杏林医学会雑誌
Online ISSN : 1349-886X
Print ISSN : 0368-5829
ISSN-L : 0368-5829
44 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
  • 相磯 聡子
    原稿種別: 総説
    2013 年 44 巻 2 号 p. 39-42
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
     腸管出血性大腸菌ゲノムの約1.4Mbの挿入領域には,病原性に関わる因子として志賀毒素の遺伝子のほか,Locus of Enterocyte Effacement(LEE)が存在する。LEEは3型タンパク質分泌システムをコードしており,この働きにより腸管出血性大腸菌の腸粘膜への定着が確実なものになる。腸管出血性大腸菌はK-12株同様,グルタミン酸依存性酸抵抗(GDAR)システムをもち高い酸抵抗性を示す。このことは本菌が低doseで病原性を表す原因にもなっており,ゆえに酸抵抗性システムは病原性因子の一つと考えられる。さらに近年,腸管出血性大腸菌O157: H7株においてGDARシステムの正の制御因子GadEがLEEの発現を制御することが明らかになった。
  • 相見 祐輝, 片岡 雅晴, 水見 彩子, 佐藤 徹, 吉野 秀朗, 岡 明, 小野 正恵, 蒲生 忍
    原稿種別: 総説
    2013 年 44 巻 2 号 p. 43-51
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
     肺動脈性肺高血圧症Pulmonary Arterial Hypertension(PAH)は肺動脈の内膜や中膜の肥厚を原因として肺動脈圧が上昇し,右心不全を起こす生命予後不良の難治性の呼吸器・循環器疾患である。PAHは膠原病やその他の疾患に合併して発症するものが多いが,約1/3には特定の原因が見いだせない特発性の症例IPAHや家族性発症が見られる症例FPAHが存在する。1997年にFPAHの原因遺伝子が2番染色体上に,その後の国際的な協同研究等で2型骨形成タンパク受容体Bone Morphogenetic Protein Receptor type II(BMPR2)遺伝子の変異,さらに近年ではエキソン欠失が発見され,遺伝的背景の重要性が指摘されてきた。現在ではFPAHの約60%,IPAHでは10-40%にBMPR2の変異が報告されている。杏林大学ではPAH患者のフォローアップが常時行われており,我々はPAH患者のBMPR2遺伝子の解析をPCR-ダイレクトシークエンス法とMultiplex Ligation-dependent Probe Amplification法を組み合わせた方法で進めてきた。その結果,12種類のBMPR2の遺伝子変異と2種のエキソン欠失を検出し,エキソン欠失では切断点を明らかにした。この変異の頻度は他からの報告と比べ,特に低いものではない。ただ,現在の解析手法では転写制御領域やスプライシング変異等の解析はほとんど手付かずであり,まだ変異を見落としている可能性や変異の評価についての問題点がある。次世代型のシークエンサー等を利用しより広い範囲の解析を行い,in vitroの実験系で検証し,実用的な診断システムとして確立する必要がある。
Original Article
  • Hiromi Ota, Koji Teruya, Tomomi Katagiri, Sachiko Oki
    原稿種別: Original Article
    2013 年 44 巻 2 号 p. 53-63
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
    Objective: To conduct a three-year longitudinal study targeting community-dwelling elderly adults in order to examine the relationship between changes in social network status and depression.
    Method: An initial self-report questionnaire was administered in 2008 to 2,384 elderly people between the ages of 65 and 80, living in City A of the Greater Tokyo Area. A follow-up survey was conducted in 2011, targeting the 1,858 respondents from the previous survey. The resulting 1,364 respondents (678 men, 686 women; effective response rate=73.4%) were included in the final analysis. We used regression analysis to investigate the relationship between depression and social networks. Social network status was determined by three factors: “whether or not they participate in community activities,” “frequency of social exchanges with friends,” and “the degree of interaction with neighbors.” In addition, we examined whether changes in social networks over three years influenced depression tendency.
    Results: The following factors were related to a greater likelihood of depression among elderly people: “ceased participation in community activities,” “ceased social exchanges with friends,” “continuing to have few social exchanges with friends,” and “continuing to have a low degree of interaction with neighbors.”
    Conclusion: The results of this study showed that several social network factors are related to depression tendency among community-dwelling elderly people. These findings suggest that an effective way of preventing depression may be to intervene in cases where elderly people have ceased participating in community activities and have reduced social interactions with friends, providing support that encourages interactions with neighbors.
特集
  • 古瀬 純司, 長島 文夫
    原稿種別: 総説
    2013 年 44 巻 2 号 p. 65-69
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
     固形がんに対する化学療法の目的は,多くの場合延命と症状緩和である。抗腫瘍効果の高い治療法が開発され,完全消失例も散見されるようになったとはいえ,基本的に治癒を期待して行うものではないことを理解する必要があり,ベネフィットとリスクとのバランスを考慮して適応を考えることが重要である。一方,進行がんに対する切除の治療成績向上のため,様々な補助療法が行われている。多くは術後の補助療法であり,胃がん,大腸がん,膵がん,肺がんなど多くの疾患で術後補助化学療法による生存期間の延長が証明されている。抗がん剤は有効域と毒性域の差が小さく,有効性を期待する用量用法で容易に副作用が発生する。つまり,他の薬剤に比べ,安全性への配慮が重要となる。また,最近では分子標的薬など新しい薬剤が次々と登場し,適応や副作用対策も複雑となっている。化学療法の安全確実な実施を進めるため,杏林大学病院では腫瘍内科を中心としてがんセンターを運営している。本学がんセンターでは,安全管理として,レジメンの評価と登録,複数のスタッフによるチェック,化学療法専用のエリアでの実施が進められている。近年,がん化学療法の進歩は著しいが,より有効な治療法の開発や高齢者に対する適切な治療適応など,まだまだ課題も多い。これらの課題克服には,質の高い臨床試験を進めていく必要がある。
  • 大塚 弘毅, 大西 宏明
    原稿種別: 総説
    2013 年 44 巻 2 号 p. 71-80
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
  • 阿部 展次, 竹内 弘久, 大木 亜津子, 長尾 玄, 森 俊幸, 杉山 政則
    原稿種別: 総説
    2013 年 44 巻 2 号 p. 81-89
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
     胃癌と胃粘膜下腫瘍における標準的な内視鏡・外科治療と,教室で新たに開発した治療に焦点を当てて概説した。我が国では,スクリーニングによって胃癌を早期に発見することで,内視鏡的粘膜下層剥離術に代表される内視鏡的治療や腹腔鏡下手術など,低侵襲かつ機能温存を目的とした治療法の開発・普及が急速に進んでいる。総じて,胃癌治療においては治療方針が系統的に細分化され,個々の病態に合わせたテーラーメイド的治療が実現しつつある。胃の粘膜下腫瘍に対しても,内視鏡的治療や腹腔鏡下手術が広く浸透しつつあり,新たに発刊された診療ガイドラインの認知も進んできた。また,教室では内視鏡的治療や腹腔鏡下手術を併用した新たな戦略を開発し,一部の早期胃癌,胃粘膜下腫瘍に対する究極の低侵襲オプションとして期待されるようになっている。
  • 川名 典子
    原稿種別: 総説
    2013 年 44 巻 2 号 p. 91-95
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
    がん患者の心理的反応は,正常範囲内の不安,落ち込みから,精神科診断レベルまで幅広いと同時に,反応として現れる症状も情緒・気分の変化に留まらず,身体症状,暴言暴力といった問題行動にまで多岐にわたっている。これらの事象への対応は,全て,がん患者の心のケアとして取り組むべきものである。杏林大学病院では,主としてがんセンターおよび看護部が主体となって,がん患者の心のケアに関する研修会やプログラムが実施されている。本稿では,NHS-NICE の4 段階に添って,当院で提供されている,医療者のための研修プログラム,がん患者の相談体制,患者および家族のための支援プログラムについて紹介する。
  • 小柏 靖直, 甲能 直幸
    原稿種別: 総説
    2013 年 44 巻 2 号 p. 97-101
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
    頭頸部癌の治療の現状と展望について概説する。放射線化学療法の新しいレジメンの開発により進行癌においても喉頭温存が可能になってきた。また,分子標的薬もいよいよ昨年末より頭頸部癌に対して保険適応となり,今後ますます予後やQOLを改善し得る治療が開発される可能性が高くなってきた。手術治療においてはセンチネルリンパ節生検術が取り入れられてリンパ節転移をできるだけ早い段階で正確に診断可能となりつつある。経口的咽喉頭切除などの新しい取り組みも出現してきた結果,血管吻合などの再建を要する大きな手術を行わなくても進行癌に対応できる可能性が出てきている。今後の頭頸部癌治療においては,他領域同様に危険因子や発癌因子により治療を細分化する取り組みがなされていくものと予想される。
  • 森井 健司
    原稿種別: 総説
    2013 年 44 巻 2 号 p. 103-111
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
     原発性悪性骨・軟部腫瘍および癌骨転移の診断と治療に関する基本的知識を概説する。
     原発性悪性骨・軟部腫瘍はきわめて多数の疾患概念の総体であり,管理には特殊なスキルが要求される。化学療法や放射線治療に対する感受性や,外科的治療の際に求められる切除縁は個々の腫瘍によって異なる。治療方針は臨床経過,理学所見,画像所見および病理組織学的所見の総合的解釈によって得られた確定診断に基づいて合理的に決定される。本疾患群は希少がんにあたるが,専門外の医師でも日常診療において本疾患群に遭遇する機会は意外と多く,本疾患に対する基本的知識をもつことが治療成績の向上につながる。
     また,近年癌骨転移に対して外科的治療を含む積極的な介入が行われている。到達目標を明確にした適切な治療法の選択は,癌の終末期と考えられる骨転移を持つ患者において効果的に生活の質を改善する。治療法は多彩であり,生命予後,全身状態などの患者の状態によって選択されるべきである。
  • 高山 信之
    原稿種別: 総説
    2013 年 44 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/03
    ジャーナル フリー
     造血器腫瘍には多くの疾患が含まれるが,急性白血病,慢性骨髄性白血病,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫が主な患者層を占める。いずれも薬物療法に対し高感受性であることが特徴で,治癒を目指した治療が積極的に行われる。そして,造血幹細胞移植という化学療法に細胞療法を加えたダイナミックな治療が可能であるのも造血器腫瘍の特徴である。疾患の予後は様々であり,近年の分子標的治療薬を始めとする新薬の導入により著しく予後が改善した疾患もあれば,古典的な化学療法に改良を重ねることにより地道な進歩を遂げている分野もある。造血器腫瘍は,内科的治療のみにて,一定の割合で治癒が達成できる数少ない腫瘍であり,臨床腫瘍学の中でも今後益々注目が集まる領域である。
杏林大学学位論文要旨および審査要旨
feedback
Top