公教育は、一方で現代的諸課題に対処する中で他システムとの連携を求められ、他方で縮小の危機が迫り足元の基盤強化が言われるという二律背反の状況にある。本稿ではN.ルーマンの機能システム分化論を歴史的視座から展開し、教育システムが自立・完結性を備える要件を歴史の中に探ることで、その無意識的基底に⟨宙吊りの人間形成論⟩があることを明らかにする。しかし教育システムは純度を緩め、社会状況の中で異種混交と妥協することを繰り返してきた。戦後教育実践史からもこのダイナミズムを確認し、「危機」に浮足立つ前にこの宙吊り性をいかに引き受けるかを論じるのが公教育論の要諦であると結論した。
2016年の教育機会確保法の成立前後より、公教育制度の変容が様々な角度から議論されている。本稿は、夜間中学の歴史上重要な転換期であり、また現代の公教育の変容を巡る起点ともなった1970年前後の学校論(脱学校論・学校変革論等)に注目する。そして、それらの影響下で展開した1970〜80年代の夜間中学の教師たちの実践が、学校外の居場所や識字学級とも接点を持ち、「学校」の枠組みを揺さぶる越境性を持っていたことを示す。
今日の公教育は、非教職者による多様な集団と個人の関与や多職種協働を推し進め、教職の地位や構造の変容をもたらしており、学校教育の根源的な議論から教職の専門性についての考えを立ち上げることを要請している。本研究では、教育と承認という視点から原理的に考察することを通して、人間形成と結びつく学校教育の可能性を見出し、今日的な課題に応じた教職の専門性の向かう先を示す。
ドイツの教師教育制度は、19世紀以来の伝統のもとに、総合大学での学修とそれに続く試補勤務および2度にわたる国家試験を通じて教員資格を獲得するという、厳密なシステムを持っている。それは1970年代後半にすべての種類の教員について確立したが、それ以降、どのように発展しどのような課題を持つのか。大学制度改革、教師教育の質的向上策、大学教員養成センターの再整備そして深刻な教員不足のなかでの現状について検討する。
本稿では、専門職としての教師をめぐる現代の言説とそれに連動する日本の教師政策の歴史的展開を分析し、公教育の変革を牽引する教師の専門性開発を支えるビジョンを探究した。その結果、教師の専門性開発を支える省察的・協働的・協創的専門職の言説が見出され、それを教師の養成・採用・研修という一連の政策ビジョンの中核に位置づける必要が示された。
本稿の目的は、イギリス障害学における近年の教育研究の展開を、質的な調査手法に基づく経験的研究を中心にレビューすることで、障害学分野での教育研究の進展状況、到達点を把握することである。これまでイギリス障害学は利害の対立や相互の連携を含め、輻輳する学校現場の日常性を内在的に読み解く視点を様々に提出してきた。それらの研究は、学校世界を生きる人々の経験や認識、あるいは学校の内外で展開する多様で複雑な日常実践に投錨した、人文社会科学的障害児教育研究の重要性を示唆している。