近年, 環境保全型農業の推進に伴い, 病害分野でも新聞や雑誌等でIPM (Integrated Pest Management) という用語が頻繁に使われるようになるとともに, IPMプロジェクトの推進や, 行政サイドにおける「IPM検討会」の開催など, IPMに対する期待が高まっている。しかし, 病害分野には未だに課題が多く残されていると思われる。ここでは, 著者が所属していた東北農業試験場総合研究第3チーム (福島市) が東北農試の複数の研究室や, 東北4県 (福島県, 岩手県, 宮城県, 山形県) と一緒になって進めたプロジェクト研究「アブラナ科野菜のIPM」を紹介するとともに, その中で特に総合研究第3チームが力を入れて取り組んだ「アブラナ科野菜根こぶ病のIPM」に関して, 個別防除技術の開発, Dose-response curve (DRC) 診断法の開発, それらを用いて実施した現地実証試験の紹介, 及び研究推進上の問題点を整理した。具体的には, おとり植物である葉ダイコンは発病抑制効果と土壌中の休眠胞子密度 (以下, 菌密度) を減少させるが, その効果は,「dose-response curve (土壌菌密度―発病度曲線, DRC)」と「栽培時点での菌密度」に依存する可能性を示した。さらに, このDRCを基にして長期診断モデルの作成, そのモデルの検証結果を紹介するとともに, これらの結果から,「DRC診断法」を基に個別技術を組み合わせることが根こぶ病防除に効率的であることを報告した。また, こうした研究を進める上で, 制限要因 (研究・普及上の問題点) の整理が重要であること, 制限要因を少しでも克服するために, IPM研究者間での個別技術やネガティブデータに関する情報の共有が重要であること, 病害分野におけるIPM理解者を増やすことの重要性などを述べた。最後に, これらの取り組みを通して, 病害分野でのPM推進上の問題点について記した。
抄録全体を表示