杏林医学会雑誌
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39 巻, 3+4 号
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総説
  • オレゴン健康科学大学Richardson博士の講演記録
    萬 知子, 巌 康秀, 窪田 靖志, 下島 裕美, Robert Hugo RICHARDSON, 蒲生 忍
    2008 年 39 巻 3+4 号 p. 49-60
    発行日: 2009/08/15
    公開日: 2009/09/11
    ジャーナル フリー
    高齢化が進む日本は様々な医療問題に直面し,特に終末期の延命治療の選択に関しては,尊厳死や安楽死という言葉を含め幾度となく取り上げられてきた。
    この問題は,高齢化が進む多くの先進国に共通の問題であり,多様な取り組みがみられる。特に米国オレゴン州は,致死量の薬物を終末期の患者に対し医師が処方することを許容した尊厳死法を持つ州であり,またそれに伴い緩和医療が最も発達した州としても世界の注目を集めてきた。2008年3月,杏林大学ではオレゴン健康科学大学より緩和医療・ホスピス医療の専門家であるRobert Hugo Richardson博士を招聘しその経験を聞く機会を持った。本稿はその講演をほぼ忠実に日本語に置き換えたものである。博士は米国での医療の変遷から,医療倫理,延命治療,終末期ケアへの取り組み,さらに症例の検討を通してオレゴン州の尊厳死法にも言及した。博士の論調から,オレゴン州の医療関係者が尊厳死法の存在下で如何に終末期医療に真摯に対処してきたかを窺うことができ,我々にとっても学ぶべき貴重な示唆に富むものである。
原著
  • 相磯 聡子, 村田 麻喜子, 蒲生 忍
    2008 年 39 巻 3+4 号 p. 61-68
    発行日: 2009/08/15
    公開日: 2009/09/11
    ジャーナル フリー
    定常期特異的遺伝子の一つであるrmfはリボゾー厶調節因子(ribosome modulation factor: RMF)をコードしており,RMFは不活性型100Sリボゾームの形成に関与している。rmf mRNAは非常に安定で定常期を通して高レベルで発現しているが,mRNA分子全体が二次構造を形成していると推測される。定常期の大腸菌の生存においてrmfの翻訳がどのように調節されているのかは明らかでない。本研究においてわれわれは,大腸菌rmf mRNAについて翻訳の基本的なcis因子であるリボゾー厶結合部位(ribosome binding site: RBS)の特定を行なった。開始コドンの-2~-5ntおよび-11~-14 ntにRBS候補であるGAGG配列が存在する。そこで部位特異的突然変異導入によりプラスミドpMW118にクローン化されたrmfのGAGG配列にGGからAAへの塩基置換を導入した。これらの変異が翻訳開始に影響を及ぼすか否か調べるため,各変異株でrmf mRNAレベルが変化していないことを確認した後,Western法によりRMFを解析した。その結果,開始コドンの-11~-14 ntのGAGG配列に塩基置換を導入した変異株ではRMFが検出されず,この領域が主要なRBSであることが示唆された。
  • 大森 嘉彦, 鈴木 瞳, 松本 裕文, 北澤 暁子, 安井 英明, 坂本 穆彦, 菅間 博
    2008 年 39 巻 3+4 号 p. 69-78
    発行日: 2009/08/15
    公開日: 2009/09/11
    ジャーナル フリー
    甲状腺乳頭癌は増殖速度が遅く培養細胞株の樹立が難しいため,その実験モデルとなる細胞は少ない。甲状腺乳頭癌由来の3種の培養細胞,KTC-1,TPC-1,K-1の病理生物学的特性を,未分化癌由来の2種の培養細胞,TTA-1,TTA-2と比較検討した。
    各培養細胞の増殖はKTC-1,TPC-1,K-1の順で,KTC-1が最も遅く,K-1が最も早くTTA-1,TTA-2とほぼ同等であった。細胞形態学的には,KTC-1とTPC-1は比較的均一で,特にKTC-1は細胞極性,濾胞様の配列を示した。K-1はより多型が強く,巨細胞が混在し,TTA-1,TTA-2に類似していた。甲状腺特異的転写因子TTF-1タンパク質はKTC-1で発現したが,TPC-1,K-1およびTTA-1,TTA-2では発現しなかった。癌抑制遺伝子p53の遺伝子産物であるp53タンパク質の過剰発現はTTA-1,TTA-2ではみられるが,KTC-1,TPC-1,K-1では認められなかった。KTC-1はSCIDマウスへの移植により,乳頭癌類似の核所見を示す小腫瘤を形成した。K-1はNudeマウスへの移植で索状から充実性の腫瘍を形成した。TPC-1はSCIDマウス,Nudeマウスの何れでも移植腫瘍を形成しなかった。また,TTA-1,TTA-2は急速に増大する腫瘍を形成し,短期間でマウスは死亡した。
    甲状腺乳頭癌由来の培養細胞の特性を比較検討した結果,KTC-1,TPC-1,K-1の順に乳頭癌としての病理生物学的特性を保持していることが明らかとなった。KTC-1は甲状腺乳頭癌のモデル細胞として有用と考えられる。
  • 林 滋
    2008 年 39 巻 3+4 号 p. 79-86
    発行日: 2009/08/15
    公開日: 2009/09/11
    ジャーナル フリー
    外来通院の高齢者の動脈硬化性疾患390名を対象として,動脈血管硬化指数(Arterial Stiffness Index: ASI)を約4年間観察し,ASI値と年齢との関係,ASI値区分毎の患者数の分布,ASI高値群と低値群での死亡率,男女比,基礎疾患,頸動脈内中膜厚,血小板凝集値,血液検査値(Hb,TP,Alb,TC,TG,HDL,BUN,Cr,HbA1C,CRP)を比較した。ASIと年齢はr = 0.31(p < 0.001)で弱いながら正の相関が得られ,ASI値の患者数分布はASI値70以下,71~140,141以上はそれぞれ約30%であった。ASI値の高低と死亡率の関係は認められなかった。
    ASI 211以上群と210以下群では,死亡率はそれぞれ9.5%,3.4%で,ASI値281以上群と70以下群では12.5%,2.6%であったが,共にその差は有意差ではなく,また年齢,性別は死亡率に交絡作用を示さなかった。ASI高値群(211以上)と低値群(70以下)の基礎疾患の比較では,前者で糖尿病と慢性腎臓病が有意に多く含まれていた。臨床データの比較では,BUN,Cr,HbA1C,mIMT, 血小板凝集値が高値群で有意(p < 0.01~p < 0.001)に高く,Hb, HDLが有意(p < 0.01~p < 0.001)に低かった。
    ASIは高齢者において死亡率とは関連がみられなかったが,ASI高値群では慢性腎臓病と糖尿病が有意に高頻度で,血栓・動脈硬化増悪因子が有意に高値であった。
  • 佐藤 一樹, 坂田 好美, 水野 宜英, 南島 俊徳, 曽我 有希子, 古谷 充史, 田口 浩樹, 武本 和也, 吉野 秀朗
    2008 年 39 巻 3+4 号 p. 87-95
    発行日: 2009/08/15
    公開日: 2009/09/11
    ジャーナル フリー
    経静脈的心筋コントラストエコー法(MCE)は,心筋内血流と冠微小循環を非観血的に視覚的に評価できる方法である。また,ジピリダモール(DIP)負荷は冠動脈盗血現象により心筋虚血を誘発し,冠動脈狭窄を診断する薬物負荷法である。今回,我々は経静脈的低用量ジピリダモール負荷心筋コントラストエコー法(低用量DIP-MCE)の狭心症症例の心筋虚血の診断に関する有用性および安全性につき検討した。対象は,安定労作性狭心症,無症候性心筋虚血などの冠動脈狭窄が疑われ,冠動脈造影を施行した111例である。低用量ジピリダモール負荷は0.56mg/kgを静注して行った。本研究のMCEでは,超音波造影剤レボビストを静注し,微小気泡を破壊し高調波信号を発生させる間歇送信法,およびその高調波信号を選択的に検出し解析するウルトラハーモニック法を用い,負荷前後の心筋染影画像を描出した。負荷前および負荷後1:6間歇送信画像と比較し,負荷後の1:1間歇送信画像で心筋染影低下を認めた症例を心筋虚血誘発例とした。冠動脈造影上70%以上の冠動脈狭窄を認めた症例は111例中34例(45病変)であった。低用量DIP-MCEによる70%以上の冠動脈狭窄病変の診断率は,感度80.0%,特異度90.3%であった。冠動脈病変ごとの診断率は,左主幹部病変で感度100%,特異度100%であり,右冠動脈病変では感度75.0%,特異度89.5%,左前下行枝病変では感度85.7%,特異度90.7%,左回旋枝病変では感度80.0%,特異度90.6%であった。検査による重篤な有害事象発生は1例も認めず,軽度の有害事象が7例(6.3%)に認められたのみであった。低用量DIP-MCEが,冠動脈狭窄による心筋虚血を非観血的に視覚的に評価できる,安全性の高い有用な方法であることが,本研究によって証明された。
  • ―パイエル板における抑制性T細胞生成の可能性―
    駒形 嘉紀, 永谷 勝也, 山本 一彦
    2008 年 39 巻 3+4 号 p. 96-106
    発行日: 2009/08/15
    公開日: 2009/09/11
    ジャーナル フリー
    経口的に投与された抗原に対しては全身的な免疫寛容が誘導されoral toleranceと呼ばれているが,その詳細なメカニズムは明らかでない。経口投与された抗原のパイエル板内での動態と細胞相互作用の解明のため,卵白アルブミン(OVA)を蛍光標識してBALB/cマウスに経口投与したところ,パイエル板内のSED領域において樹状細胞に取り込まれていることが観察された。さらに,OVA TCRトランスジェニックマウスのOVA特異的ナイーブT細胞を移入した上でOVAを経口投与したところ,T細胞はパイエル板のIFR領域に集積しており,そのT細胞を回収して遺伝子発現パターンをrealtime PCRで調べると,FoxP3陽性の抑制性T細胞(Treg)と同様であった。また腸管指向性マーカーのCCR9も強く発現していた。このことより,経口抗原を取り込んだパイエル板内の樹状細胞が抗原特異的なナイーブT細胞を局所において腸管指向性をもつ抑制性T細胞に誘導している可能性が示唆された。
杏林大学学位論文要旨および審査要旨
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