は、震災後神戸の街=社会の構成原理とその変容局面を活写するメタファーとして、「夜明け」を据えた民族誌を描くための序論である。夜明けとは、夜の闇と朝の光が混淆する境界現象であるが、1月17日(震災発災日)の神戸は、境界を行き交う「魂」の社会的水準が上昇する時空間となる。震災後に顕在化した社会を、「魂」との関連で考えるにあたり、公共空間をイメージする人びとの想像力に注目し、これがどのように変容してきたのかを考える。具体的には、神戸の港湾都市化の過程で編成された、開発主義と国民主義に根差す「創造的復興」と「多文化共生」の想像力を再検討する。先行研究において、これらは別々の議論として扱われてきた傾向がある。だが、震災後神戸という街の文脈―特にインナーシティ地域を移動する人びとの経験の相において捉え直したとき、これらは共に公共空間を再構想する際の欠かせない想像力として、検討し直すことが求められる。ポスト植民地主義以降の社会学的想像力への批判的要請を踏まえながら、創造的復興と多文化共生の想像力が陥る認識上の罠を、可視性と関係性の両位相から問い直す。そこから「夜明けの街」を行き交う「魂」を支配的に構成する論理と、これを根源から組み替えうる想像力が創出される契機となる出来事を、筆者のフィールドワーク過程を振り返りながら示したい。

  • ―「雇用主の関与」を促す事業実施体制―
    長松 奈美江
    2025 年 24 巻 p. 153-167
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    近年の積極的労働市場政策に関する研究では、労働市場において脆弱な立場にある人々への支援のためには雇用政策に雇用主を関与させることが有効であることが指摘されている。本論文では、大阪府内自治体を対象とした質問紙調査と聞き取り調査のデータに基づき、以下の2つのリサーチ・クエスチョンを設定して、大阪府内自治体が生活困窮者自立支援事業において自治体施策への「雇用主の関与」を促進するための事業実施体制をどのように構築しているかを明らかにした。【RQ1】「大阪府内自治体は雇用主の関与を促す支援メニューをどのくらい実施しているか」に関しては、多くの自治体で実施されているのは「空きポスト補充中心アプローチ」であるとはいえ、大阪府の少なくない自治体が企業と連携して就労支援事業を実施していることがわかった。【RQ2】「自治体施策に雇用主を関与させるための実践上の工夫と課題は何か」に関しては、豊中市とAʹワーク創造館の事例を中心に分析した。分析の結果、「候補者中心アプローチ」が求職者のみならず雇用主に様々な「利益」をもたらしうることが明らかになった。このアプローチを採用しているのは一部の自治体に限られているが、他の自治体でもこのアプローチの「萌芽」が確認された。最後に、「候補者中心アプローチ」の可能性と、このアプローチが他自治体へと広がっていく際の課題について論じた。

  • ―作田啓一の価値理論による豊岡の事例分析―
    岡崎 宏樹
    2025 年 24 巻 p. 168-183
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本稿は、関西社会学会第75回大会シンポジウム「関西における〈社会〉の発見と自由な知の創造」における報告を加筆修正したものである。

    兵庫県豊岡市は、絶滅したコウノトリを再生させるプロジェクトに挑戦し、野生復帰事業を契機に独自の環境経済政策を展開している。また「深さをもった演劇のまちづくり」をめざし、演劇と観光を専門に学ぶ公立大学を開学し、演劇祭を開催する等、演劇を活用した若者の移住促進と観光促進に取り組んでいる。これら豊岡市の政策の先進的意義とその困難を理解するためには、そこに育まれようとしている価値とその価値を支える社会的・文化的なしくみを把握する必要がある。そのために本稿が参照するのが作田啓一の価値理論である。

    第1節では、作田の価値理論を検討したうえで、これを地域文化の分析のために再構成する。第2節では、この理論的視座から豊岡の環境経済政策および演劇によるまちづくりを分析する。この分析を通じて地域の文化と価値の創造を実現するには次の二点が重要であることが示される。第一に、「過剰な富」や地域の資源を活用し、有用価値の支配に抗しうる新たな価値意識(共感価値+原則価値)を創造することである。第二に、「法外な情熱」を昇華させる物語の創出や多元的な〈動機調整〉によって、共感志向・原則志向・有用志向が並び立つ平衡状態、個人・文化・社会の〈全体的調和〉を実現することである。

  • シンポジウムの後で個人的に考えたこと
    宇城 輝人
    2025 年 24 巻 p. 184-188
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
  • 非人間的なシステムに抗する人々の営みと関西の知の創造
    阿部 真大
    2025 年 24 巻 p. 189-193
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
小特集 戦争社会学の可能性と課題―岩波シリーズ『戦争と社会』を手掛かりに―
  • ―ウクライナ、ガザとどう対峙するのか―
    蘭 信三, 加藤 久子
    2025 年 24 巻 p. 194-197
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
  • ―『シリーズ 戦争と社会5 変容する記憶と追悼』を手がかりに―
    山本 昭宏
    2025 年 24 巻 p. 198-204
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本稿は、『シリーズ 戦争と社会5』を手がかりに、日本社会における〈記憶〉と〈追悼〉の現在地を整理・記述し、分析するものである。なお、「現在地」というときに念頭に置いているのは、具体的には、ロシアによるウクライナ侵攻を受けたG7広島サミットにおける「献花」「黙禱」や、イスラエルによるガザ地区への侵攻とホログラムを導入したホロコーストの記憶継承の試みとの、時代的並行性である。

    具体的な問題意識は、次のふたつである。第一に、ナショナルなものであれ、トランスナショナルなものであれ、記憶の場に参与する諸アクターが過去の戦争の記憶を再利用可能なかたちで現代的にアレンジし、「追悼・慰霊」行為と交錯する際、そこにはどのような意図が錯綜しているのか? 第二に、意図せざる意図があるのだとすればどのようなものか? というものだ。

    これらの問いに向き合うために踏まえておくべきは、次の論点である。それは、「追悼・慰霊」という行為の現代的論点として、「死者」の他者性が二重の意味で失われつつあるという特徴である。第一に、政治エリートたちが設定・運営する「追悼・慰霊」の場における「死者」の活用。第二に、テクノロジーの応用による「死者」の「再現可能性」の確保(生前の情報をデータ化する取り組み)と実際の「再現」。両者が独立した問題ではなく、重なって表れるところに、「追悼・慰霊」の現在地があることを確認したい。

  • ―戦後日本の「特殊性」とポストモダン・ミリタリー論のはざま―
    津田 壮章
    2025 年 24 巻 p. 205-213
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本稿は、『シリーズ 戦争と社会2』の第二部「自衛隊と社会」(以下、本書とする)掲載論文を題材に、自衛隊と社会の関係を対象とする研究の到達点と今後の展望を示すものである。本書の特徴として、「市民社会を意識する軍隊という社会と、これを注視する市民社会」(一ノ瀬・野上2022: 16)という視座を提示し、自衛隊に内在する論点を検討する学術的価値を示したことが挙げられる。ただし、自衛隊の「軍事組織の文化」や「軍隊という社会」自体に踏み込む研究は未だ少なく、その手法の困難さも含めて発展途上といえる。

    本稿では、軍事に関する戦後日本の「特殊性」を踏まえ、チャールズ・C・モスコス(Charles C. Moskos)の提起したポストモダン・ミリタリー論を参照する。ポストモダン・ミリタリー論が受容される文脈を踏まえたうえで、自衛隊の「特殊性」を前提としたポストモダン・ミリタリー論への当てはめや差異の検討にとどまらない論点を見出すため、自衛隊退職者に着目する。

    自衛隊退職者は戦後日本の「特殊性」の影響を強く受けてきた。それに対する反発や諦め等、反応は様々であるが、自衛隊の「軍事組織の文化」を経たことによる戦後日本社会や自衛隊への認識は、一つの集団としても、個々の経験としても、組織の歴史としても、自衛隊と社会の関係に関する研究上の可能性を秘めている。

  • ―「自衛隊に関する意識調査」に基づく計量分析―
    吉田 純
    2025 年 24 巻 p. 214-224
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、「シリーズ 戦争と社会4」『言説・表象の磁場』の問題意識を継承しつつ、現代日本における戦争と平和をめぐる言説・表象の空間の特徴を探ることである。そのための方法として、2021年に著者らミリタリー・カルチャー研究会が実施した全国規模の質問紙調査「自衛隊に関する意識調査」で得られたデータに対する計量分析をおこない、(1)「日本」の国家観と戦争観・平和観との関係、(2)自衛隊のメディア表象、(3)安全保障問題に対する「関心」派と「無関心」派との分断の3点を中心に考察した。その結果、下記のような知見が得られた。

    (1)戦後、戦争の否定の上に成立した「平和主義」は、現在も日本社会に広く共有されている国家観の基盤をなしている。ただしこの「平和主義」の価値観は、自衛隊や安全保障問題への関心とは乖離して存在している。

    (2)自衛隊のメディア表象は、メディアにおける「市民社会との接点」を通じて伝達されるソフトなイメージにその多くが規定されており、武力を行使しうる軍事組織としての自衛隊のハードなイメージは、それと比較すると、メディア表象空間の中での現実感は薄い。

    (3)現在の安全保障問題に関する意見・関心・知識の布置状況は、自衛隊や防衛力増強に対して肯定的な意見と批判的な意見との隔たりよりも「関心層」と「無関心層」との分断によって、より強く規定されている。

    以上の結果は、「戦争」や「軍事」のリアリティに冷静に向き合う公共圏、すなわち安全保障問題をめぐる討議と合意形成の場の構築が、いまだ未成熟である状況を示している。

  • ―戦争社会学・軍事社会学研究に求められる規準のために―
    野上 元
    2025 年 24 巻 p. 225-231
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
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