教育における接続関係を表すアーティキュレーション(articulation)の基本理念は、学習のスムーズな移行であり、子どもの発達や学習する権利の保障に求められる。その問題領域は、区切りを中心とした構造的側面、カリキュラムや教育方法の内容的側面、そしてガイダンスや情報交換等の運営的側面の3つに分けられる。また、縦の接続関係だけでなく、横の接続、さらに学校と社会・家庭との「斜めの接続」も考えられる。これらの分類に基づき、教育制度改革に資する基本原理・原則を7つ抽出した。
「高大接続・連携」に関する教育内容・方法の議論は、入試や初年次教育、各教科・専門分野に限られがちである。そこで学習者の経験を含めて扱うカリキュラム研究の立場から、高大接続の課題を指摘した。論点として、高等学校の教育課程上の不均衡、制度上の未接続・未連携、および学習者の学習経験の維持と断絶を、それぞれ扱った。いずれも、意図、実施、および達成されたカリキュラムの各段階に、密接に関わる。
高大接続をめぐっては、すでにさまざまな施策が試みられているが、その根底には、ひとつの共通した要素が確認される。関係者たちの「善意」だ。ただ、善意がいつも望ましい施策につながるわけではないのもたしかだろう。本論文は、大学生や高校生に実施した質問紙調査の分析から、むしろこれら施策が中間層にあたる高校生を学習から遠ざけ、大学での充実した学びも難しくさせている様相を実証的に描いたものである。
グローバル化が進行する中で、国際バカロレア(IB)が注目されている。本稿では、先進的にIBを導入した学校における学校管理職や生徒らに対する聞き取り調査から、IBによって〈新しい能力〉の育成や、教育の国際通用性が促進される可能性を指摘した。一方、IBは、他の生徒との二極化をすすめ、日本の大学を海外の大学との競争に巻き込むおそれがあることや、親の教育意識や経済力がIBや海外進学へのアクセスに影響することを論じた。
本稿では、アメリカ合衆国における才能教育の特質を高大接続の観点から捉え直すため、多様な早修制度を四つの接続類型に分類するとともに、近年の教育改革の影響を検討した。その結果、優れた才能の伸長を目指す才能教育は、基礎学力の底上げを目的とする一連の教育改革によって大きく変容しており、高大接続の中心が、ごく少数の才能児を対象とした「跳躍型」の接続類型から、その他の接続類型へと移行していることが明らかになった。
本稿では、イギリスにおける職業教育から高等教育への移行過程について、16-18歳の若者にとっての主要な職業教育機関である継続教育カレッジでの事例分析に基づいて検討する。1990年代末の「高等教育への参加拡大政策」以降、イギリスでは職業教育ルートを経由して高等教育にアクセスする学習者の拡大が政策課題となってきた。しかし、職業教育からの高等教育への参加拡大は、その意図せざる結果として、進学を目的とした学習者の職業教育への流入と、それに伴う職業教育と仕事とのレリヴァンスの弱化という、職業教育のアカデミック・ドリフトという現象を伴っていた。
本稿の目的は、H.アレントの暴力論と教育論における「権威」をめぐる議論を整合的に解釈することを通じて、政治的主体の育成における教育者の「権威」のあり方を考察することである。教育と政治の緊張関係においてなぜ、いかなる「権威」が要請されるのか。本稿では、教育、政治、そして「権威」の関係を根本的に問い直すことを通して、政治的中立性や教師のポジショナリティの問題への示唆を試みる。
本研究は、公立学校選択制の導入下における保護者の学校選択行動を対象として、教育需要における保護者の社会経済的地位および教育意識の影響を計量的に明らかにするものであり、教育需要に関する実証的知見の蓄積を志向するものである。学校選択形態の分析からは、保護者の学校選択形態が並列的な構造であることが確認された。また選択行動の規定要因の分析からは、私立中学校および選択制学校を選択した保護者に共通する特徴として、社会経済的地位や教育意識の高さが確認された。