心筋梗塞の心電図における異常Q波は経過中に消失することがある。本研究は発症後1ヶ月以内における12誘導中の異常Q波の消失の臨床的意義を解明することを目的とし,発症24時間以内に入院した前壁中隔梗塞連続285例について,入院日,発症7日後,および発症1ヵ月後における12誘導中の異常Q波の出現誘導数と臨床所見の関係を検討した。異常Q波の誘導数が0または1に減少した症例数は,発症7日後ではそれぞれ20例(7%)および32例(11%),発症1ヶ月後ではそれぞれ48例(17%)および28例(10%)であった。発症1ヶ月後における異常Q波の消失に関与する急性期の臨床所見は, logistic多変量回帰分析では高血圧,糖尿病,喫煙,高脂血症,再灌流療法, total wall motion index (TWMI),左室駆出率(left ventricular ejection fraction : LVEF)のうち急性期のLVEFのみが独立因子として抽出された。また入院日に異常Q波が4誘導以上存在した群のうち,発症7日後に異常Q波が2誘導以下に減少した例は3誘導以上存在している例より発症1ヶ月後のLVEFが有意に高値であった。同群のうち発症1ヶ月後に異常Q波が2誘導以下に減少していた例と異常Q波が3誘導以上存在した例の間では急性期および発症1ヶ月後のLVEFに有意差はなかった。入院日に異常Q波が3誘導存在した群のうち,発症7日後に異常Q波が2誘導以下に減少した例は減少しない例より発症1ヶ月後のLVEFが有意に高値であった。同群のうち発症1ヶ月後に異常Q波が2誘導以下に減少した例と異常Q波が3誘導以上存在した例との間では発症1ヶ月後のLVEFに有意差はなかった。本研究により,急性期のLVEFは前壁中隔梗塞における異常Q波の消失の独立因子であり,発症1週間の時点で異常Q波の数が2誘導以下に減少した場合は発症1ヶ月後の心機能が良好であることを示唆していることが判明した。
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